盛大な、サプライズパーティ
中衛 絵里、通称なかえりちゃんは、今日で二三歳になった。
よって、今日はお店はお休みし、前から行ってみたかったバーに行ってみることにした。バーを経営していても、他のバーに入ることはある。
ここに来たかった理由は二つ。一つ目は、大衆的なお店を運営する、なかえりのような、一杯三千円くらいのお店とは違い、ここが高級な上にとても美味しいからである。
そして二つ目は。
「いらっしゃい、なかえりちゃん! お久しぶり」
ここの店主マスターはなかえりと仲が良い。高校時代の同級生だ。名前を「真田 理沙」さなだ りさと言う。普段、感情を「喜」きしか出さないなかえりにとっては、とても居心地の良い場所である。
「カウンターのそこに座って…… あれ、今日、誕生日だっけ? 」
そうなの、となかえりは頷く。
「んー、じゃあ私が何か作るからさ、好きなもの…… ミントで良かったっけ? 」
そう言うと理沙はせっせと作り始める。
高校時代の理沙はサプライズが上手かった。なかえりの誕生日には教室で学校公認のパーティーを開いたことがある。なかえりは泣いて喜んだ。
まず、昼食の時に皆はどこにも行かず、自由に食べ始め、中盤で理沙が「パッピーバースデー! 」と大声で叫びながらクラッカーを鳴らす。それと同時に皆もクラッカーを鳴らし、理沙が、こっそりクラスの皆と作っておいたというホールケーキをなかえりにプレゼントした。なかえりは一人では食べきれないので、結局三二人で分けることになった。
そして、そんな理沙のお店に来たものだから、なかえりは全く、理沙のサプライズに、途中で気がつくことは無かった。
「はい。ミントがベースのグラスホッパー、一五度」
なかえりがそれを飲もうとした瞬間、
「パッピーバースデー! なかえりちゃん! 」
と声が響き渡った。
理沙以外の声のした背後を見ると、なんとそこにはなかえりのお店の常連が集まっていた。
理沙は事前になかえりの店、「どうぞ。」の常連についての情報を集め、ここでサプライズを企画していた。
なかえりがここに来ることは必須だった。何故なら、理沙は、なかえりが「独立してお店を開く」と言った時、
「二三歳の誕生日にはうちの店に来てね。ごちそうするから」
と言ったからである。因みになかえりにそれを言ったのはおよそ八ヶ月前のことであるので、そうそう忘れるはずがない。
つまりこれは、理沙の、壮大なサプライズパーティだったことになる。
ここまで気がついてなかえりは感心した。そっか、理沙、こういうことね。ありがとう。
なかえりが半分くらいまで飲み、段々と酔ってきたところで、色々と話が進んでゆく。
「知ってます? なかえり、高校生の時に遊びに行った時、ずーっとミントアイスしか食べてなかったんですよぉ! 」理沙が常連に向かって話す。
「ち、ちょっとやめてよ! 恥ずかしい…… 」なかえりは赤面する。
にしても、グラスホッパーは私がすごく大好きなお酒であるが、理沙は知らない筈である。
「え? 何で分かったかって? そりゃあまぁ、長い付き合いしていれば何となく分かるわよ。友情ってやつよ! 」
友情、なのだろうか? まぁ良い、こんなにも盛大なサプライズパーティを開いてくれてありがとう。
夜は段々更けてきていた。
「…… あ、なかえりってさ…… 」
「ん? 」
「…… 酒豪、だよね…… ?」
「うん、そーだよ。それが? 」
「なかえり、飲むと潰れるじゃん。だから、今日はハッピーな気分でいるためにも、お酒は三杯までっ! 」
「えー! なんでよー! なんで誕生日にお酒を制限されなくちゃならないのよーっ」
まだまだ、夜は騒がしい。パーティはここからだ。
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【グラスホッパー】
リキュール・ベースのエメラルドグリーンのカクテルです。一五度で甘口、そしてクリームが入るため、飲みやすいと思います。ペパーミントも入っているため、口の中で爽やか、胃の中では消化促進の役目も果たします。
材料はこちら。
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ペパーミント・グリーン :二十五ml
クレーム・ド・カカオ・ホワイト :二十ml
フレッシュ・クリーム :一五ml
これらを十分にシェークしてからグラスに注いでください。