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ある日あの時ある場所の

作者: よもやま

 太陽の光は容赦なくアスファルトから照り返す。

額から落ちてくる雫を手の甲でぬぐって、たつきはだるそうに歩く。

昔に比べるとずいぶんと歩きやすくなっているが、アスファルトが光を照り返す事で増す暑さに、多少不便でも今すぐタイムスリップでもして幾分か涼しいであろう昔に行きたい衝動に駆られた。

ついさっき家で時代劇をみてきたばかりだ、想像する材料には困らない。

漫画のような展開が頭の中で膨らんでいく。 自分は侍で立派な刀を腰に掲げて胸を張り悠々と歩く。疲れたら近くの茶屋で団子を食べ、お茶をすする。

再び立ち上がり、また歩き出す。

 そんな光景ばかりが繰り返され、自分の中には団子と茶をすする侍しかないのかと自分で自分に失望した。

「あああああもおおおう!」

突然頭を抱えて叫ぶたつきを通行人が横目で見ながら歩いていく。うずくまったまた動かないたつきに、かわいらしい声がかけられた。

「あのー、どうしました?」

はっと我に返ったたつきは慌てて立ち上がっり、辺りを見回す。素通りしていく人たちはたつきを指して何か言う様子もなかったが、その視線はしっかりとたつきに向けながら歩いていた。

通行人の様子と、目の前の少女をみて、恥ずかしくなり、たつきの顔はみるみるうちに赤くなっていった。今にも顔から火が出そうだ。

少女はたつきの様子をみて、くすりと笑った。

「顔真っ赤ですけど、気分悪いわけじゃないみたいですね」

「ええと、あははは……」

恥ずかしさで頭が真っ白になったたつきからは、乾いた笑いしか出てこなかった。

少しの間笑いあった後、通行人の視線が今度は二人に向いていることに気づき、二人そろって顔を赤くした。そして、そそくさと近くの喫茶店へと移動した。


 偶然であった少女は、不思議な人だった。

喫茶店で少し話しただけでもたくさんの表情を見ることができた。

最初は大人しい子なのかと思ったが、幕末とか新撰組なんかの話になると目を輝かせて語りだした。たつきの知識なんて、沖田総司だとか土方歳三だとかの名前と、水色の羽織くらいのものだ。あっという間に理解できなくなった。

「あ、すいません。面白くないですよねこんな話」

笑顔を貼り付け、相槌のパターンが減りだしたたつきに気づいた少女が、慌てて話を止めた。

「大丈夫だよ。判らないところもあるけど、もっとその話聞きたい」

たつきはそれがなんだか名残惜しくて、話の続きを促した。少女は、わからないところってどこですかと言って、たつきが答えるとほとんどじゃないですかと笑ってわかりやすく丁寧に教えてくれた。

 途中、彼女はカフェオレで口を潤しながらも休みなく話し続けた。気づけば太陽が傾き、オレンジ色の日が差し込み始めていた。

少女の話は尽きなかったが、たつきは窓の外の様子を見て、時計を取り出した。

「もしかして、何か予定がありました……?」

時計を取り出したたつきに、少女が申し訳なさそうに聞いてきた。たつきはしまった。という顔をして言った。

「いや、予定とかはないよ。今日はぶらぶらしてただけだし。ただ、もう夕方だから君は大丈夫なのかなって思って」

そして最後に話の邪魔してごめんね。と付け足した。

少女は目を丸くしてから窓の外をみた。そしてあっと一言漏らし、腕時計を確認した。

「ごめんなさい!あたしもう帰らないと!父が門限にうるさくて!あたしの話、聞いてくれてありがとうございました!」

早口にそういって少女は頭を下げた。そのまま慌しく席を立ち去っていく。

しばらく呆然と座っていたたつきが自分も帰ろうとかと立ち上がった時、少女が戻ってきた。

「あれ? どうしたの? 忘れ物?」

たつきが戻ってきた少女に聞くと、

「いえ、あの、これ!」

少女は小さな封筒を両手で持って差し出した。たつきが受け取ると、

「あとで読んでください! 今日は本当にありがとうございました!」

と言い放ち、走って去っていった。今度は戻ってこなかった。

 たつきは家に帰るとすぐに渡された封筒をとりだした。淡い緑色をしたシンプルな洋封筒。中には封筒と同じように淡い緑色の便箋。

そこには、今日であったことは偶然ではないこと、少女は今まで何度もたつきを見ていて気にしていたことがきれいな字で書いてあった。最後には良かったらまた会ってくださいという言葉と、メールアドレス、そして彼女の名前が書いてあった。

たつきはすぐにメールを作成した。


「たつきさん、次はいつあえますか?」










とくに意味もない平凡な話でしたが、いかがでしたでしょうか。

暇なとき、ぼけーっと思い出して貰えれば幸いです。

読んでいただきありがとうございました。


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