18.招待状
王国に帰って来た翌日。
朝からドルビドが家に来た。
嫌な予感しかしない。
「予想通り、城への招待状が届きましたよ。
招待状とは言いましたが、拒否権はありませんけどね」
本当に来るとは思っていなかった。ため息しか出ない。
「だろうな。流石に今日中とかではないだろ?」
「アドさんの勘の良さには感服いてします」
「馬鹿じゃないのか?
これだから王族とか貴族は嫌いなんだ」
「全くです。私の店へ迎えが来ているので、こちらに着替えてください」
ドルビドがマジックバッグから出したのは、貴族がよく着ているような派手な服だった。
「こんな派手な服を着ないとダメなのか?」
「相手は王族ですからね。冒険者とはいえ、装備を着たままではダメでしょう」
「はぁ…着替えるから部屋から出てくれ。
行くのは俺とドルビドだけでいいんだよな?」
ドルビドが部屋から出たことを確認して着替えを始める。
ドアは開けたままでお互いの声が聞こえるようにして話を続ける。
「そのようです。アドさんが1人で鬼を討伐したことは知られているようですね」
「エルフ族が報告したんだろうな。
口止めしておけばよかったな」
「王国もあの鬼が希少種であることは知っていますからね。
口止めしても知られるのは時間の問題だったと思いますよ?」
「それもそうか。着替え終わったぞ。
おかしくないか?」
着替え終えたことを伝えてドルビドに部屋へ入ってもらい、服装の確認をしてもらう。
「えぇ。とてもお似合いですよ」
「世辞でも嬉しいものだな」
「寸法が間違っていなくて安心しました」
「それに一番驚いてるんだが?」
「商人は見ただけでなんとなくわかるものですよ」
「絶対にドルビドだけだと思うぞ」
ドルビドと部屋を出る。
俺の姿を見てマサが笑いをこらえていたが、ルナとフィーによって黙らされていた。
6人の奴隷達に見送られて、王族からの迎えが来ているらしいドルビドの店に向かう。
ドルビドの店に到着すると、豪華という言葉が似合う馬車が止まっていた。
「お待ちしておりました。アド様とドルビド様ですね?」
「そうだ」
「そうです」
「私は御者を務めさせていただきます。お二人はどうぞ中へお入りください」
男性が扉を開けてくれたので中に入る。
見た目だけでなく中も豪華だった。
こんなもので冒険者を迎えに来るのか。
王族とか貴族は見栄っ張りだと聞いていたが、予想以上だ。
隣には平然としているドルビドがいる。
慣れてるな。
「気にしない方が楽ですよ」
「そうだな」
俺たちが座ったことを確認した男性が扉を閉める。
馬車が動き出した。揺れは少ない。
「見た目だけじゃないんだな」
「それはそうですよ。私たちは大事なお客様ですからね」
「そんなものか」
窓から外を見ると城にどんどん近づいて行く。
ここまで近づいたのは初めてかもしれない。
低ランクの冒険者からしたら、城の近くというのは住む世界が違うと思える場所だからな。
近づきたいと思うような場所ではない。
「到着いたしました。お足元に気をつけてお降りください」
御者の男性が扉を開けてくれたので馬車から降りる。
近くで見る城は、神々しいと感じた。
本当に神様でも住んでいそうだ。
住んでいるのは常識知らずの王族だが。
「ここからは私が案内をさせていただきます」
俺たちの到着を待っていたのだろう、一目で騎士だとわかる男性が近づいて来る。
彼が案内をしてくれるようだ。
「よろしく、お願いします」
「アドさんは冒険者だと聞いています。
いつも通りで大丈夫ですよ」
どう接すればいいのかわからずにどもってしまったが、普通でいいとのことで気を落ち着かせる。
「助かる」
「国王様の前でも大丈夫ですので、あまり気を張らずに」
「そうなのか?」
「はい。アドさんは、英雄ですから」
英雄。エルフ族からは宴会中に散々言われたが、全く実感が持てないな。
「こちらの部屋で少々お待ちください。
部屋にある飲み物はご自由にお飲みください」
騎士の彼に案内された部屋に入って椅子に座る。
派手な装飾はないが、高いだろうなと思うものは置いてある。
一部屋にどれだけ金を使っているのか、余計なものは触らないでおこうと思った。
「英雄様はなにか飲まれますか?」
高価そうな瓶に水や酒、果汁などが入っている中で水が入っている瓶を手に取って問いかけて来るドルビドに疲れたように椅子へもたれかかりながら笑みを向ける。
「喧嘩なら買うぞ?」
「冗談ですよ」
