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「うっうん…。何とか」
「でも驚いたねぇ。クロウさん、ULALAちゃんのこと、好きだったんだ」
「全然知らなかったんだけどね…」
「う~ん。でもクロウさん、ずっとULALAちゃんのこと、見てたよ。リハーサルの時からずっと」
「えっ、そうなの?」
「うん…。どこかで共演とかしたの?」
「記憶にないけどなぁ。…でも確かに顔合わせをしたことはあるから、どっかでは会ってたと思うけど…」
「おーい、そこの2人! CM終わるよ」
司会者の声で、アタシと女の子はすぐに切り替える。
「「はい!」」
…そしてその後、彼が戻って来ることはなかった。
司会者もあえてそこには触れなかったけど…今頃電話が鳴り響いているだろうな。
視聴者からの、問い掛けの電話が…。
「とんだ災難だったわねぇ。うらら」
帰り道、マネージャーの車で送ってもらいながら、アタシは深くため息を吐いた。
「ホント。これからの仕事に影響大ね。しかも返答はどうしたとやらの」
「そこは濁すしかないわね。そもそもあまりしゃべったことがないのに、クロウくん、案外情熱家なのね」
「本当におバカだったのね。アタシの本性も知らず、表の顔に騙されているんだもの」
「そのぐらい、アナタの演技力がスゴイってことでしょ? まっ、騒がれるけど、その分、仕事も入ると思うから」
「嬉しいような、ありがたくないような…」
「でもどうするの? クロウくんのこと。OKならばこっちもそういう対応するけど?」
「事務所的にはOK?」
「ウチは不倫とかめんどくさい恋愛じゃない限り、OKよ。縛ったって、しちゃうもんはしちゃうし。下手に縛り付けたって意味ないわよ」
「理解のあるこって…」
「で? どうするの?」
「…ちょっと考えさせてくれる?」
「分かった。でもあんまり時間はかけないでね」
「ラジャ」
家に着いた後、アタシは自室に戻った。
家族と同居しているけど、もう夜も遅く、リビングには両親が晩酌をしていた。
「ただいまぁ」
「おかえりぃ」
「お疲れさん」
ウチは余計な干渉はしない主義だ。話したいことがあるなら、自ら話さなければ誰も何もしない。
一見冷たいようだが、反抗期の時ほどありがたいと思ったことはない。
そして今も、芸能生活に疲れているアタシを呼び止め、アレコレ聞いてこないのが嬉しい。
部屋で着替えた後、シャワーを浴びに行こうと思っていたら、ケータイがブルッた。
画面を見ると、何とクロウから!
…いつナンバー交換したっけ? こういうの、アタシはあまりしないタイプなんだけどな。
まあ何はともあれ、出ないとイロイロあるだろう。
「―はい。ULALAです」
『あっ、ULALAさん! クロウです! 今、大丈夫ですか?』
…彼は深夜とも思えないぐらい、ハイテンションだった。
疲れた体にはキツイな…。
「ええ、大丈夫です」
顔は引きつりながらも、声はULALAを装う。
『今日は本当にすみません! オレ、舞い上がっちゃって…』
「はい、びっくりしました。マネージャーさんに怒られちゃいましたよね?」
『うん、こってり…』
ご愁傷様、と冷めた顔で思った。
『それで…返事、なんだけど。ULALAさんはどうかな? オレのこと…』