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そこへ猟師がやって来た
血の跡たどってやって来た
暴れん坊のオオカミに
咬まれた足を引きずって
泉のほとりにやって来た。
「やれやれ遂に仕留めたぞ!
憎っくき人喰いオオカミめ!
全く手強い奴だった
百戦錬磨のこのわしに
これほど手傷を負わすとは」
猟師は泉の水を飲み
一息ついてその辺り
ぐるりと見回し倒れてる
オオカミの横に倒れてる
大きな老木見つけます。
「なんと大きなオオカミと
なんと大きな老木だ・・・」
その時猟師はひらめいた
素晴らしい事をひらめいた。
「そうだ!これこそこのわしが
ずうっと探していたものだ!
これならきっと上手く行く!
そうともきっと上手く行く!」
やにわに猟師は立ち上がり
腰に下げてるナタを取り
今は動かぬオオカミの
毛皮をつるりと剥ぎ取ると
次には倒れた老木の
かけらをえぐり取りました。
毛皮とかけらを背に背負って
猟師は町へと帰ります。
大きな町で一番の
手先の器用な細工師を
猟師は尋ねて行きました。
毛皮と老木のかけらを
渡して猟師は言いました。
「この木のかけらとこの毛皮
ふたつを使って最高の
絵筆を作ってくれないか!」
猟師の家には奥さんと
かわいい娘がおりました
だけども娘は病弱で
あんまり外には出られません
たったひとつの楽しみは
絵を描く事だけただそれだけ。
娘の描く絵はそれはもう
見事な見事なものでした。
大きく真白なキャンバスに
何十種類の色使い
隅々までも行き渡る
細かく優雅な筆使い
見る者全てを優しさで
包み込むような美しさ。
町でもその絵は評判で
“ 譲って欲しい ”と大金を
出す者後を絶ちません。
娘も猟師に言いました。
「父さん私はこの体
なんの手伝いも出来ません
代わりにどうか絵を売って
お金にかえて下さいな」
けれども猟師は首を振り
「この絵はわしの宝物
どんなに金を積まれても
一枚たりとも売るものか」
全く聞く耳持ちません。
娘の描く絵を家中に
飾って眺めておりました。
自慢の娘の自慢の絵
飽きずに眺めておりました。
ある日娘はばったりと
倒れて寝込んでしまいます。
慌てて猟師が連れて来た
どんな医者でも治せない
重い病気だったのです。
みるみるうちに痩せ細り
立ち上がる事も出来ません。
娘の為に出来る事
猟師はなんにもありません。
己の無力を嘆いては
悔し涙を堪えてた。
そんなある日に病床の
娘は猟師に言いました。
「父さん私のわがままを
どうかきいてくれませんか
もうすぐ私は天国に
召される事になるでしょう
その前最期にもう一枚
描いてみたい絵があるのです
けれども今ある絵筆では
その絵はとっても描けません
私の命を塗り込める
人生最期の一枚を
描くよな特別な絵筆を
見つけて来てはくれませんか」
崩れ落ちるよな悲しみを
なんとか猟師は堪えつつ
その胸叩いて言いました。
「よーしわかった!任せとけ!
世界で一番素晴らしい
見事な絵筆をこのわしが
おまえの為に用意しよう!」
町から町へと駆け巡り
最高級の様々な
絵筆を猟師は手に入れて
娘の元へと届けます。
しかし娘は首を振り
悲しい目をして言いました。
「父さんこれは違います
こんな筆ではありません
私の命のその全て
受け止める様な特別な
絵筆でなければなりません」
どんなに高価な絵筆でも
娘は床についたまま
絵を描こうとはしないのです。
どうして良いのか分からずに
猟師が悩んでいるうちに
娘の体は確実に
どんどん弱っていきました。
そんなある日に森の中
猟師は答えを見つけます。
「これほど大きなオオカミと
これほど立派な老木で
もしも絵筆を作ったら
さぞかし見事な筆だろう!
世界で一番素晴らしい
見事な絵筆になるだろう!」




