発動
「××▼▼▼▼■■×……」
ヒルダさんの魔法詠唱が最終段階に入った感じがした。
その時、フッと一瞬で空が暗転した。
さっきまでの青天が嘘のように、世界が闇に包まれる。
「空を見て!」
メルの声で天を仰ぐ。
そこには紅蓮の炎に包まれた月が浮かんでいた。
あんな月は見たことがない!
何より恐怖感が募ったのは、紅蓮の月がどんどんと大きさを増していくことだ。
もしかして、あれが世界の6分の1の大きさの隕石なのか?
大きさが増しているってことは、この世界に徐々に近づいてるってことか?
世界滅亡の危機に五臓六腑が震えた。
「メル! 魔法を止める他の方法はないのか?」
焦ってメルの両肩をつかんで激しく揺らした。
「伝説の聖剣なんだから、なんかこうズババアーンって感じで解決できるだろ!?」
「私はできないけど、ご主人様ならできるよ」
メルが慌てふためく俺に向かって、優しくほほ笑んだ。
その笑顔を見て、心が落ち着いていく自分に気付いた。
「俺にならできる?」
「うん。だって、ご主人様は勇者様だもん」
メルは俺の両肩に手を置いた。
まるで励ますように。
「ご主人様にしかできないことがあるでしょ?」
「俺にしかできないこと?」
メルの翡翠色の瞳を見つめて気付いた。
ある。
俺にしかできないことが。
紅蓮の月はすでに天の半分を覆うほどに大きくなっている。
その空からは熱風が大地に吹き付け、世界の温度がぐんぐんと上昇している。
空気が震え、滅亡を予感した世界の代わりのように悲しげに唸りだした。
迷っている暇はない。
俺はヒルダさんに向き合い、禁忌の魔道書に向かって右手をかざす。
全身全霊を込めてあのスキルを発動させる。
「擬人化!!!!!!!!!」
途端に魔道書が茜色に輝きだした。
まるで星の爆発のように強力な光。
光の奥で、ヒルダさんが気を失ったように倒れ込むのが見えた。
その手からは禁忌の魔道書は離れていた。
……よかった。
ヒルダさんの無事を確認した後、まぶしさに耐えきれずに顔を背け、目をつぶった。
そして、光が収まったと思った瞬間……。
――デロデロデロデロデロデンデロン。
天空から不吉な音が響いた。
うわー、あきらかにやっちまった感が満載の音じゃん。
目を開け、音が聞こえてきた空を見上げる。
そこは暗闇ではなく青空で、紅蓮の月ではなく太陽が浮かんでいた。
よしっ、世界の滅亡は防げたようだな。
ほっとして顔を戻すと、前方に10代後半に見える女の子がいた。
首元で切りそろえられた明るい栗毛。黒く大きな瞳。意志の強そうなキリッとした眉。
白い修道服を着ているが、その裾は通常よりもとても短く、むっちりとした太ももが完全に露わになっている。
露わと言えば……襟元が大きく開いてるので、胸元が見える。
そこには、大きな胸の谷間があった。
単刀直入に言えば、スゴくエロい!!
恥ずかしくて顔を赤らめていると、女の子と目が合った。
俺の視線を受けた女の子が同じように頬を染めた。
そして、ぽってりとした唇を開いた。
「視姦ですね?」
「はい?」
「我が君は私を見ることで性的興奮を覚えつつ、私を辱めることで私の性的欲求を刺激していますね?」
「だから、はい?」
「しょうがないですね~。とりあえず、おっぱい触ります?」
「とりあえず死ね」
こいつ、息を吐くように下ネタを言いやがる!
伝説のアイテムってのはみんなポンコツなのか!?




