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新しい朝が来た

 ベッドの上で目を覚ました。

 小鳥の鳴き声、カーテン越しの柔らかな日差し……。

 新しい一日の始まりだ。 


 聖剣を抜いた翌日。

 つまり、メルと出会った次の日の朝を、俺は聖都クリシュの宿屋で迎えた。

 クリシュは大地母神エルネを祭る最大の聖地だ。

 

 俺は、昨晩に寝た姿勢のまま、いつものように毛布をしっかりと首まで掛けた状態で目が覚めた。

 ふっ、いつものように寝相などしない完璧な睡眠だ。


 聖地でメルと一緒にソフトクリームを食べた後、俺はスキル「飛翔」を使って最寄りの聖都に移動。

 常連にしているこの宿に泊まったのだ。


 メルは、先日の戦闘時と同様に、俺の超高速移動に事もなげに一緒に付いてきた。  

 何でも、剣としての属性ゆえか、意識しなくても俺の傍らにいることができるそうだ。


 そんなメルは隣の部屋にいる。

 昨晩は初めてのベッドに大興奮していたから、さぞかし熟睡していることだろう。


「さて、メルを起こしに行くか」


 今日はメルを連れて行く場所がある。

 その準備のために、早起きをしてもらおう。


「よっと」


 掛け声をかけて起き上がろうとした時、妙になめらかで柔らかい物体が左腕に押しつけられていることに気付いた。

 何だこれ?

 初めての感覚だ。


 物体の正体を探るために左腕を少し動かしてみた。

 途端に、もっと温かくて柔らかい物が俺の腕を包み込んでいった。

 

 だから、何だこれ?

 超気持ちいいんですけど!


 もっと感動を味わいたくなって、また少し腕を動かしてみた。


「……うんっ」


 毛布の下から女性のなまめかしい声が聞こえた。

 というか、メルの声だった。


「まさか……」

 ゆっくりと毛布をはぎ取った。 


 なんと、下着姿のメルが毛布の下から現れた!

 豊かな胸を俺の左腕に押し付けたまま眠っている!


「なっ、何しとんのじゃあああ!!」

 俺は慌てて左腕をメルの胸元から抜き取り、その場に跳び起きた。

 メルに当たっていた部分だけが熱を持ったかのように火照っている。


「……もう朝なの? ご主人様おはよ~」

 メルがあくびをしながら眠そうに目をこすった。

 

 白い肌を露わにしたまま上半身を起こすメルに対し、俺は急いで背を向けた。

 だって、あれだ、背中を向けないと女の子のアレやコレやが目に入ってしまうじゃないか!


「お前の部屋は隣だろ! どうしてここにいるんだよ!」

「だってぇ~」


 メルの呆けた声が背中越しに聞こえた。


「だって、メルは剣だもん。剣はご主人様のそばにいるものだよ」

 ……そういえば、昨晩にそんなこと言ってたね。

 でも、そういう属性は戦闘の時だけだって思うじゃん。


「と、とにかく自分の部屋に戻れ。そして、服を着てこい」 

「え~、ご主人様にもっとくっついていたいのに」


「駄目だ! 服を着てこい!」

「え~」


「目のやり場に困るんだよ!」

「もっと見ていいのに……」

 

 メルは駄々をこねながら、もぞもぞとベッドから降りると俺の部屋から出て行った。

 目で見ずとも、なんとく雰囲気でそんな感じがした。

 

 しばらくして落ち着いた俺は、ようやくベッドに腰を下ろした。

「まったく……」

 女の子の下着姿ぐらいで動揺していては、勇者の名折れだ。

 いや、下着だけじゃなかったな。

 目覚めの時に、俺の左腕に触れていた物はおっぱ……。


 ――ドッガーン!


 突然に扉が開き、メルが部屋に飛び込んでいた。 

「ご主人様! 服を着たよ!」

 その姿は下着の上に薄い透け透けの布をまとっただけだった。


「やり直しじゃああああ!!」

「え~!? この方がかわいいのに~」


 まったく、今日は大事な日なのに、朝からペースを乱されてしまった。

 今日は朝から聖都の中心部にある大聖堂に行き、エルネ教の大神官である聖女様に会う予定なのだ。

 

 伝承では、聖剣を抜いた勇者は、大地母神エルネの加護を求めて祈りを捧げる。

 そのためには、聖剣を抜いたことをまずは聖女様に報告する必要がある。

 エルネへの祈りは、勇者にとって最初の大事な儀式になる。

 

 厳粛な儀式になるはずのに、メルはこの軽いノリで大丈夫かな。

 なんか、不安になってきた……。

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