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それが仲間

 泣き崩れたベルーナの背中をメルが「よ~し、よ~し、よし!」と言ってさすっている。

 その間に俺は乳牛と向き合い、搾乳を手早く済ませた。


「さあ、ソフトクリームを作る準備ができたぞ」

 搾りたての牛乳をボウル満杯にした俺がにこやかに振り返ると、そこにはメルしかいなかった。


「あれ? 変態巨乳の通販エルフは?」

「ビックリしちゃった」

 俺の問いに、メルが驚いた顔で地面を指さした。


「どうした?」

「ベルーナさんが地面に消えちゃった」

「……詳しく聞こうか」


 メルは、身ぶり手ぶりでベルーナの様子を再現して見せた。

「うんっとね、ベルーナさんが泣き疲れてかわいそうだったから、メルがもう帰っていいよ、って言ったの」

「へえ。確かにそれはビックリだ」


「そしたらね、パッと嬉しそうな顔をしてね、土下座しながら呪文を唱えてね」

「それは止めないといけない流れだよね」


「地面に魔方陣が出てきて、ベルーナさんをあっという間に吸い込んじゃったんだ。ビックリだよ」

「きっと召喚魔法を自分にかけたんだな。アイツは魔王城に帰ったよ」


「へ~、そうなんだ。消えたんじゃないんだ。安心したよ。お城に帰れて良かったね」

「うん、そうだね。ってなるかあああああ!!!」


 激しく突っ込むあまり、苦労してためた牛乳をこぼしそうになった。


「ソフトクリーム対決は!? 至高と究極の料理対決はどうすんだよ!」

 俺の燃え上がった闘志はどこにぶつければいいんだ!?

 生き別れた憎き父親にギャフンと言わせたいぐらいにはモチベが上がっていたのに!


「対決なんてしなくていいよ」

 メルがあっけらかんとした声を上げた。

「よくはないだろう。これは人類対魔族の代理戦争でもあってだな……」

 俺が渋い顔をしていると、メルが目の前まで寄ってきた。


「メルはご主人様のソフトクリームが食べられれば、それで幸せなんだよ」

 そう言って、うれしそうにほほ笑んだ。


「そ、そうか……」

 くそっ、笑うとやっぱりかわいい。

 いや、笑ってなくてもかわいいが、メルにほほ笑まれると胸の奥がギュッてなって困る。

 なんだろうか、この感覚は。

 生まれて初めての感情でうまく説明できない。


「だから、早くソフトクリームを作ってよ。ご主人様!」

「お、おうっ、任せておけ!」

 メルの声に我に返った。

 そうだな。今はメルのためにソフトクリームを作ることに専念しよう。

 なんせ、食べさせてやるって約束したもんな。


 対決はなくなってしまったが、俺の闘志は再び燃え上がった。

 神の子アラン、もとい勇者アラン、やると決めたからには最高の仕事をしてみせる。


 俺は魔法とスキルと情熱と根性をフルに発揮し、ソフトクリームを作りに取り掛かった。

 未知の料理に試行錯誤している俺の隣にはメルがずっといて、「ご主人様、頑張れ~!」と応援しながら手伝ってくれた。

 

 俺は幼い頃から何でも1番だった。

 剣も魔法も誰よりもできた。

 俺に並び立つ存在などいなかった。

 だから、これまでずっと1人で冒険をしてきた。

 

 そんな俺にとって、誰かに応援してもらいながら、手伝ってもらいながら、一緒に何かをするなんて初めての経験だった。

 誰かが一緒だと、胸の中が温かくなるってことを始めて知った。


「できたぞ!」

「わ~い! できた! できた!」


 完成したソフトクリームを木の皿にたっぷりと盛り付けた。

 ソフトクリームは、俺が当初の予定通りには上手にできなかった。

 メルの話を聞く限りでは、ソフトクリームは氷菓とメレンゲの中間ぐらいの柔らかさのはずだった。

 しかし、俺が作ったソフトクリームはしゃばしゃばで、ダマもたくさんあった。

 つまりは、とてもおいしそうには見えなかった。


「やったぁ! 2千年間も夢見たソフトクリームだよ」

 それでも、メルは喜んでくれた。

「さあ、食べてくれ」

「うん」

 メルはスプーンでソフトクリームをすくうと、小さな口いっぱいに頬張った。

 そして、目を閉じ、ゆっくりと味わうように口を動かしてる。


「まずいよな。悪かった」

 俺はメルに謝った。

 2千年も楽しみにしていたのに、おいしいソフトクリームを食べさせてあげられなかった。

 料理下手な自分が不甲斐ない……。


「おいしいよ」

「え!?」

 

 メルが頬を高揚させた。

「と~っても、おいしいよ。ご主人様」

 そして、にっこりとほほ笑んだ。

「ご主人様が作ったソフトクリームは絶対においしいって思ったんだ! そしたらね、本当においしかったよ!」

 メルは俺に飛び付いて抱きつくと、うれしそうに跳びはねた。


「そうか。うまいか……」

「うん! とってもおいしいよ!」

「そうか……」

「ご主人様?」

 急にメルが心配そうに俺の顔をのぞき込んだ。


「また泣いてるの?」


 メルに言われて、俺の頬に涙が伝わっていることに気付いた。  

 涙に触れると温かかった。

 これまでの冒険で流した悲しさ、痛み、恐怖による冷たい涙ではなかった。

 

 その涙をメルが人さし指でぬぐった。

「メルがずっとそばにいるから泣かないでね」

 

 そうか、俺はもう1人じゃないんだ。

 これからはメルと一緒に冒険をするんだ。

 そう思うと、嬉しくてまた涙がこぼれた。

 嬉し涙っていうものは温かいと始めて知った。

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