ドラドラ
「すごいじゃないか。さすがだな」
俺は本気でリューイを讃えた。
リューイの年齢は俺より1つ上だから19歳だ。
19歳で「虚空の竜騎士」の称号を得るのは史上最年少のはずだ。
しかし、俺の心からの称賛を受けたリューイは微妙な笑みを浮かべた。
「いや、さすがに勇者には負けるよ。それに、アランは大賢者の称号も持ってるだろ?」
「え? ああ、まあ……」
気まずい!
こういう時、どういう対応をしていいのか分からない!
俺が微妙な笑みを浮かべていると、リューイが笑いながら俺の肩をたたいた。
「ははっは、そういうところ、アランは変わらないな」
「そ、そう?」
「ああ、学院時代とそっくりだ」
リューイは俺の顔をまじまじと見つめると、やはりニコリと笑った。
その笑顔を見て改めて思った。
「リューイも変わらないよ」
「そうか? 褒め言葉として受け取っておくよ」
リューイが爽やかにほほ笑みながら、右手の親指をグイッと上げた。
そして、歯が光った。
俺には一生できない芸当だな。
その時、リューイのドラゴンが「グルルル」と声を上げた。
「おっと、この声はちょっとマズい」
リューイが慌ててドラゴンの元に駆け寄った。
そして、ドラゴンのあごの辺りを触っていたキョウを抱き上げ、ドラゴンから少し遠ざけた。
「キョウさん。あごの近くだけは、ドラゴンは嫌がるんですよ」
「そうなのか。声を出したから喜んだと思ったぞ」
リューイはしゃがみ込んでキョウと視線を合わせた。
そして、親戚のお兄さんばりに親しげな様子で話しだした。
「竜のあごの下には逆鱗と呼ばれる鱗が1枚だけあります」
「逆鱗とはなんだ?」
「決して触れてはならない場所です。触るとドラゴンは正気を失い、暴れてしまいます」
「ふーん。それは面白そうだな」
キョウが偉そうに両腕を組んでドラゴンを見つめた。
こいつ、話を聞いてたのかよ。
リューイはキョウの頭に優しく撫でながら話した。
「僕はかわいいキョウさんが、ドラゴンに傷つけられるのを見たくないんですよ」
すると、キョウは急にご機嫌な様子になる。
「ふっ、このかわいい余がドラゴンごときに傷をつけられるはずはないが、まあよい、そちの意見具申、受け入れた」
キョウは俺を振り返ると、満面の笑みで「こいつ、いい奴だな」と話した。
狂犬の扱い方を一瞬で把握するとは、さすがのコミュニケーション力だ。
やっぱり、本物の勝ち組は違う。
リューイはメルとクレンのそばに行くと、2人にも同様の注意をしつつドラコンの生態を説明しだした。
その様子は、ごく自然で親しみがこもっている。
メルもクレンも楽しげにリューイの話を聞いている。
そんな2人の姿を見て、俺は複雑な気持ちになった。
胸の内側からモヤモヤした嫌な感情があふれてくる。
学院生時代によく味わっていた気持ちに似ている。
――劣等感?
まさか、再びこの気持ちを味わうとは思ってもいなかった。
大賢者、剣聖となり勇者にまでなった俺がリューイに劣等感!?
いや、これは戦闘力からくる劣等感ではない。
思えば、この旅の途上で、俺はメルたちとあれほど楽しくおしゃべりができただろうか。
否である。
俺は、3人のおしゃべりを聞きながら心の中で「なるほど」「それは違うな」などと相づちを打っていることの方が多かった。
つまり、俺はリューイの社交性とコミュ力に圧倒され、劣等感を抱いているのだ。
俺は陰々滅々な性格だった学院時代から何も成長していないのだろうか?
「アラン、余はまたドラゴンを触りたいぞ! 肩車!」
キョウの声に慌てて我に返った。
そして、キョウを肩に乗せながら、先ほどの気持ちを振り切った。
大丈夫。
俺は勇者だ。
堂々としていろ。
そう自分に言い聞かせながらリューイの元へ歩み寄った。
すると、メルとクレンが嬉しそうに俺の腕を取ってくれた。
この時ばかりは2人の行為が嬉しくて、そして、そんな都合の良い自分が腹立たしくなった。
「ご主人様! ドラゴンの話、面白いよ」
メルの素直さに心が和む。
「そうか良かったな」
クレンも笑顔で口を開いた。
「我が君! ドラゴンのドラゴンの大きさはいかほどでしょうか?」
「おい、こらてめえ」
以後、少々お説教タイムとなった。




