明暗
その途端、ケイオスのそばで黒と赤、2色の光が輝きだした。
この光は冥府の竪琴の配色そのものだ。
輝きは、メルやクレンが擬人化の時よりも強い。
あまりの眩しさに顔を背けると、いつものように音が空から降ってきた。
――チャラララ、テーテーテー。
――デレレレ、デレレレ、デレレレ、デーデーデー。
あれ?
二つも音楽が聞こえたぞ……。
光が収まったので広場を見ると、二つの音が降ってきた理由が分かった。
そこには、2人の少女が立っていた!
驚いて腰を抜かしたケイオスの左側に黒髪ツインテールの少女、右側には青髪ロングの女の子がいた。
そのうちの黒髪ツインテールの少女が、赤い瞳で俺の方をキッと睨みつけてきた。
10代前半ぐらいの背の高さで、黒ずくめの軍服のような格好をしている。
上着は詰め襟で、下半身はタイトなミニスカートにロングブーツ。
そんな黒少女は、きれいな小顔をゆがませ、苛立たしげに口を開いた。
「おい、余を人間にしたのは、貴様か!?」
「そのようです……」
俺がそう答えると、少女は突然に右手の中指を突き立てて「ファッ○」といまいましげにそう叫んだ。
その行為の意味は分からなかったが、彼女が相当に怒っていることは理解できた。
「せっかく余が気持ちよく音楽を奏でておったのに、邪魔をしたな! 許せんっ!」
ツインテール少女はそう言って地団駄を踏んだ。
音楽を奏でていたということは、「冥府の竪琴」が擬人化した姿があの子なのだろ。
その少女は、隣にいるケイオスに顔を向け「おい、そこの魔族」と恫喝した。
「お前、余をあの人間の所まで運んでいけ。あやつに制裁を与えてやる」
「……ちょっと状態が把握できねーんだけど」
「だから、余を運べと申しておる! それとも、余を歩かせる気なのか? お前アホなのか?」
ツンテール少女が手刀でケイオスの頭をビシビシと叩きだすと、2人の間に青髪ロングの女の子が割って入った。
そして、「叩いちゃ、ダメっ!!」と言ってケイオスを守るかのように両手を広げた。
女の子は、魔族特有の黒い甲冑に身をつつんでいて、まるで魔法剣士のようだ。
顔は目鼻立ちが整っていて美人さんだ。
だが、その青い髪といい、誰かにとても似ている気がした。
そして、女の子は驚愕の発言をした。
「お兄ちゃんをいじめちゃダメっ!!」
そう言って、ケイオスの頭をギューと抱きかかえてしまう。
『お兄ちゃん!?』
俺とケイオスの声が重なった。
「うん、だって、ボクたち血を分け合ったきょうだいでしょ?」
青髪の女の子は、ケイオスの声だけに反応し、とても嬉しそうに奴を見つめた。
なるほど、青髪の女の子は「吸血の魔剣」が擬人化した姿に違いない。
ケイオスと血を分け合ったと話したから間違いないだろう。
吸血の魔剣は、ケイオスの血を吸うことで効力は発揮したのだから。
どうやら俺は「冥府の竪琴」と「吸血の魔剣」の二つを同時に擬人化してしまったようだ。
スキルを発動した時に、二つとも近くにあったから仕方がないか……。
ただ、「冥府の竪琴」が偉そうで俺に敵意むき出しなのに、「吸血の魔剣」がボクッ娘でケイオスに懐いてるってのは納得いかないがな!
しかし、無事に「冥府の竪琴」を擬人化できて良かった。
それはアイテムの効果の停止を意味する。
俺は、死者から生者に戻っているはずだ。
そして、俺が元に戻ったということは……。
「さよなら、お母さん」
その声に振り向くと、ディアさんの体が半透明になって消えかかっていた。
この街で繰り広げられた奇跡の効果がなくなるのだ。
死者は死者に、生者は生者に戻る。
もうすぐ死者に戻るディアさんは、それでも優しい笑みを浮かべていた。
「ラディン、強く生きなさい」
そう言うと、ディアさんはラディンの頭をそっと撫でた。
「うん。分かったよ」
ラディンが頷いた瞬間、ディアさんの姿が完全に消えた。
最後の瞬間までディアさんはラディンを見つめ、ほほ笑んでいた。
「……ラディン。すまなかった。君から母親を奪ってしまった」
俺はラディンの隣まで行き、深く頭を下げた。
我が身を守るためとはいえ、親子の絆を断ち切ってしまった。
勇者として、いや人として恥ずべき行為だと思った。
「いいんだよアランさん。当然の結果さ」
思った以上にしっかりとした声がラディンから返ってきた。
頭を上げ、目の前の少年の顔を見た。
その顔は、初めて会った時よりも数段と大人びていると感じられた。
「全てが元に戻っただけさ。でも、新しいお母さんから贈り物をもらったから大丈夫さ」
「贈り物?」
「強く生きる心さ」
ラディンは誇らしげに自分の胸を親指で指した。
「……そうか。なら大丈夫だな」
俺たちは、拳と拳を突き合わせた。
今のラディンなら、本当の母親の死すらも乗り越えられると感じた。
「僕は大丈夫。それより、おねえちゃんたちの心配をしてあげて」
ラディンはそう言うと、広場の方を指さした。
その方向からはクレンとツンテール少女の怒号が聞こえてきた。
再び天井のへりに戻って、広場を見下ろすとクレンとツインテール少女が額をぶつけんばかりに顔を寄せ合って言い争っている。
「我が君を貴様呼ばわりするとは許せません! 折檻しますから、お尻を出しなさい!」
「うん。優しくしてね……って、なるかアホ!」
「お尻を叩かれると、新しい発見があるかもしれませんよ」
「そんな発見、絶対にいらぬ!」
「お子様は、大人の言うことを聞きなさい!」
「うっさいんだよ、おばはん!」
「だ、誰が、おばさんですって!」
「貴様のことに決まってるだろ!」
言い争いの度合いが増すに連れ、どす黒いオーラが2人から放たれてきた。
なんか放っておくと世界がヤバくなりそうな予感がした。
「あの人たちを収拾することは、アランさんにしかできないんでしょ」
「そうだな。とにかく落ち着かせてくる」
ラディンの声に頷いた俺は、スキル「飛翔」で広場まで降りた。
すると隣にメルが着地し、ごく自然に俺の左腕に腕をからませてきた。
「ねえ、ご主人様。あの子たちもメルの仲間になるの?」
メルは期待に満ちた目を向けてきた。
「うーん、どうかな」
しかし、俺は小首を傾げるしかなかった。
メルとクレンは、擬人化した途端から俺を慕ってくれていたようだが、今回の2人は様子が違う。
1人は俺に怒っていて、もう1人は敵に懐いてしまっている。
そう言えば、青髪の女の子はどうしたのかな?
青髪の子を探すと、まだケイオスのそばにいた。
というか、ケイオスの背中に乗っている。
つまりは、おんぶされていた。
「まったく、おんぶなんて、お兄ちゃん今までしたことないんだぞ」
やれやれ感満載で話すケイオス。
すると、青髪の女の子は「えへへへ、でもやってくれたじゃん。お兄ちゃん、大好き」と言ってケイオスに甘えた。
「おいおい、その言葉は、本当に好きな奴ができるまで取っておくんだぞ」
ケイオスが妙にしたり顔で何度も頷いた。
おい、これ、なんて妹プレイ?
いいのか、魔界一の剣士がそれで!
剣魔将軍としてのプライドとかないのか!




