火口の激闘
無数の巨大な牙が上下から迫ってくる。
大きく飛び退いて、それをかわすと、上位竜の頭上にいたリューイが俺の着地点にぶっ飛んで来た。
半身そらして、奴の上段斬りをかわす。
隙あり!
と、リューイの横っ腹に蹴りを入れようとしたが、上位竜の尾が左から、前脚の爪が右から襲ってきたので、慌ててまた飛び退く。
すると、その着地点にすかさずリューイが身を躍らせてきて、刃を振るった。
鋭い突きからのなぎ払い……いや、これはフェイントで、本命はその後の右足の蹴り!
「グッ!」
左腕でリューイの蹴りを受け止めつつ、スキル「跳躍」で右側に大きく跳んで距離を取った。
リューイは上位竜の頭上に再び跳び乗ると、俺に向かって冷たい笑みを向けた。
「さすがだなアラン。だが、俺たちの方が強い」
「はんっ、どうってことないけどね」
減らず口をたたいて見せたが、内心は冷や汗をかいていた。
リューイの蹴りを受けた左腕は骨折していた。
それを悟られないように、スキル「超回復」で急いで治す。
リューイと上位竜の連携攻撃は、かなりやっかいだ。
ベルド竜騎士団の戦闘の真骨頂は、ドラゴンの機動力を生かした空中戦ではなく地上戦だ。
騎士の剣と、ドラコンの牙と爪、尾による人竜一体の波状攻撃は戦場で無敵の強さを誇っている。
だが、勝機はある。
リューイと上位竜の戦闘力の合計が俺より高くとも、戦い方によっては数値など覆せる。
あの人に教えてもらった、あの技を試すか……。
「アラン、死ぬ覚悟はできたか?」
リューイが剣を上段に構えた。
「まあね。覚悟はできた」
「ならば、死ね!」
再び上位竜が口を開き、俺の真っ正面から襲ってきた。
左からは爪、右から尾の同時攻撃だ!
逃げ場は後ろだけだが、飛び退けば、そこではリューイの攻撃が待っている。
後ろは死地だ。
ならば、行き場は一つしかないよな!
「前進あるのみ!」
俺は剣を下段に構え、前方に迫る上位竜の巨大な口めがけて走った。
「バカめ! 食われろ!」
無数の巨大が俺に迫る。
上位竜が俺の体を口に入れる直前、俺はスキル「飛翔」を発動する。
牙と牙の隙間をぬって飛び、上位竜の口の横へと飛び出す。
――バックン!
口が閉じられる派手な音を背に、俺は頭上のリューイ目がけて一直線に飛ぶ。
その勢いを生かし、リューイに向かって下段から剣を振り上げた。
リューイの剣が俺の刃をガッチと受け止める。
間髪を入れず、上位竜の尾の先が俺に向かって迫ってきた。
「串刺しだ!」
リューイの歓喜の声を聞きつつ、俺は自分の剣から手を離す。
その途端、リューイの剣は力の行き場を失った。
8英雄のディアさんが見せてくれた、敵の力を利用した「柔よく剛を制す」の技だ!
「なっ!?」
リューイの体勢は前のめりに大きく崩れ、俺に向かってきた。
俺は奴の隙だらけの体にあえて攻撃を加えず、逆にしっかりと受け止める。
つまりは、思いっきり抱きついた。
すると、間近に迫っていた上位竜の尾の動きがピタリと止まった。
このままでは、主ごと串刺しにしかねないからだ。
「離せ!」
「もう、ひと仕事したらな!」
俺はリューイの鎧の胸当ての隙間に手を入れ、ある物を抜き取った。
それは、金色の鱗。
アイテム「竜王の逆鱗」だ!
「これさえ手に入れれば、俺の勝ちだ!」
俺は「竜王の逆鱗」をつかんだ右手を、高々と掲げた。
「返せ!」
リューイは俺の左腕を振りほどくと、剣を捨て、俺の右腕に向かって手を伸ばした。
おいおい、騎士が剣を捨て、アイテムにすがるのかい?
そんなんだからさ、腹ががら空きだぜ!
俺は、リューイの左の脇腹に、勢いよく膝蹴りをお見舞いした。
――ガッ!!
鈍い金属の衝撃音を上げながら、リューイの体は上位竜の頭上から大地に落下した。




