15.鬼退治
「あれがエルフ喰いの鬼です」
フィー達にはエルフの村で留守番をしてもらい、俺はエルフ数人と一緒に鬼がいる場所に案内してもらった。
ルナが心配そうにしていたので、頭を撫でて安心させようと笑みを浮かべて、見てくるだけだと伝えた。
エルフに案内された森の奥には、鬼がいた。
迷宮にいた鬼よりも小さい。さすがに見ただけでは討伐できると言えないな。
つついてみるか? いや、まずはエルフ達の話を聞くことにする。
「攻撃方法は?」
「素早く動いて体を捕まえ、噛み付く、投げる、地面に叩きつける。武器を使っているところは見たことありません」
素早く動けて、人を投げるほどの力はある。勝てるか?
「毒は?」
「封印した時は眠らせたと聞いています。しかし効果はかなり遅れて出たそうです」
長期戦か。俺の得意分野ではあるが、今まで相手にしてきた魔物よりも格上の相手に、俺の力は通用するのか?
「一度村に戻ろう」
「はい」
鬼の監視はエルフ達が交代で行なっているそうだ。
今のところ、鬼に気づかれた様子はないとのこと。
魔術で迷いの結界を張っているため、村には鬼が近づいてこないそうだ。
「魔術を使って、鬼を罠にかけたりとかはしたのか?」
魔法とは違って魔術は魔法陣を覚えて魔石を持っていれば誰にでも使える魔法だ。
使う魔法陣と魔石により様々な効果がある。攻撃にも使うことができるようだ。
「封印した時は罠にかけたそうですが、知恵をつけたのか魔法陣に近づかないようです」
「鬼も馬鹿じゃないってことか」
一撃離脱で弱ったところを討伐する。俺にはそれしか思い浮かばなかった。
「そういえば王国から援軍はないのか?」
「それが、迷宮に異変があったそうで」
なるほど。タイミングの悪いことだ。
「死ぬ覚悟があるやつだけを集めてくれ。何日かかるかわからないが、一撃離脱で弱らせてから、討伐する」
「受けていただけるのですか!?」
「無理そうなら俺は逃げる。俺は死にたくないんでな」
「わ、わかりました。召集してみます」
エルフの村で寝泊まりするために借りた家に入る。中にはルナがいた。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「ルナの家は隣だろ? どうしてここにいるんだ?」
「戦われるのですか?」
俺の質問は無視だ。俺の心配をしてきてくれたのだろうな。
「あぁ。やれるだけやってみる予定だ」
「私たちは留守番ですか?」
「その予定だ。俺はルナ達を失いたくないからな」
「私たちも貴方を失いたくはありません。
足手まといにはなりません!
私たちを連れて行ってください!」
「今回は守れる保証が」
「誰が守ってっていった!?
貴方の夢はなんだ!
私たちを使ってランクSになることだろ!?
なんで私たちを信用しないんだ!」
「しかし」
「しかしじゃない!
貴方は私たちを使えばいいんだ!
私たちは、私は貴方が好きなんだ!
死んでほしくないんだよ!
もっとそばに、いさせてよ」
「ルーーー」
「…ごめんなさい」
すぐ近くにあったルナの顔が離れて行く。ルナが家から出て行った。
床に寝転がる。先ほどまであった暖かさがよみがえり、指先で唇を撫でる。
「…俺が、死なせなければいいだけか」
ゆっくりと起き上がる。今まで戦ってきた鬼を思い出す。
接近戦はほとんどしていない。弓に毒を塗って目を潰し、死角を利用した一撃離脱で、弱ったところで首を切り落としていた。
今回の鬼は動く。どの程度の速さなのかは不明だ。
俺にやれるとは思えないが、あの子達に恥ずかしい格好は見せられないよな。
「アドさん!」
どうやら死ぬ覚悟のあるエルフが集まったようだ。
家から出るとフィー達が待っていた。
「ご主人様」
「命令だ。死ぬなよ。いや、死なせないから安心しろ」
フィー、オーギス、ルナ、マサの頭を順番に撫でて行く。
「「「「はい!」」」」
さて鬼狩りを始めようか。
とは言っても、まずは鬼を狩るのに必要なものを集める。
鬼の素材を使った武器として、矢を鬼の骨で作ることにした。
「流石はエルフだな」
エルフ達は弓を得意としていると知っていた。だからそれほど心配していなかったが、最初は命中率が低かった骨の矢だったが、3時間も練習すれば百発百中で的の中心に当てる。
マサがエルフ達から弓の指導を受けていた。流石というか、天才というのは本当にいるんだと再確認した。
「まずは目を潰してくれ。一つでも潰してくれれば俺の生存率は上がる。
接近戦は俺だけで十分だ。他を狙われると動きにくい。
今まで1人でやってきたから1人の方がやりやすいというのもある。
長期戦が予想される。気を抜くことはないように頼む」
2日かけて骨の矢と毒、俺の武器となる短剣を10本ほど用意できた。
明日、鬼を討伐する。
英気を養うため、エルフの村はちょっとした宴会となっていた。
酒はなく、うまい飯が並んでいる。
「ご主人様」
ルナが声をかけてきた。この2日、ルナとゆっくりと話していなかったな。
「なんだ?」
「怒って、おられないんですか?」
「なんで?」
「奴隷なのに、あのようなことを」
「怒ってない。逆に感謝したくらいだ。ありがとう。ルナの気持ちは、嬉しかった」
「はい」
「君を女性としてみることはできない」
「今はってことですよね?」
「はは。そうだな」
「もっと強くなって、ご主人様を惚れさせますから覚悟してくださいね?」
「期待して待っているよ」
ルナが一礼してから離れて行く。涙が流れていた。
「何泣かしてるんすか?」
「マサか。好きで泣かしたわけじゃない」
「女性を泣かしちゃダメなんですよ」
「わかってる」
「本当にわかってるんですか?」
「お前、酔っ払ってないよな?」
「酔ってないです。ただ、気づいてたのに無視し続けた結果がこれだって言ってるんですよ」
「本当の俺を見たら、すぐに冷めるさ」
「それはどうですかね~」
「そういえば、フィーとはどこまでいったんだ?」
「ぶっゴホッ!」
タイミングが悪かったようだ。狙ってやったのだが。
「結構進んだのか?」
「いや、これが全く」
「フィー以外の女性に鼻の下を伸ばしてるからだ」
「可愛い人を可愛いと言って、美しい人を美人だと言って何が悪いんですか!」
「フィーに悪いだろ」
「そうでした」
「フィーもお前のことが好きなんだろ?」
「そのはずなんですけどね。なんか、ルナちゃんも俺のことが好きだと思ってるみたいで」
「今回でそれは無くなったんじゃないか?」
「だといいんですけどね」
「やっぱりお前からフィーに伝えたのか?」
「アドさん、意外にそういう話、好きなんですね」
夜が明け、朝が来る。
今日は、鬼討伐だ。




