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旅の始まり

 暑い。

 それも当然だ。

 俺たち3人は今、砂漠にいるのだから。


「太陽さ~ん。今日も元気ですね~!!」

 メルが無駄に元気よく叫んでいる。


「今日も暑くてびっしょりですわ。ええ、全身くまなくです」

 クレンが聞いてもいない説明を加えてきた。


「精神を消耗するから少し黙っていてくれ」

 俺は左右に座る2人にそう声を掛けると、果てなく続く前方の砂漠を見つめた。

 そこには、巨大な砂トカゲの後頭部が間近に見える。 


 俺たちは今、巨大な砂トカゲの背に乗せられたかごの中にいる。

 この大砂漠を旅する者は、砂漠に点在するオアシスを周遊する砂トカゲの背に乗って移動するのが一般的だ。

 砂トカゲは行商人たちに飼いならされていて、その背に荷物や人間を乗せてオアシスの間を移動してくれる。


 ――死者が次々とよみがえっている街がある。

 

 その一報が聖都クリシュにもたらされたのが2週間前。

 俺たちは、死者復活という怪奇現象の裏に伝説のアイテムの存在があると確信し、その街を目指して旅を始めた。

 聖都を旅立ってすでに2週間。

  

 このサラミア砂漠にたどり着く3日前までは順調だった。 

 しかし、この黄色の大地と砂トカゲ、青空だけの景色はもう見飽きた。

 さすがに3日間も同じような光景だとゲンナリしてくる。


 かごの中には座布団と背もたれがあり、長旅に耐えられる作りになっていて、かごの中央には日光を遮るための傘も立っている。

 しかし、熱気と熱風とそれに伴う砂は避けようがない。

 あと、砂トカゲの動きに応じてかごが揺れるので酔う……。

 砂漠の旅がこんなに厳しいとは知らなかった。


「くそっ、スキル『飛翔』を使えば、あっと言う間に目的地に着けるのに」

「我が君、申し訳ありません」

 クレンがションボリと顔を伏せた。

「あっ、ごめん。もう愚痴らないって決めたのに」

「いいえ、このクレン、無能を恥じ入るばかりです」

 

 メルは俺の「飛翔」能力に訳もなく付いてこれたのだが、クレンにはその能力はなかった。

 当初、俺とメルがバビューンと空を飛んしまい置いてけぼりになったクレンは、途端に大号泣して例の恐怖の大魔王を呼ぶ魔法を唱えてしまった。

 なので、クレンと一緒に行動するためには、こうして地道に大地を行くしかないのだ。

 世界を守るために!


「メルはトカゲさんに乗れて楽しいよ」

「そう言っていただけると救われます」

 どこまでも明るいメルの声にクレンが声を弾ませた。


「トカゲさん大きいし、目がかわいいもん!」

「ええ、それにこのトカゲからの振動が……」

 頬を赤らめるクレン。


「はい、その話題は終了~」

「我が君、早い、終了が早い!」


 しかし、メルが興味津々に声を上げた。

「ねえ、振動がどうしたの?」

「だから、もう終了!!」

「え~、ご主人様のけちんぼ!」


 メルがプンッとそっぽを向いたので、後ろにある荷物置き場からヒルダさんにもらった焼き菓子を出して渡してやった。

「ヒルダさんのお菓子だ。やった~!!」

 途端に機嫌が直るメル。

 

 ふっ、チョロいぜ。

 あと正確にはヒルダさんのお菓子ではなく、ヒルダさんが神前からパクってきたお菓子だがな。

 

 禁忌の魔道書を使おうとして精神をクレンに乗っ取られたヒルダさんだったが、けがや後遺症はまったくなかった。

 ヒルダさんは人間になったクレンを忌避するかと思ったが、むしろその姿を見て感激し、抱擁までして大歓迎してくれた。

 どうやら聖女にとっては、女の子は全員かわいくて尊く守るべき存在のようだ。

 

 ちなみに、ケイオスは吸血の魔剣は気付くといなくなっていた。

 禁忌の魔道書の奪取に失敗したと理解し、とんずらしたようだ。

 確かに聖剣と禁忌の魔道書が並び立っていたら、吸血の魔剣といえども勝ち目はない。

 

 それこそ、魔王を連れてこないと勝てん。

 もしくは竜王が号令一下で集めた世界中のドラゴンとか。

 まあ、竜王はその血族が途絶えて久しいので、ドラゴンを束ねられる奴はもういないんだけど。


 そんな考え事をしていると、クレンが腕をツンツンしてきた。

「我が君、私もそのお菓子が欲しゅうございます!」

 あーんと口を開けるクレン。


 その口をスルーして、手の平に菓子を乗せてやる。

「もうっ、恥ずかしがり屋さんなんですから!」

 ポジティブだな。


 クレンに菓子を渡した後、自分の口に菓子を入れた。

 甘さとサクサクとした食感が、旅の疲れを癒やしてくれる。

 そして、菓子を味わいながら、旅立つ際にヒルダさんに言われたことを思い出していた。


「死者の復活は大地母神の教義に反する! ぜってーに問題を解決して、原因のアイテムを回収、もしくは破壊してこい」

 ニンジャのミヤサ君が伝書バトで伝えてきた一報を見たヒルダさんは、そう言って俺の胸ぐらをつかんだ。

 なぜ、胸ぐらをつかむ必要があるかは謎だが、昔からあの人のくせだと諦めている。


 ヒルダさんはこうも言った。

「死者をよみがえらせるアイテムなら見当はついている……」

 

 ヒルダさんの告げたアイテムの名は俺も知っていた。

 その名は、


 ――冥府の竪琴。


 神話では、冥王が所有する楽器とされている。

 冥王が死者の復活のために奏でる秘宝だ。

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