金ぴかぴか
俺はあまりの眩しさに目をつむってしまう。
――ジャーン!! ファン!ファン!ファファーン!
恒例の天からの音は、宮廷に響く豪華なファンファーレのようだった。
金色の光が収まり、まぶたを開く。
目の前には、一人の女の子がいた。
女神を思わせる緩やかにウェーブする長い金髪と、魔族がごとき褐色の肌。
二重まぶたの大きな金色の瞳に、細く整った眉。
そして、軽装備の金色の鎧を着ている。
パッと見た目の印象は「派手」につきる。
その女の子が俺の顔を見て、ニカッと笑った。
「んーっ? 私を人間にしたのって君?」
「そ、そうだけど」
「マジで!? 超嬉しいんですけど! ありがたみが深すぎるって感じ?」
金髪女子はそう言うと、俺の目の前までグイグイと寄ってきた。
そして、俺の顔をまじまじと見つめると
「ヤッバ、結構イケメンじゃん! やるじゃん!」
と言って、やけに親しげに肩をバンバンと叩いてきた。
「ねえ、名前は?」
「アランだけど……」
「ヤッバ、名前もイケてんじゃん!」
また肩をバンバンと叩かれた。
あー、この人との心身の距離感をあっと言う間に詰めてきて、かつ一方的に上から目線で話す感じの子、俺知ってるわ。
勇者育成学院時代のクラスで、リューイの周りにいたわ、こういう子。
正直、俺が一番、苦手とするタイプである。
などと考えつつ、上位竜たちの方を見ると、なんと全6匹が腹を大地に付けて伏せ、頭をたれていた。
頭上に渦巻いていた上位魔法は完全に消えている。
その静粛な様子は、まるで女王の前にかしずく騎士のようだった。
白い上位竜が口を開く。
「竜王様、お帰りなさいませ。我らこの時を2千年間、待ち焦がれておりました」
『お帰りなさいませ』
他の5匹も声をそろえた。
竜王?
誰が……って1人しかいないか。
俺は目の前の金ぴかど派手な女の子を改めて見つめた。
なるほど、元々は竜王の体の一部であった「竜王の逆鱗」を擬人化すれば、竜王の特性を持った人間になる。
つまり、その人間は竜王そのものということだ。
どうやら俺は、2千年前に途絶えた竜王の血族を復活させてしまったようだ。
これは上位竜たちから逃れるチャンスだ!
竜王に上位竜たちを押し付けて、俺はさっさとトンズラするのだ!
「ほら上位竜たちが呼んでるよ。竜王は竜王らしく、ドラゴンを従えないと」
俺は竜王の肩に手を置き、その身を反転させた。
竜王は上位竜たちに向かって「ヨッ」と軽く右手を上げた。
そして、
「みんな、元気ぃ?」
と、これまた軽い感じで聞いた。
『ありがたき、お言葉。我らみな、つつがなく息災であります』
上位竜たちは、さらに頭をたれた。
すると、ライナはクルリと反転して、また俺の方を向いた。
「元気だって!」
「いや、そういうことではなく!」
そうか、説明がいるな。
俺は、上位竜たちがここにそろっている経緯を話し、ついては俺に今後一切関わらないように命令するようにお願いした。
「頼むよ、竜王!」
「んーっ? 別にいいけどぉ。その前にチョット、気になることがあってぇ~」
竜王は右手の人さし指で、顔の横にたれる自分の髪をクルクルと巻きながら話した。
「私の名前って、竜王でいいんだっけ?」
いや、知らんがな。
「な~んかさ、もっと、イケてる名前がある気がすんだよね~」
そう言うと、竜王は金色の瞳で俺を見つめてきた。
「アランなら、私の名前、知ってんじゃない?」
ドキリとした。
これは、恒例の名付け親になる展開だ。
つまり、ここで竜王の名前を付けると、その後に妙に懐かれることになる。
しかし正直いって、今はメルとクレン、キョウの相手だけで精一杯だ。
これ以上、ポンコツ娘は周囲に必要ない。
まあ、「吸血の魔剣」が擬人化した妹キャラのレイアスちゃんなら別だがな!
ということで、俺は名付け親になることを全力で回避することを決めた。
「名前は知らないな」
「えっ? なんて?」
「だから、名前は知らないな、って言ったの」
「もう1回言ってみ?」
「名前は知らないな!」
「名前は、ライナ?」
おい、どんな耳してんだよ。
「ライナなんて言って……」
しかし、俺が必死に否定しようとしたその声は、竜王の歓喜の声によって打ち消された。
「ライナ! それ、それ! その名前だよ!」
そう言うと、竜王は笑顔で俺に抱きついてきた。
「アランにライナって呼ばれて、なんか胸がキューってなった!」
満面の笑みで俺をギューってする竜王。
「いや、呼んでないし……」
竜王を引きはがそうとした俺は、前方から身の毛が立つような敵意を感じた。
そして、前方の上位竜たちを見て、クラッと血の気が引いた。
6匹全員が俺を睨んでいる!
おい、状況が擬人化の前に戻ってるじゃないか!
どうやら、大切な竜王様が俺に抱きついているのが許せないらしい。
そりゃあ、2千年も待ち焦がれたお姫様が、大喜びで人間に抱きついてるのだから気分も悪くなるだろう。
「……ちょっと、離れようか」
俺は結構強めに竜王を突き放そうとしたのだが、これがビクともしない。
あれ? 力っ、強いな!
必死に竜王の腕をほどこうとしたのだが、なぜかもっと強くギュウと抱き締められてしまう。
そんな竜王の顔を見ると、金色に輝いたような笑顔を浮かべていた。
「思い出した! ライナって、私の真名じゃん!」
「へー、そうなんだ。ちょっと、離れようか」
「じゃあ、私たち、結婚するしかないじゃん!」
「へー、そうなんだ……って、なんでそうなるんじゃ!」
「だって、真名で呼ばれた相手と結婚するのが竜族の掟だしぃ~」
「知らん! そんな掟は知らん! そもそも真名で呼んでない!」
しかし、竜王は俺の反論などまって無視し、クルリと反転して上位竜たちを見渡した。
「みんなに紹介しま~す。ライナのだんな様のアランで~す」
竜王をニコニコと俺の左腕を引っ張ると、その腕に抱きついてきた。
途端、上位竜たちの敵意が殺気に変わったのが分かった。
あまりの気の高まりにビリビリ、ヒリヒリと空気が震えている。
白竜が俺の見据えて「殺す」と言った。
それに黒竜と赤竜が『殺す』と続ける。
さらには、以下3匹も同文……。
奴らの目つきを見て、今までのどの状況よりも本気で怒っていることが分かった。
明らかに、スキル「擬人化」行使前よりも状況が悪化してしまった。
――どうしてこうなった?




