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スキル「擬人化」発動

 この世界では、下位や上位といったレベルを別とすれば万人が使える魔法とは異なり、一部の人間しか使えない特殊能力が存在している。

 人々はその特殊能力を「スキル」と呼び、魔法とは区別している。

 スキルはMPや詠唱がなくとも使える能力で、先天的にスキルを得て生まれてくる人間は100人に1人と言われるレア能力だ。

 このスキルを俺は88も有している。

 

 なぜって?

 それは俺が天才だからだ!

 神に愛された男だからだ!

 先天的には1つのスキル持ちだったけど、努力と根性で後天的に87のスキルを開眼させたのだ!


「なるほど、盲点だったわ。はいはい、スキルね。確かに勇者の条件としてはスキルって大事よね」


 俺はしたり顔で何度か頷きながら、スキル「能力値開示」を使って自分のスキルを確認してみる。

 88のスキルが文字となって空中に浮かび上がり、簡単に識別できるようになる。

 千里眼、跳躍、統制、武威、解毒、言語、識字、蓄財、商才……。

 この中に聖剣を抜くのに使えそうなスキルってあるかな。


「……なさげだな」


 スキルは魔法とは異なり、直接的に相手へダメージを与えるものは少ない。

 自分の才能や潜在能力を高める特殊能力が大半だ。

 相手に効果を与えるスキルは「鼓舞」とか「反撃カウンター」、「擬人化」ぐらいか……。


 ここは、スキルで己の能力を高める方が正解っぽいな。

 俺はスキル「身体強化」と「豪腕」を発動させる。

 そして、再び聖剣の柄を両手でつかむと、むしゃらに引っ張った。


「ぬっぐううううううう!!!」


 眉間にしわを寄せ、額に血管を浮かべ、歯を食いしばり、体を震わせて聖剣を引っ張った。


「こんちくしょおおおおお!!!」


 

 聖剣相手に格闘すること3時間。

 俺は微動だにしない聖剣の横に突っ伏していた。


 身を反転させ、仰向けになる。

 空は相変わらずの青天。

 森の中から聞こえる鳥のさえずり以外は、俺の呼吸音だけが空しく響いていた。


「駄目だ……何か泣きたくなってきた」


 俺の大好きな人たちが、大好きな街が魔王軍に蹂躙されるイメージが脳内に広がってきた。

 暴虐の限りを尽くす魔王を前に、無力にたたずむ俺……。


 ――ぐっすん。


 久しぶりに、ちょっと泣いてしまった。

 涙を拭こうとして、右手を上げた時、先ほどのスキル「能力値開示」によって文字化したスキルがふわふわと空中に浮いたままなのに気付いた。

 その88のスキルのうち、1つのスキルだけが太陽を背に浮かんでいた。

 擬人化という文字が光を受け、輝いている。

 

 ――擬人化。


 俺が先天的に持っていた唯一のスキル。

 そして、これまで1度も使ったことのないスキル。


 どうして使わなかったというと、何かを擬人化する必要性を感じなかったからだ。

 擬人化が人のまがい物、人に似せるっていう意味なのは分かる。

 だが、何を人に似せる?

 動物?

 魔物?

 それらの姿形を人に似せてどうするっていうんだ。

 どんなに人の姿に似せたって、動物は動物、魔物は魔物だ。

 

 しかし、相手が物ならばどうだろうか。

 例えば、聖剣が人の形を成すならば……。

 

 確かな確信が湧いてきた。 


「そうか……俺が生まれながらに得ていたスキルは、この日のためのものだったんだ」


 俺は聖剣を抜き、勇者になる。

 やはり、この運命は確かなようだ。

 さあ、あとはその運命を実行するだけだ。


 俺はゆっくりと起き上がると、聖剣に右手をかざした。

 そして、擬人化のスキルを発動させる。


「擬人化!」


 途端、聖剣が七色の光りを帯び、強烈に光りだした。

 まばゆい光が周囲の森を包み込んでいく。

 あまりの強烈さに目を開けていられない。

 目を閉じ、思わず後ずさりしてしまう。

 

 そして、まぶたの先で光が収まったと思った瞬間、天空から気の抜けたラッパの音が聞こえてきた。


 ――パンパカパーン、パンパンパ、パンパカパーン。


 このラッパの音は、天からの祝福なのだろうか。

 それにしては気が抜けすぎているような……。

 間抜けな音とはいえ、これは聖剣が無事に抜けたという証左なのだろうか。

 

 俺はゆっくりと目を開いた。

 大地には聖剣がなかった。

 代わりに人が立っていた。


 女の子だ。

 俺と同い年ぐらいの背丈。

 刀身を思わせる銀色の長い髪、澄み渡った翡翠色の瞳、白磁のような肌、スラリとした長い四肢……。

 その全てが美しかった。

 

「君は……もしかして……せ、聖……」


 俺は女の子の完璧な美を前に言葉を失ってしまった。

 女の子は、いわゆる軽装の剣士の姿をしていた。

 銀の胸当て、朱色のマント。

 だが、剣は帯びていない。

 それが、彼女自身が聖剣であることを物語っているように思えた。


 女の子は神秘的な美しい顔を崩さずに、翡翠の瞳で俺を見据えている。

 俺はゴクリとつばを飲み込んでから、彼女に問うた。


「君は聖剣なのか?」


 女の子は瞬く間に破顔した。

 そして、片手を挙げると、最高に朗らかな笑顔でこう言ってのけた。

 

「ちーっす!」

「ちーっす!?」


 彼女はニコニコしたまま俺に飛び付くと、ぴょんぴょんと跳びはねながら嬉しそうに話しだした。


「ご主人様、わたしを人間にしてくれてありがとう!やった、人間になれたよ!わーい、わーいっ!」

「わーい、わーい?」


 なんか、思ったのと違うのが出てきた……。

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