もんっ!
「だが、もう格好良さにはこだわらないぜ。吸血の魔剣よ、勇者アランの血を吸い尽くせ!」
ケイオスがそう叫ぶと、無数の漆黒の刃が俺に向かって猛スピードで襲いかかってきた。
「盤石の王よその身を現せ!」
俺は防御系の最上位魔法を唱えた。
その瞬間、俺の前方に分厚い鋼鉄の壁が出現した。
――ガッ!ガッガガガガガガガッ!
魔剣の刃が鋼鉄の壁に突き刺さる音が聞こえてくる。
鉄属性で最強の防御魔法だ。
簡単には突破できまい!
壁が攻撃を防いでいる隙を突き、ケイオス本体を攻撃する!
あの野郎、大聖堂の屋根に乗ったまま薄ら笑いを浮かべてやがる。
吠え面かかせてやるぜ!
と思った途端、目の前の鋼鉄の壁に一筋のヒビが入った。
――ガッ!ガッガガガガガガガッ!
絶え間ない魔剣の攻撃の音とともに、鋼鉄の壁が崩れさっていく。
障害を無難に突破した漆黒の刃たちは、俺にその切っ先を向けた。
「くっ」
スキル「跳躍」で後方へ飛び、間合いを取る。
しかし、魔剣の動きは俺のスピードに追いついてきた!
俺が大地に足を付けた瞬間、
――ギュリ!ギュリ!ギュリ!
魔剣が歓喜の声を上げて襲いかかってきた。
頭、心臓、首、腰、右手、左足、耳、目……。
俺のありとあらゆる部位に向かって刃が一斉に放たれた。
「なめんなっ」
スキル「速度強化」と「カウンター」を発動。
手にした剣を高速で動かし、敵の攻撃を一つ一つを弾き返していく。
「おりゃあああああああ!」
俺の剣さばきは、もはや常人には見えないほどの速さに達していた。
はたから見れば、衝撃波と轟音とともに、俺の前方に刃が動いた残像が存在しているだけだろう。
いける。魔剣の波状攻撃は防げる。
なぜなら、ケイオスの血を吸った所為かアホなので、前方からしか攻撃してこないからだ!
しかし、このままでは防御に専念してばかりになり、攻撃ができない!
あと、魔剣が上方や左右、後方からの同時攻撃に気付くと、非常にヤバい。
つまりは、態勢を立て直す必要がある!
「光の精霊よ天頂を駆け下れ!」
今度は光属性の防御魔法を唱えた。
瞬時に俺の周りにドーム状の光の壁が現れた。
――ガッ!ガッガガガガガガガッ!
無数の漆黒の刃が光のドームに突き刺さる。
光りの壁は大きく震え、ギシギシと音を立てる。
先ほどの鋼鉄の壁よりは保ちそうだが、長くはないな。
時間を稼いでいる間に、メルに助太刀を頼もう。
もう俺1人でどうにかなる相手ではない。
「メル! 吸血の魔剣の相手を頼む。その隙に、俺はケイオスを倒す」
左前方の離れた場所にいるメルに向かって叫んだ。
「……」
返事がない。
代わりに、腕を組んで不機嫌そうに頬を膨らませている。
「メル、魔剣を攻撃してくれ!」
「……もん」
「なんだって?」
敵の攻撃音の影響でよく聞こえなかった。
「……ヤダもん!」
メルが叫んだので、今度ははっきりと聞こえた。
「おまっ、緊急事態だっつーの! 後で菓子でも肉でも好きなだけ食わせてやるから戦え!」
「ヤダもん!」
「なんでだよ!」
「……ないっていったじゃん!」
「え?」
「メルのこと必要ないって言ったじゃん!!!」
そして、メルは大粒の涙を流して「うわ~ん」と泣きだした。
両手であふれる涙を必死にぬぐっている。
あっ、これ知ってる。
誤解からこじれた結果による女の子の涙。
どうすれば泣き止むんだ?
うわー、今の戦闘以上にどうしていいか分からん!
心が乱れた影響で、光の防御壁の強度が弱まった。
魔剣がその隙を逃すはずもなく、波状攻撃で光のドームは瞬く間に消滅した。
――ギュリ!ギュリ!ギュリ!
俺をあざ笑うかのように、魔剣が歓喜の声を上げた。