ドルビドがコップに水を注いで俺の前に置く。
「はぁ…めんどくさい」
「まあまあ。エルフ族だけでなく、王族からも報酬がもらえるんですから」
「もらえると決まったわけじゃないだろ?」
椅子の背もたれから背中を離していき、ドルビドが注いでくれた水の入ったコップを掴んで飲む。
「エルフ族だけにアドさんとの繋がりを持たせないようにするために報酬はもらえると思いますよ」
「そんなものか」
空になったコップをテーブルに置く。
無意識のうちに水を飲み干していたようだ。
城に招待されて王族と会うというのに緊張しない奴はいないということか。
扉がノックしてドルビドが返事をすると入って来たのはメイドだった。
「失礼します。国王様がお待ちです」
とうとう王様とご対面か。
メイドに案内されて到着した場所は謁見の間と呼びにふさわしい場所だった。
メイドが離れていく。
俺たちはここに立っていればいいようだ。
落ち着きなくキョロキョロと周りを見るようなことはせずに視線の先にいる2人を見つめる。
階段を上った先にある豪華な二つの椅子に座る男女。
国王と王妃だ。
周りに貴族などはおらず、メイドと執事と思われる男女が数名いるだけだ。
多少の無礼は許してもらえるような状況か。
跪いて頭でも下げればいいのかと思ったがその必要はないようだ。
「非公式の場だ。気軽にしてくれて良い。
いきなりの招待にもかかわらずよく来てくれた。感謝する。
私が国王のダビルオル・ガトルドだ」
「王妃のナフィード・ガトルドです」
「ドル商会会長のドルビドでございます。
しがない商人を招待いただき、誠にありがとうございます」
「冒険者ランクCのアリドバでございます。
低ランクの冒険者である私を招待いただき、ありがとうございます」
一礼とともに感謝を述べる。
全く感謝していないが、建前は必要だろう。
「急な招待、すまなかった。
鬼の討伐を成した冒険者に報酬を渡したいと思ったのだ」
「ありがとうございます」
報酬だけ持って来させてればよかったのでは、なんてことは思っても口にしない。
「報酬は後ほど騎士団長から渡す手筈になっている。貴殿たちを案内した騎士が団長だ。
実は報酬だけでなく、アド殿には頼みたいことがあるのだ」
あの騎士が団長だったのか。
「私にですか?」
「冒険者であるなら2の迷宮に異変が起こっておるのは知っておるだろ?
それを解決してほしい。報酬もしっかりと支払う。どうかな?」
「私にできるとは思えませんが、できる限りのことをさせていただきます」
「おぉ! 受けてくれるか!
鬼のアド殿ならすぐに解決してくれるだろう!」
なんでその名を知っているんだと思ったが、グッと堪えることに成功した。
ドルビドが笑っているような気がするので、後で殴ってやろうと思ったのは仕方ないことだろう。
「あまり期待せずにお待ちください。
報酬の内容は解決後でよろしいでしょうか?」
「あぁ、それで頼む。今回のことを受けてくれた礼として、鬼の討伐報酬に少しであるが上乗せしておく。よろしく頼むぞ」
いくら渡すとも言われててないのに上乗せと言われても全くありがたみがないな。
「はい」
とりあえず笑みを浮かべておく。疲れる。
2の迷宮へ入れることになったことを喜ぶべきか。
王族に目をつけられたことを悲しむべきか。
国王と王妃に一礼してから謁見の間から出る。
メイドの案内で騎士団長がいるという部屋に移動した。
「お疲れ様でした。こちらが報酬になります」
テーブルの上に袋が一つ置いてある。
この場で中身を確認することはせずにマジックバッグへ入れる。
「もう帰ってもいいのか?」
「はい。大丈夫です、と言いたいところなのですが、私と模擬戦をしていただけませんか?」
「嫌だ。またの機会にしてくれ」
「残念です。それではまたの機会によろしくお願いします」
笑顔で殺気を向けたくるような奴と模擬戦なんてしたくない。
俺は疲れてるんだ。早く家に帰りたい。
「あぁ。機会があればな」
騎士団長に見送られながらドルビドと馬車に乗る。
店まで送ってくれるそうだ。
離れていく城を窓から見ているとドルビドが声をかけて来た。
「予想通りの内容でしたね」
「そうだな。これで俺でも2の迷宮の調査に参加できるのか」
「そうなりますね」
「生きて帰ってこれるように、しっかりと準備するか」
「お手伝いさせていただきます」
まずは鬼の角で作ってもらっている短剣を受け取りに行かないとな。




