総攻撃を避けろ
「貴様たちは、ここで死ぬのだ……」
遠くの背後から怒りと苦痛に満ちた声が聞こえてきた。
振り返ると、少し離れた場所で、白い上位竜がゆっくりと身を起こしているところだった。
なんだ、死んでなかったのか。
白い上位竜は俺とリューイを睨みつけた。
「恥を忍んで、全ての上位竜を呼び寄せた。我ら6匹で必ず貴様らを殺す!」
上空の上位竜の戦闘力をスキル「能力値開示」で測ってみる。
5匹とも仲良く5千前後だ。
白い上位竜と合わせると、戦闘力は約3万か……。
確かに、俺とリューイ2人に通常ならば勝ち目はない。
そう通常ならば。
「おいおい、上位竜さんよ。忘れてもらっちゃこまるぜ」
俺は余裕をぶっこいて、呆れたように肩をすぼめてみせた。
「こっちには『竜王の逆鱗』があるんだ。6匹そろって、俺たちの支配下に置かれたいのか?」
俺は「竜王の逆鱗」をしまってある胸当てをポンッと叩いた。
すると、リューイが俺の袖を引っ張って、俺の耳元に顔を寄せた。
「アラン。上位竜は気付いているようだが、そのアイテムはな……」
「うん?」
「ドラゴンのすぐそばまで近寄らないと効果が発揮できないんだ」
「へえ~、そうなんだ……」
冷や汗が背中をつたった。
俺も小声で話す。
「リューイ、そのことは空にいる上位竜たちも知っていると思うか?」
「おそらくは。上位竜同士は人間には聞こえない声域で会話できる。5匹が上空にいたまま、降りてこないことがその証拠だ」
「へえ~、そうなんだ……」
ヤバいじゃん!
俺の脳内で「逃げる」という選択肢が最上位に浮上した。
リューイをチラリと見ると、俺と同意見のようでコクリと頷いた。
以心伝心!
ああ、これぞ友達!
「行くぞ!」
「おう!」
俺とリューイは白い上位竜に背を向けると、火口のへりに向かって一気に駆け出した。
「逃がすか!」
白い上位竜の怒号が聞こえた。
肩越しに振り向くと、白い上位竜は翼をはためかせ、空へと飛び上がろうとしているところだった。
それを合図に、上空にいる上位竜5匹が一気に高度を下げた。
上位竜6匹は空を飛びながら、走る俺たちに向かって怒濤の遠隔攻撃を仕掛けてきた。
光属性の白竜は雷を降らし、闇属性の黒竜は何でも吸い込む黒い球体を飛ばす。
炎属性の赤竜は巨大な炎を吐き、風属性の緑竜が巻き起こした竜巻が、赤竜の炎を巻き込んで威力を上げる。
水属性の青竜は氷の塊をぶつけてきて、毒属性の斑竜はゲロみたいな毒の塊を浴びせてきた。
俺はそれらの攻撃を避けるために必死に走った。
「だぁぁりゃあぁぁあああああ!」
持てる防御魔法、スキルを駆使して、何とか攻撃をかわす。
しかし、避けることが精一杯になり、思ったように逃げられない。
リューイは無事か?
俺は上位竜の猛攻撃を必死にかわしながら、友の身を気遣った。
しかし、リューイの姿は、俺の近くには見当たらなかった。
というか、上位竜6匹とも、さっきから俺しか攻撃していないような……。
あっ、そうか。
俺が「竜王の逆鱗」を持っているから、上位竜たちはまずは俺を仕留めようとしているのか!
ならば今、リューイは防御に時間を割く必要はなく、攻撃ができるはずだ。
リューイが上位竜に一撃でもぶち込めれば、俺が逃げられるチャンスが増える!
ああ、友よ助けてくれ……って、だから、リューイはどこ行った?
黒い稲妻が大地を走り、炎の柱が前方に立ち上がり、横なぐりの暴風が吹き荒れ、毒の雨が降る。
これらの攻撃を走って跳んで飛んで必死に避けつつ、友の姿を追い求めると、その姿は俺の予想外の場所にいた。
なんと、すでに火口のへりにたどり着いていた。
遠くにいて豆粒ぐらいの大きさになったリューイは、俺に向かって二、三度手を振ると、ヒョイとへりの向こう側に消えた。
「一人でぇえええ、逃げやがったぁぁああああ!!!」
これが友達にする仕打ちかよ!
いや、俺が自己犠牲で友を逃がしたと考えよう……。
って、納得できるかぁぁぁああああ!!
俺は、上位竜の遠隔攻撃を避けるために必死に走りながら、胸当ての内側に手を入れた。
こうなったら、一か八か「竜王の逆鱗」を使うしかない。
なんとか1匹の上位竜の近くに寄って、アイテムを行使する……。
いや、そんなことをしている隙に他の5匹にやられる。
では、どうするか……。
そうだ!
やつらが俺だけを攻撃する理由を逆手に取ってやる!
「そんなに欲しけりゃ、くれてやる!!」
俺は懐から「竜王の逆鱗」を取り出した。
そして、その金色の鱗を迷わず空に放った。
黄金の一かけらが、ふわりと青空に舞い上がる。
その途端、上位竜6匹の雨あられの攻撃が止んだ。
6匹の視線は、高く高く空を舞い上がっていく1枚の鱗に吸い寄せられる。
よしっ!
この隙に逃げるてやる!
と決めた、その瞬間。
――グッッラアアアアアアアアアオオオオ!!!
巨大な上位竜6匹が、空に漂う小さな1枚の鱗を目がけて殺到した。
6匹は「竜王の逆鱗」を中心にバカでかい頭をぶつけ合い、互いに身動きが取れない状態になった。
力が拮抗しているのだ。
上位竜の頭でできた円の中心で、金色の鱗はヒラヒラと舞い続けている。
――ギャラッラアアアアアアアアアアアア!!!
6匹は互いに咆哮すると、相手を尻尾で打ち、爪で引っかき始めた。
喧嘩だ。
上位竜が「竜王の逆鱗」をめぐって、壮絶な肉弾戦を始めたのだ。
城のような巨大な6匹が、絡み合いもつれ合い、一つの超巨大な塊になる。
空を飛ぶことを忘れた竜たちの塊は、大地に吸い寄せられるように火口へ落ちてきた。




