空に舞い上がれ
まるでバカでかい隕石だった。
それが、俺の頭上に降ってきた。
「ちょっ、マジで、潰されるぅううう!!」
必死に走って逃げる俺の背後で
――ドッガアアアアアン!!!
と、大爆音が巻き起こった。
衝撃音と振動、巻き上がった大量の土砂に背中を押され、そのまま大地にダイビングする羽目になった。
「痛っ」
顔に付いた土砂を振り払って起き上がり、背後を見る。
大地に大きな衝突跡ができていた。
まるで、火口の中にもう一つの火口ができたかのようだ
その新しい火口の中で、上位竜6匹が肉弾戦の大乱闘を繰り広げていた。
――グゥウウウオオラアアアアア!!
どの上位竜も、ドラゴンのどう猛さを丸出しで噛んだり引っかいたりして暴れ回っている。
各属性のトップを司る知性や理性なんて微塵も感じない。
なにせ、空に舞う1枚の鱗を手に入れれば、他の属性のドラゴンたちも全て従えられるのだ。
上位竜たちがムキになって奪い合うのも無理はない。
「やはり獣は獣だな」
俺は「竜王の逆鱗」を手放すという自分の作戦がまんまと成功したことに、ひどく満足した。
「さて、スキル『飛翔』で逃げるか……」
すると、飛び上がろうとして見上げた空から、輝く何かが落ちてきた。
――ヒラリ、ヒラリ。
1枚の金色の鱗が頭上に落ちてきた。
確認するまでもなく「竜王の逆鱗」だった。
上位竜たちの大乱闘によって巻き起こる風に乗って、ここまで飛んできたのだろう。
「おいっ! 戻ってくるなよ!」
俺は「竜王の逆鱗」をつかむと、再び上位竜たちがいる上空に放り投げようとして、後ろを振り返った。
そして、ゴクリと息を飲んだ。
目前に6匹の上位竜が居並んでいた。
近すぎず、遠すぎず。
おそらく「竜王の逆鱗」の効果が及ばないギリギリの距離。
その距離を保ちつつ、6匹の上位竜たちが俺をにらんでいる。
しかも、それぞれの頭上には、各属性の最強魔法がすでに完成した状態で浮いていた。
一歩でも動けば総攻撃される。
しかも、この距離では全ては避けられないだろう。
「えーと……喧嘩はもうやめたのかな? これからまた『竜王の逆鱗』を空に投げますよ…?」
ぜひ、そうさせてほしかったのだが、6匹全員に「グルウウウウ」と唸られたので、慌てて投げるのをやめた。
「勇者よ。我に竜王様の鱗を寄こせ」
白い上位竜が話し掛けてきた。
怒りを押し殺した声だ。
「あの……渡せば、もろもろ許してくれます?」
「いいだろう」
やったああ!
喜んで白い上位竜に向かって、金の鱗を差し出そうとした。
すると、白竜の左隣にいる黒竜が地の底から湧き上がるような重低音で声を上げた。
「勇者よ。我に竜王様の鱗を寄こせ。さもなければ、殺す」
「はっ、はい!」
黒竜の方に金の鱗を向けると、その左隣にいる赤竜が荒ぶった声を出した。
「勇者よ。我に竜王様の鱗を寄こせ。さもなければ、殺す」
「あっ、渡します!」
すると、今度は赤竜の左隣の青竜が透き通った高尚な声で命令してきた。
「勇者よ。我に竜王様の鱗を寄こせ。さもなければ、殺す」
続いて、緑竜と斑竜も声を上げた。
『勇者よ。我に竜王様の鱗を寄こせ。さもなければ、殺す』
「えーと、どうすればいいのかな……?」
俺は「竜王の逆鱗」を乗せた右手を6匹の竜の前で行ったり来たりさせた。
上位竜たちは、自分の前に金色の鱗が来ると満足げに頷き、それが隣に行くたびに「殺す」と脅してきた。
どの竜に渡したところで、俺の死刑は決定ですか?
ああ、もう、どーせいと言うのじゃ!
「あの……誰に渡せばいいのか、上位竜同士で話し合って決めてもらえないかな」
俺は、白い上位竜をすがるように見上げた。
なんだかんだ言って、こいつが一番話しが通じやすそうだ。
だが、
「我に渡せ。さもなければ、殺す」
と堂々巡りしてしまった。
そして、俺が右手をウロウロとさせている間に、上位竜たちの頭上に浮かぶ最強魔法がジリジリと前方に押し出てきた。
このまま焦らしてると、辛抱たまらずに総攻撃される予感が大だ!
どうする俺!?
俺はこの場に役立つ魔法やスキルがあるかどうか、頭の中で思い浮かべた。
そうだ……。
あれが使えるな。
俺は上位竜6匹に向かって、努めて明るい声を上げた。
「じゃあ、『竜王の逆鱗』に自分で選んでもらおう!」
俺は、スキル「擬人化」を使うことを決めた。
アイテム「竜王の逆鱗」を人間にして、そいつにどの竜の元に行くか選んでもらおうと考えたのだ。
これなら、どんな結果であれ俺の意志とは無関係なので、俺が残る上位竜5匹の恨みを買うことはない。
いぶかしげに唸る上位竜たちを尻目に、俺はさっさと自分の作戦を実行する。
早くしないと、一番アホっぽい赤竜が魔法を発射しそうだったからだ。
アイテム「竜王の逆鱗」右手を掲げて、俺は叫んだ。
「スキル『擬人化』!!」
その途端、右手の「竜王の逆鱗」が世界を照らすほどに強く輝きだした。
――金、金、金、金色。
世界のすべてが荘厳な金の光に包まれていく。




