聖なる山へ
「アラン。ようやく竜族の動向に関して報告ができるよ」
リューイにそう声を掛けられたのは、みんなで滝つぼで水遊びをしている時だった。
みんなとは、俺と3人娘、ガイナー王子に3人の姫君たちだ。
この城に逗留して早2週間。
俺たちとリューイのきょうだいたちはすっかり仲良しに。
午前に俺がガイナー王子の稽古をつけ、午後はみんなで水遊びというのが日課になっている。
ちなみに、キョウもこの城の生活をずっとご機嫌で過ごしている。
滝つぼで俺が蹴り飛ばされた日の夕方に、「キョウは俺にとってボスで君主でご主人様でした」と言ったら一発で機嫌が直った。
今では妹君たちの長姉のように振る舞っていて、妹君たちもなぜかよく懐いている。
「すぐに行く」
俺は急いで岸に上がり、リューイのそばに駆け寄った。
すると、リューイは弟君にも声を掛けた。
「ガイナーも一緒に来てくれ」
「はい!」
ガイナー王子は顔を輝かせた。
兄の言葉がよほど嬉しかったのか、喜び勇んで水から上がってくる。
俺とガイナー王子は、服に着替えてからリューイの自室に集合した。
一つのテーブルを囲んで、3人だけの話し合いだ。
とは言っても、俺とガイナー王子は聞き役。
リューイは、ベルド竜騎士団や出入りの商人らから集めたこの2週間の情報を詳細に報告してくれた。
「……ということだ」
「なるほど……」
リューイの報告が終わると、部屋は沈黙に包まれた。
2週間の調査の結果が「まったく分かりませんでした(超要約)」だったからだ。
「せっかく我が国を頼って来てくれたのに申し訳ない」
リューイが頭を下げると、それを見たガイナー王子も慌てて頭を下げた。
「いや、謝らないでくれ。あくまでも予測の話を調査してもらったのだから」
竜の情報が一番集まるベルドで何も収穫がないということは、ミヤサの情報が最初から誤っていた可能性が高い。
そもそも魔王軍と竜族はつながっておらず、大量の「竜の牙」は別ルートから調達されたのかもしれない。
しかし、別ルートといってもどこだろうか……?
俺が腕を組んで思案していると、リューイが神妙そうに口を開いた。
「試したいことがあるんだ」
「何か策があるのか?」
俺は身を乗り出した。
こういう時のリューイの提案は、学院生の時からスバ抜けて優れている。
「直接、上位竜に聞いてみようと思う」
「上位竜?」
「危険です!」
怪訝な俺の隣で、ガイナー王子が真っ青な顔で立ち上がった。
「今、上位竜は休眠期です。いかに盟約相手の王族と言えども、機嫌を損ねれば命はありません!」
「そのために、お前をここに呼んだのだ。僕が戻らなかった場合は、お前が父上を支えろ。頼んだぞ」
「兄上!」
ポロポロと涙を流すガイナー王子の肩を、リューイが優しく抱いた。
「……あの、なんで今生の別れみたいになってるの?」
「ああ、説明がいたね」
俺の問いにリューイが詳しく答えてくれた。
それによると、ベルドの国内には、光属性のトップを司る上位竜が棲んでいるという。
上位竜は、王都から徒歩で半日の距離にある休火山「聖なる山」の火口を竜の巣にしている。
この上位竜と王族のご先祖様が盟約を結び、ベルドは光属性の下位竜と共生関係を築くことができた。
盟約の条件は、王族以外は聖なる山に何人たりとも立ち入らないこと。
上位竜は己の安息のために盟約を結び、ベルドは山の入り口に関所を設けて入山者を取り締まっている。
「休眠期っていうのは?」
「上位竜は、おおよそ50年周期で休眠期と活動期を繰り返すんだ」
「お休み中に訪ねていくと、ご機嫌を損ねる訳か」
「そういうことだね。過去に実際に食い殺されたご先祖様がいたらしい」
そうか、危険なのか。
俺は腕組みをして考え込んだ。
かつて俺は、闇属性の中位竜、つまりは黒竜と戦ったことがある。
鱗がえらく硬く、少々苦戦した。
中位竜の戦闘力は1980だった。
リューイはどうだろうか。
スキル「能力値開示」で、そっとリューイの戦闘力を測る。
――4161。
さすが「虚空の竜騎士」だ。
おそらく、人類では俺の次に強い。
正しくは、あの3人娘を除けばだが。
リューイの相手が中位竜クラスならば問題はない。
しかし、上位竜ならどうだろうか。
仮に中位竜3頭分の戦闘力を持っていたら、リューイでは敵わない。
やっぱり、1人じゃ危ないな。
「俺も一緒に聖なる山へ行くよ」
リューイにそう声を掛けると、隣のガイナー王子が猛反対した。
「危険です! 聖なる山は王族以外は立ち入れません。それこそ上位竜の機嫌を損ねます」
一方のリューイは思案顔で何度も頷いた。
「いや、良い提案かもしれない」
「兄上!?」
リューイは、弟を安心させるかのように、その肩に手を置いた。
「2千年前の上位竜との盟約は、そもそも勇者の仲介があって実現したと聞いている。アランならば、勇者ならば入山は許されるだろう」
「決まりだな」
俺は勇んで立ち上がり、リューイに向かって右手を差し出した。
「用心棒としてお供するよ」
リューイは俺の右手をがっちりと握ってきた。
「勇者が用心棒とは豪勢だな」
リューイのほほ笑みに、俺も笑みを返す。
「勇者と『虚空の竜騎士』がそろっていれば最強だ」
しかし、ガイナー王子は心配そうな表情を崩さなかった。
「……勇者様、どうか兄上をお守りください」
「お任せを。このアラン、命に懸けて守ります」
俺はドンっと自分の胸を叩いて見せた。




