仇敵?登場
魔族の特徴である褐色の肌。
黒い甲冑に身を包んでいるが、兜は被っておらず、その端整な顔と青色の短髪をさらしている。
「……ケイオス。また、お前か」
俺は呆れ気味にため息をついた。
「またとは光栄だな。このケイオス様、お前が生きている限り、何処へでも付いて行く。そう、お前を殺すまで!」
ケイオスはバスターソードの剣先を俺に向けると、ひどいドヤ顔を向けてきた。
自分のせりふが格好いいと思っているようだ。
「お前、また俺に戦いを挑みに来たのか?」
「それがアラン討伐隊、隊長の俺の使命だからな!」
ケイオスは壮大に胸を張った。
勇者最有力候補の俺を殺すために魔王が組織した討伐隊を率いる騎士だ。
隊といっても隊員はケイオス1人のみ。
俺はかれこれ1年近くケイオスにしつこく付きまとわれ、ことあるごとに戦いを申し込まれている。
その度に俺はケイオスと一騎打ちをし、ここまで全勝している。
「当然、今日も戦いを申し込むぜ」
ケイオスが右手だけでバスターソードを一振りした。
このバスターソードは魔剣として知られており、魔族の中でも扱えるのはケイオスだけだと聞いている。
なんでも剣の形を変幻自在に変えられる能力があるらしいのだが、ケイオスはいつも超ど級のバスターソードの形で抜き身のまま持ち歩いている。
重いし、目立つし、危ないし、バスターソードにいいところなんてないはずなのだが……。
「またバスターソードか。日々進歩しないと俺に勝てないぞ」
俺がやれやれと両手を広げると、ケイオスがムキになって反論してきた。
「まっ、負けてなんかないだろ!」
「お前、俺に一太刀でも浴びさせたことがあるのか?」
「紙一重でこっちが避けてやってんだよ!」
わめくケイオスを見ながら、メルが俺の腕を引っ張った。
「ねえ、ご主人様。このかわいそうな人と知り合いなの?」
「まあ、知り合いと言えば知り合いだ。知り合いたくはなかっ……」
メルの疑問に答えていると、ケイオスが会話に割って入ってきた。
「おいっ、女! かわいそうとは何だごらぁ!」
ケイオスは眉間にしわ寄せて、メルに向かっておもいっきりメンチを切った。
そして、今度は俺の方を向くと、途端に頬を緩めた。
「おい、アラン! お、俺たちは知り合いでいいんだな。こんちくしょおがっ!」
言葉遣いは乱暴だが、その顔を喜々とした感情を押し殺そうとして見事に失敗している。
どうやら、俺に知り合いと言われたことが嬉しいようだ。
「やっぱり、かわいそうな人なんだね」
メルが哀れみの目でケイオスを見つめた。
「女ッ! そ、そんな目で俺を見るんじゃねえ! お、俺は魔王軍6将軍の1人、剣魔将軍ケイオス様だぞ! 本当は怖いんだぞ!」
ケイオスは左手でメルの視線を遮りながら、魔王軍の精鋭としておそらくは史上最低の名乗りを上げた。
そうなのだ。ケイオスはアホのくせに剣の腕は超一流。
魔王軍の中で最強の剣士として、魔王直属の6将軍の1人に数えられている。
アホのくせにだ。
そのアホが俺に向かって吠える。
「今日は、アランが聖剣を抜く前に殺してこいって、魔王様に言われてきたんだ。だから、ぜってぇえに負けねえぞ!」
「もう抜いたぞ」
「はい?」
「聖剣ならもう抜いた」
「……嘘だよね。嘘だって言っておくれよアラン!!」
ケイオスの悲鳴に近い絶叫が響いた。