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29.模擬戦

 ギルド長と騎士団長に報告を行なった翌日の朝。

 予想通り、ドルビドが城への招待状を持って家にやってきた。

 前回と同じように城へ移動して、城の前で待っていた騎士団長の案内で謁見の間に向かっていると思っていたが、前回と違う道を歩いていた。


「来て早々にこれか」


「国王様も見たいとおっしゃられましたので。報酬の上乗せに期待してください」


 到着したのはギルドにある訓練場に近い広場だった。城の中にあるということは、王族が使うような場所なのだろう。


 ナーキは当然のように訓練場の中央で立っていた。


「そんな動きにくい格好じゃなくて、さっさと着替えてこい」


「言われなくてもそうする」


 控えていたメイドの案内で空き部屋に移動した。メイドは外で待たせて、いつもの軽装備に着替えて部屋を出る。


 訓練場に戻ると国王と王妃に王子3人と王女2人が椅子に座っていた。


 まっていたと言わんばかりの笑顔だ。人を殴りたいと思ったのは久しぶりだ。


「よろしくお願いします」


「お手柔らかに」


 騎士団長と一礼をかわして、騎士団長と俺の間に入るナーキの合図を待つ。


 お互いに構えたのを確認したナーキの声が上がる。


「始め!」


 ナーキの声と同時に騎士団長の懐に入り込む。腹に蹴りのフリをして、騎士団長の背後に移動して斬りかかる。


 城には治癒魔法が使える者がいると聞く。多少の傷は大丈夫だろうと思っていたが、俺の行動は見られていたらしい。


 俺に背を向けていた騎士団長が、俺と向き合うように体を捻り、ロングソードで俺の短剣を受け止めた。


「素早い。ギリギリで反応できてよかった」


「あれで終わってくれたら楽だったんだけどな」


「まだまだこれからですよ。次は私から行きますね!」


 力は騎士団長の方が上。ロングソードで短剣を弾かれる。無防備になった腹に騎士団長の攻撃が迫る。


 左足に思いっきり力を入れて右に飛ぶ。騎士団長の攻撃は空振りに終わらず、右へソードを一閃して、剣先が俺の頬をかすめる。


「あの体制から回避されるとは思いませんでした」


「回避は俺の得意分野だからな」


 頬に微かな痛みを感じる。血は出ていないようだ。


「正面から来ていただけますか?」


「そうだな。早めに終わらせよう」


 持久戦になれば俺が有利だとは思うが、さっさとここから帰りたいしな。

 騎士団長が構えたのを見て、ゆっくりと近づいていく。


「それは何の真似ですか?」


「騎士団長の提案通り、正面から行っている」


「斬りますよ?」


「どうぞ?」


 一歩、また一歩と騎士団長に近づいていく。

 ロングソードが届く範囲に入った瞬間、


「はっ!」


 騎士団長がロングソードを振り下ろす。

 最小限の移動でロングソードを避ける。

 騎士団長がロングソードを横一線に斬る。

 一気に騎士団長の懐に入り、首元に短剣を向ける。


「参りました。流石ですね」


「回避が得意だと言っただろ」


 騎士団長の首元から短剣を離すとナーキが近づいて来た。


「さらに速くなったんじゃねえか?」


「そうかもな」


 ナーキが言うのだから、昔よりは速く動けるようになっているのだろう。

 鬼人化を使えば、もっと速く動くことができるのだろうか?


「見事見事! 騎士団長に勝つとは予想外だったが、見応えのある試合だった」


「「ありがとうございます」」


 騎士団長と声が重なる。そう思うんなら報酬で示せと思ったりするが、口には出さない。


「依頼も達成してくれた貴殿には、宝物庫から一つ好きな物と、大金貨20枚を報酬として支払おう。ところで、眷属の冒険者になる気はないか?」


「ありません。縛られず気ままに生きるのが性に合っていますので」


「そうか。残念だ。騎士団長、アド殿を宝物庫へ案内を頼むぞ。アド殿、また何かあればよろしく頼むぞ」


「かしこまりました」


「自分に出来る依頼であれば、お引き受けいたします」


 国王達が去っていく。騎士団長の案内でナーキとドルビドと一緒に宝物庫へ向かう。


「お好きなものをお選びください。渡せないものは他の場所に保管してあるので、気兼ねなくどうぞ」


 一通り見た結果、未開封の金の宝箱をもらうことにした。


「そちらでよろしいのですか?」


「あぁ。使えそうなものはなかったしな。何が出てくるのか楽しみだ」


「そうですか。こちらが、大金貨20枚となります」


 袋に入った大金貨を受け取る。中身の確認はしない。国王がせこい真似をしようものなら、国民からの信用がなくなるからな。


 ちなみに、出された食べ物を疑うのも信用されていないと言うことで、不敬罪で捕まることもあるらしい。


 前回の水を疑わずに飲んだのは正解だったと、ドルビドから聞いた。


「今日は楽しかった。またよろしくお願いします」


「二度とごめんだ」


 騎士団長に見送られながら、城を後にする。

 試合だから勝てたものの、殺し合いなら俺は死んでいただろう。


 殺さずに無力化すると言うのは、強者からすれば難しいことなのだろう。

 騎士団長に一瞬の戸惑いがあったからこそ、俺は勝てただけである。


 今度やったら容赦無く振り下ろされることは確実だ。

 避けられても近づくことはできないかもしれない。


 何があっても、二度とやるものか。


 その日の夜。ドルビドとナーキの3人で酒場で飲むことにした。


「「「乾杯」」」


「アドさん、お疲れ様でした」


「お疲れ様だったな、アド」


「全くだ」


「アドさんがあそこまで強いとは思いませんでした」


「次は俺とだな」


「殺し合いなら騎士団長の方が強いだろうな。手も足も出ずに負けそうだ」


「それほどですか? 簡単に攻撃を避けていたと思うのですが」


「おい、無視すんな」


「動きが全部見られてたからな。反応できただろうし、殺し合いなら死んでたな。ナーキは、騎士団長の実力を知ってるのか?」


「そうなんですか」


「やり合ったことはないからな。聞いた話じゃランクAの魔物を瞬殺できるとかだったか。そんなことより、久しぶりに俺とやろうぜ!」


「嫌だ。手の内が知られてる相手とはやらない」


「なんだよ、ケチケチすんなよ~」


「そういえば、明日のオークションに参加されるのですか?」


「あぁ。目的は奴隷だけどな」


「一緒に行きませんか? 私も参加しますので」


「こちらから頼む。地図はもらったが知っている奴がいる方が安心できるからな」


 明日はドルビドとオークションに行くことが決定し、酔っ払いのナーキをギルドまで送って解散となった。

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