聖剣を抜こう!
聖なる大地に半身を埋めた聖剣に向かって手を伸ばす。
この聖剣を抜いた者が勇者となり、魔王を倒すという伝説を実現させるために。
「いよいよだ」
3年前に魔王が復活して以来、魔王軍は人類への猛攻を続けている。
諸国の連合軍は敗戦を続けており、すでに戦争では勝ち目はない。
つまり、誰かが勇者となり、魔王を直接倒す以外に人類が勝つ術はないのだ。
不死身の魔王にダメージを与えられる唯一の武器。
それが聖剣だ。
聖剣は、この辺境の地に約2千年も前から半身を埋め、勇者を待っている。
数多の英雄が聖剣を抜こうとしたが、誰も抜けていない。
それでも、俺に不安はなかった。
厳しい修行と冒険の結果、俺はすでに大賢者と剣聖の称号を得ている。
つまりは人類最強。
俺がこの聖剣を抜かねば、誰が抜くと言うのか!
「聖剣よ我が意に応えよ!」
青空に向かって垂直に立つ柄に右手をかけ、引っ張った。
あれ?
抜けない……。
「ふっ、さすがに2千年間誰も抜けなかった聖剣だ。片手で抜こうなんて、侮りすぎたか」
今度は両手で柄を持ち、力を存分に伝えられるように腰を落とす。
ちょっと格好悪いけど、仕方がない。
本当はもっと格好良く抜きたかった。
なんせ、勇者の伝説が始まった瞬間として後世で語り継がれる場面だからな。
まあ、この場所は樹海の奥地だし、今の場面を見ている奴は誰もいないんだけどさ。
さあ、やり直しだ。
手加減なしで行くぞ。
「聖剣よ我が意に応えよ!」
って、抜けねええええええええええ!!!!
なんだこれ!ピクリともしねーぞ!!!!!
「ごっらあああああ!!抜けろ!!」
トロールキングを倒した時よりも力を込める。
「ぐぬうううう!!抜けろ!」
最硬の鱗を持つ黒竜の首を落とした時よりも本気になった。
なのに、
「抜けない……」
汗だくになった俺は聖剣の柄から手を離し、呆然と立ち尽くした。
俺に聖剣が抜けないだと!?
おかしい。そんなはずはない。
俺は齢18にして大賢者と剣聖の称号を得た男だ。
神に愛された才能と、それを開花させる努力と根性を発揮できる男だぞ。
自他共に認める超絶天才の神の子アランだぞ!
そんな俺が、勇者らしく18歳の誕生日に聖地に来たっていうのに……。
「力では抜けないとなると……魔法か?」
なるほど、剛力ではなく、頭脳が試されるって訳か。
「いいだろう。最上級の魔法をお見舞いしてやるよ。ぶっ壊れても知らねーからな!」
俺は天を指さしながら魔法詠唱を始める。
「天に漂う白金の神々よ一筋の光となれ……」
途端に青天が曇天になり、暗雲の中から幾筋の光が漏れ始めた。
「神雷裂柱!!!」
雲から稲妻が発生し、轟音とともに聖剣にぶち当たった!
攻撃魔法の中でも最強の雷属性において、最上位の破壊の魔法だ。
この魔法でぶっ壊せない物体はこの世にない……って、おおおおおっい!
「なんで、無傷なんじゃあああああ!!!」
聖剣は先ほどと同じ姿で、聖地に埋まっていた。
まるで俺をあざ笑うかのように。
「よしっ、分かった。そっちがその気なら、本当の本気でやってやる!」
俺は聖剣に向かって両手を突き出すと、思い付く限りの攻撃魔法を放った。
「どりゃあああああああああああ(魔法詠唱略)!!!!!」
爆破、炎、氷、風、水、土、酸、鋼、精神、毒、即死……。
ありとあらゆる属性の上位魔法を聖剣に叩き込んでいく。
しかし……。
「無傷かいっ!」
頭がクラっとした。
MPが尽きかけているようだ。
これ以上の魔法使用は危ない。
先ほどは体力を使い、今回は精神力を使ったので体はフラフラだ。
しかし、力でも魔法でも抜けないとなると……。
「スキルしかない!」