いいな、いいな
というか、単純に羨ましいんだが!?
お兄ちゃん大好きな甘えん坊な美人な妹って、創作物でしかありえないんですけど!
俺の心の中で、ケイオスへの嫉妬、ねたみ、そねみ、怒りが湧き上がってきた。
「おい、ケイオス。その子から離れろ……」
俺のドスの効いた声に、ケイオスと青髪の女の子が同時に顔を上げた。
「うん? いや、離れろって言われても、レイアスがくっついてくるから仕方ねーし」
ケイオスが平然と答えると、女の子もウンウンとかわいらしく首肯した。
「……そうか、なら仕方がない。というか! たった今! しれっと! 最大級の問題が発生したので、離れるのは後回しな!」
「あん? 最大級の問題って何だよ?」
ケイオスが首をひねった。
そうか、分からないのなら聞かせてやるよ!
「俺が擬人化した美少女に勝手に名前付けてんじゃーねーよ!」
これまでの流れでは、俺が名付け親になって、擬人化美少女が俺に懐くって展開だったんだぞ!
しかも、レイアスって、いかにもケイオスの妹って感じでいい名前じゃねーか!
「ああ、名前のことか。だって、こいつが名前がねーっつんだから、仕方ねーだろうが」
「ボクに名前を付けてくれたお兄ちゃんは、とーっても優しいんだ」
レイアスちゃんが幸せそうにケイオスにほおずりした。
「兄ちゃんにそうゆうこと、すんじゃーねーよ」
「えー、いいじゃん、きょうだいなんだから」
そう言って、レイアスちゃんはまたケイオスにほおずりをした。
チィックショーォォォォォォオオオオオオ!!!!!!
本来ならば、ケイオスのポジションは俺であったはずなのに!!
俺だって、かわいい妹がほしかったのにぃぃぃ!!!
一人っ子だから、妹に憧れていたのにぃぃぃい!!!
「……ケイオス、許すまじ」
血の涙を拭き、奴を塵芥にするための一歩を踏み出した。
が、思いっきり左腕を引っ張られた。
メルが結構な力を込めて、俺を引き止めたのだ。
「なーんだよ! 邪魔するなよ!」
「ご主人様、今は、あっちを優先すべきだと思うんだけど」
「あっち?」
メルの視線を追うと、そこではクレンと黒髪ツインテール少女の口げんかが続いてた。
おっと、ケイオスへの嫉妬でこの2人のことを忘れていた。
「よかろう! 貴様は冥府送り決定だ。謝っても許してやらんからなっ!」
黒髪少女が親指で自分の首をかっ切る仕草をした。
「許さないのはこちらの方です! アナタを冥王の元に送り返してやりますわ!」
クレンが親指を突き立ててから、その先を真下に向けた。
そして、2人そろって、どす黒いオーラ全開で明らかにヤバそうな魔法を唱えだす。
あー、これ止めないと世界がヤバそうだな。
でも、今の俺にとっては、ケイオスへの罰の方が大事ですから!!
お前らは後回しだ!
「2人とも後でお説教してやるから、しばらくそこで待ってろ!」
俺は木と鉄と光と闇属性の上位魔法を同時に発動させた。
2人の周囲に、木、鎖、そして光と闇の帯が出現。
それらは、あっと言う間に2人の体と手足、口を拘束した。
「むごごごむぐぐう!!!」
光の帯で口をふさがれた黒髪少女が、俺に向かって怒りの形相で何かを言った。
「ふぇええ、ほうそくふれいれすね!!!」
口に鎖を噛まされたクレンが恍惚の表情で何かを口走ったが、聞こえないふりをした。
さて、これで安心してケイオスをぶっ倒せるな。
そして、レイアスちゃんを我が妹に迎えるのだ!
勇んでケイオスの方を向くと、先ほどと状況が変わっていた。
ケイオスはレイアスちゃんを右手に抱えていた。
そして、さっきまでレイアスちゃんがいた奴の背中には大きな人狼族の男がいる。
気絶したままのポチ将軍が、その巨躯をケイオスに預けている。
ケイオスは俺に気付くと、軽く左手を上げた。
「じゃあな、アランたん。俺たち魔王城に帰るから」
そう言うと、ケイオスは転移魔法を口走った。
「させるか!」
居合抜きでケイオスの首をはねようと思ったのだが、メルがまた俺の動きを止めた。
「ダメっ! 剣の軌道にレイアスちゃんがいるでしょ!」
確かにその通りだった。
危ねー、攻撃するところだったぜ。
「女の子を攻撃したらいけないんだよ!」
メルに怒られた。
「いや、あの子は吸血の魔剣であって、そもそも俺たちの敵なんだが!?」
「ダメなものはダメなの!」
俺とメルが言い争っている隙にケイオスの魔法が完成。
奴ら3人の姿が半透明になっていった。
「くそっ! 次に会ったときは必ず制裁を与えてやるからな!」
吠える俺に向かってケイオスが妙に真剣な眼差しを向けてきた。
「俺に妹をつくってくれて、ありがとな。俺、家族がいねーからさ」
「そ、そうか」
アホのケイオスにそんなことを言われると、何だか調子が狂うな。
「そのお礼に、教えといてやるよ。今回の作戦で俺やポチはおとりだ。ただの時間稼ぎでしかない。本命は街の外にいる」
ケイオスはそう言うと、いつものようにニヤリと笑った。
その笑みを残し、ケイオスはレイアスちゃんとポチ将軍と共に完全に消えた。
「ご主人様。ケイオス君の言ったことって、どういう意味なの?」
「まったく分からん」
しかし、答えはすぐに街の外側から聞こえてきた。
鬨の声だ。
それも数百という人数ではない。
数千人の兵士の叫び声が、空気と大地を振るわせている。
慌ててスキル「飛翔」で真上に飛び、街の周囲を確認する。
「しまった。ポチやケイオスの相手をしている間に、完全にやられた」
スキル「千里眼」で確認するまでもなく、街は魔王軍に完全に包囲されていた。
その大軍の中に無数にはためく軍旗には見覚えがあった。
髑髏に蛇、月の紋章。
「幽魔軍か!」
ラディンの本当の母親たち5千人を、細菌魔法で無差別に殺戮した狂気の軍団が街に押し寄せつつあった。




