『ULALA』の笑顔は誰のもの?
19歳の時、街で歩いていた時、とある事務所から声をかけられた。
10代~20代の若い女性を中心に扱う、芸能事務所だった。
いろいろと考え、話し合った結果、アタシ、うららは芸能界デビューをした。
「良いねぇ、良いねぇ。可愛いよ、ULALAちゃん」
「えへっ♪ ありがとうございまーす!」
カメラに向かって、ニッコリ笑顔☆
「おっ、その笑顔、最高! いただき!」
「はい、いただいちゃってくださーい」
アタシは水着を着て、クルクルと表情とポーズを変える。
有名マンガ雑誌の巻頭グラビアを担当することになった。
これで3回目。マネージャーからは人気がある証拠だと大喜びされた。
…まっ、素直に喜んでおこう。
「それじゃあ今日はここまで。お疲れ様、ULALAちゃん」
「はい! お疲れさまでしたぁ」
女性マネージャーの真希さんにタオルケットを体にかけてもらいながら、アタシはスタジオを後にした。
そして控え室に到着。
「お疲れ様! ULALA。撮影も順調だったし、カメラマンも良い気分で仕事を終えたみたいだし。今日も大成功ね!」
「そうね。ところでお茶ちょうだい。あっついの」
「あっ、はいはい」
今日の控え室、和室で良かった。
アタシはタオルケットを体に巻き付け、畳の上に寝転がった。
「あ~、つっかれた。しんどい。今日は室内撮影なだけ、まだマシか」
「前は10度前後で水着姿だったもんね。アレはきつかったわね」
「…ったく。いっくら若いからって、何でもこなせると思わないでほしいのよね」
ぶちぶち言いながら、真希さんが淹れてくれたお茶をすする。
「あ~お茶が美味い。梅干が欲しくなるなぁ」
「あっ、あるわよ。緑茶用は大きな梅干が良かったのよね?」
真希さんは大きなカバンから、梅干のパックを取り出し、開けて見せてくれた。
「きゃ~♪ 真希さん、さっすが! 大好き!」
そう言いつつ梅干を1つつまみ、お茶の中に入れた。
そして爪楊枝を取って、温かくなった梅干をいただきながら、お茶をすする。
「あ~! たまらん! この為に、頑張っているって気がするわ~」
体の底からあたたまる。
梅干の酸っぱさと、温かいお茶の組み合わせが何とも言えない。
「この後、スケジュールどうなっているんだっけ?」
「雑誌の取材が2本、後は歌番組に出演。ちなみに生放送で生歌だから」
「あいよ。歌詞はすでに記憶してあるから、心配しないで」
「分かったわ。…あなたはかなり年寄り臭いところがあるけど、こういうところはしっかりしているからありがたいわ」
「まあね。ちゃんとお金を貰っている以上、働きは見せてやるわよ」
ウチの家はそんなに裕福ではなく、中学時代からバイトをしていた。
そのおかげか、すっかり外面だけは良くなってしまった。
こういうところを真希さんに見出され、アタシは芸能界でやっていくことにした。
「まっ、芸能界なんて若いうちが華よね。枯れ始めたらポイ捨て当たり前ってカンジ?」
「こらこらっ! 確かにグラビア系はそういうのが多いけど、ウチはちゃんと生き残れるタレントや女優を育ててもいるんだから」
「…ふむ。ちなみに今のアタシのポジションって何だろう?」
仕事は主に、モデルやCMが多い。
演技の仕事や歌の仕事もボチボチ入る。
地方営業も少なくもない。
「う~ん。マルチタレント、かしらね? でも芸能界ってマルチタレントの方が生き残れる可能性高いわよ」
「アタシ、そんなにこの世界に執着していないんだけどねぇ」
「そんなこと言わないでちょうだい。あなたは器用なんだし、生き残れるわよ」
「はいはい。とりあえず今はアイドルとして、頑張りましょうか。マルチタレントも良いけど、まだ若いうちはアイドルと名乗りたいわ」
「そっそうね。うららはまだ20歳だものね」
…言いよどんでいるところを見ると、あんまり若者扱いされていないな。
まっ、性格なんだからしょうがない。
「さて、そろそろ着替えていきましょうか」
「うい」
アタシはお茶を飲み干すと、更衣室に入った。
その後、事務所の一室で雑誌の取材を二件こなし、車で放送局に移動。
慌てて着替えてメイクして、リハーサルも終えて、無事本番。
アイドルを中心に出す人気歌番組だ。
なので共演者も同じぐらいの年齢が多い。
「さて、次に歌ってくれるのは大人気アイドル・ULALAちゃんでーす!」