19.夢
精神的に疲れた。
ドルビドの店から自分の家に帰るまでの記憶が曖昧だ。
ドルビドと昼食を食べたことは覚えているが、味は覚えていない。
「「おかえりなさいませ、ご主人様」」
メイド服を着た双子が出迎えてくれる。
双子の笑顔に癒される。
「ただいま。他の皆は?」
「フィーさんとルナさんは買い物に行かれました」
「オーギスとマサ兄は模擬戦するとギルドに行かれました」
昨日はオーギスをさん付けで呼んでいたが、オーギスが双子を「ルタ姉、リタ姉」と呼んだことで、オーギスと呼び捨てになった。
弟ができたみたいだと双子は喜んでいた。
マサは双子に兄呼びさせている。
双子が嫌がっている様子はないので、マサに注意はしていない。
「そうか。ちょっと疲れたから、部屋で眠る」
「「かしこまりました」」
自分の部屋に入ってベッドに倒れこむ。
昨日までの疲れと今日の精神的な疲れで、すぐに眠ることができた。
夢を見た。
何かを食べている夢だ。
うまい。今まで食べて来たどの肉よりもうまい。
骨もお菓子感覚で食べられる。
食べれば食べるほどに力がみなぎる。
もっと。もっとだ。
それと目があった。俺が手に持っているのは、エルフ族の頭。
俺は頭にかぶりつく。脳みそは濃厚で、眼球はプチプチとしていてうまい。
モットオレニクワセロ!
夢を見た。
仲睦まじい男女6人。
男が鬼へと変わる。
愛した女性を喰らい、愛してくれた女性を殺し、親友の男性を殺し、血の繋がった兄妹を喰らう。
鬼は吼える。
もっと食いたいと、涙を流しながら。
夢を、見た。
俺が鬼となって、ルナを喰らい、マサを殺し、フィーとオーギスを喰らい、ルタとリタを殺した。
やめろ。ウマイ。やめろ。タノシイ。やめろ! モットクワセロ!
周りが光に包まれた。眩しくて目を開けていられない。
ヤメロ! コレハオレノカラダ!
鬼が小さくなっていく。
あぁ、そうか。光の正体を理解した。
呪いが鬼を抑えてくれたのか。
夢を叶えさせてくれるだけじゃなく、俺を守ってくれるのか。
呪いに感謝なんておかしいけど、ありがとう。
絶対に、夢を叶えるから。
一番近いところで見ていてくれ。
中身は空っぽじゃなかった。
宝箱を開けたら、祝福が入っていたんだ。
目を覚ますと、誰かに俺の手を両手で包むように握られていた。
「おはようございます。ご主人様」
「ルナ?」
「はい。うなされていたので、手を握っていました」
「そうか。ありがとう」
俺の手を離そうとするルナの手を握って離れないようにする。
「怖い夢でも見られましたか?」
驚きながらも心配そうにこちらを見てくる。
「あぁ。もう少しだけ、このままでいてくれ」
「はい」
俺の手を離そうとしていたルナの両手が俺の手を優しく包み込む。
暖かい。
「ルナ、ずっとそばにいてくれ」
「はい。ずっとそばにいます」
…今すごく恥ずかしいことを言ったな?
ちらりとルナを見る。真っ赤な顔が視界に入った。
ルナに背を向けて手を離す。ルナの手が離れないので、離してもいいと伝える。
「も、もういいぞ」
「は、はい! ゆ、夕飯の支度をして来ます! できましたらお呼びしますので、ゆっくりとお休みください」
ルナが部屋から出ていく。
ゆっくりと体を起こしてルナが握ってくれた手を見る。
視線を感じて扉の方を向けば、ニヤニヤと笑みを浮かべるマサがいた。
「魔眼」
ピクリとも動かなくなったマサに近づいていき、部屋の中に入れる。
誰にも見られないように扉を閉めて、お仕置きの開始だ。
(イダダダダダダダッ! 頭が! 頭が割れる!)
マサの声に出せない悲鳴は、誰にも届くことはなかった。
夕食の用意が出来たとルナが呼びに来てくれたので、大部屋に向かう。
顔の形が変わっていないか確認するように顔を撫でるマサがいた。
大丈夫だ。ちゃんと手加減はした。
マサの行動にフィーとオーギスは首を傾けている。
ルタとリタは気にすることなくテーブルに夕飯を並べていく。
基本的に掃除、洗濯、料理は双子の担当だが、フィーは料理が趣味ということもあって双子の手伝いをしている。
ルナは料理に興味を持ったようで、フィーと双子から料理を教わっているようだ。
食べさせたい相手がいるんだろうが、深く聞くことはしない。
「王様から依頼を受けた。明日はその準備をする。わかってると思うが、2の迷宮に入る」
夕食を食べ終えて双子に後片付けを任せて、フィー達に今後の予定を話す。
「ご主人様だけですか?」
ルナが心配そうに聞いてくる。
置いていかれると思っているのだろう。
「ルナ達にもついてきてもらう。俺の持ち物を持って行ったところで、誰からも文句は言われないだろう」
「「「「かしこまりました」」」」
戦力は多い方がいい。
何より、ルナ達には強くなってもらわないと困るからな。
2の迷宮には高ランクの魔物が出るらしいから、上手くいけば全員の強化ができる。
リスクは高い。誰かを失う可能性もある。
いや、絶対に失わない。
全員で俺の夢を叶えてもらわないといけないからな。
「ルタとリタには留守番を頼む。数日は帰ってこないと思っておいてくれ」
片付けを終えた双子が近づいてきたので、留守番を頼む。
「「かしこまりました」」
「明日は自主訓練でもしてくれ。俺は付き合いことができないが、フィーがいれば傷はすぐに治せるだろう。
ただし、無茶だけはするなよ? 明後日は迷宮に入る予定なんだからな」
「「「「はい!」」」」
「いい返事だ。俺はそろそろ寝るが、あまり遅くまで起きているなよ」
『『『おやすみなさいませ。ご主人様』』』
6人の揃った声を聞いてから部屋へ移動する。
昼間に見た夢を思い出し、眠ることができずにいた。
ないとはわかっていても、鬼になってしまうかも知らない。
あの子達を喰らって、殺してしまうかもしれない。
ふと、ルナが握ってくれた手に視線を落とす。
彼女なら、大丈夫と言ってくれるのだろうか?
そうだ。大丈夫だ。
深呼吸してからベッドに横たわる。
俺は、鬼に負けない。
目を閉じると、手に暖かさがよみがえる。
体の中心も、暖かい気がした。
二つの暖かさを感じながら、眠りについた。




