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君のドラゴン

 腹ばいになったドラゴンの背から、リューイが軽やかに大地に降り立った。

 金髪青眼、高身長でイケメンという絵に描いたような王子様だ。

 大地に降り立つのと同時に、リューイの長い金髪が風に揺れた。

 人によってはキザったらしく見えかねないが、悔しいことにリューイだと普通の光景に見える。


「久しぶりだね、アラン」

 リューイが屈託のない笑顔を向けてきた。

「ああ、久しぶり」

 俺も何とか笑顔を作ってみせた。 

 

 勇者育成学院の卒業式以来、約1年半年ぶりの再会だ。

 俺は久しぶりの再会に少し緊張していたのに、リューイは学院時代と変わらない気さくさだった。


「君が王都に向かっているという早馬が城に来たから、ドラゴンで迎えに来たよ」

 リューイがそう言って、愛竜の首を撫でた。

 ドラゴンは気持ちよさそうに目を細め、喉を「グルゥ」と鳴らした。


 早馬というのは、昨晩に泊まった宿の主人に頼んで、早朝に王都へ走らせた馬のことだ。

 俺からリューイ宛の手紙を運んでもらった。

 王都に着いてから王子様との面会の手続きを取ると時間が取られそうなので、先に知らせておいたのだ。


「王子自ら迎えにこなくても……城で待っていればよかったのに」

「勇者殿が来るとあれば、迎えに出るのが騎士の務めさ」

 リューイが何てことはないって感じで肩をすくめた。


「それに、勇者になった友がどれだけ成長したのか、早く見たかったしね」

「そうか……」

「しかし、こんな状態のアランが見られるとは、学院時代は想像もつかなかったよ」

「だろうな……」

 

 リューイの視線が俺の左側、右側、そして頭上へと移動した。 

 メルとクレンに抱きつかれ、キョウを肩車している姿をがっつりと見られた。

 過去の俺を知る学院生にこんな姿を見られて、すごく恥ずかしい。 


「勇者という職業も大変なんだね」

「なんか、すまん……」

 リューイのねぎらうような笑みに、俺は赤面を返すことしかできなかった。


「気にすることはないよ。アランの人気が高いのは知ってる。僕の国の女の子たちも皆、君の噂ばかりさ」

「あー、この子たちは、そういう一般女性ではないんだ」


 俺はメルたちを紹介がてら、リューイにスキル「擬人化」で伝説のアイテムを人間にした経緯を説明した。


「では、目の前にいる美しいお嬢さんたちは、みな人知を超えた力を持つ勇士という訳だね」

 リューイはにこりとほほ笑みむと、「初めまして」と言ってメルとクレン、キョウと順に握手しながら自己紹介をした。

 その間、ずっと笑顔をキープし、歯がキラリと光っていた。

 学院時代から、リューイが女性に向かってほほ笑む時は、自然に歯が光るという特性を持っている。


「ねえ、王子様! ドラゴン君を触ってもいい?」

 メルが我慢できないって感じで話した。

「どうぞ、聖剣のメルさん。大人しいドラゴンですから、危険はありません」

 

 リューイがにこやかに答えると、キョウも「余も触りたいぞ」と手を挙げた。

「冥府の竪琴のキョウさんですね。ご自由にどうぞ」

『わ~い』

 メルとキョウが弾むような足取りで白いドラゴンに近づき、頭を撫で始めた。


「あの、私も王子様のドラゴンを触ってもいいですか?」

 クレンが恥ずかしそうに手を挙げた。

「禁忌の魔道書のクレンさんですね。美しい人に触ってもらうと、あいつも喜びますよ」


「いいんですか?」

 クレンが喜々とした声を出した。

 あっ、なんかマズい。

「ええ、どうぞ」


「では、まずベルトを取ってください」

 身もだえるクレン。

 おい、こらてめえ。

「ベルト? いや、僕のドラゴンにはベルトは付いてないですよ……」

 リューイがドラゴンの方を振り向いた。

 

「でも、ベルトを取らないと王子様のドラゴンが出てこ、って、ちょっと痛いです」

 リューイが見ていない隙にクレンの耳を軽く引っ張った。

 そして、その耳に向かって小声で注意する。

「ク~レ~ン。旅では、そういうのは禁止な」

「は、はい。そうでした」


「ベルトはありませんが、鞍や手綱などの道具を触るのはかまいませんよ」

 リューイが振り向いた時には、俺とクレンは爽やかな笑みを顔面に貼り付けていた。


「わ~。私、ずっと竜騎士の道具に興味があったんですぅ。嬉しいなあ」

 クレンはわざとらしく喜びの声を上げると、ドラゴンに歩み寄っていった。


 リューイの乗ってきた白いドラゴンは、見ず知らずの女の子3人に触られてもまったく気にすることなく大地に伏せている。

「どう猛なドラゴンがあんなに大人しくしているなんて、驚いたよ」

 俺の感嘆の声を受け、リューイが少し誇らしげに声を上げた。

「ドラゴンのしつけぐらいしっかりできないと、『虚空の竜騎士』とは言えないからね」


「『虚空の竜騎士』!? リューイは『虚空の竜騎士』の称号を得たのか?」

「ああ、半年ほど前に拝命したんだ」


 この世界では「虚空の竜騎士」の称号は、武人では「剣聖」と同等の価値がある。

 つまり、武人としては、リューイは人類の中で俺に匹敵する力を持っているということだ。

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