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その日は突然やって来た
その日はとうとうやって来た。
心優しい老木の
太く立派なその幹に
出来た小さな空洞は
あまりに長い年月に
どんどんどんどん広がって
雲つくばかりの大きさを
とっても支えていられません。
めりめりバキバキ音立てて
巨体はゆっくりかたむきます。
ズズズズズンとすさまじい
地ひびき立てて老木は
泉のほとりに横倒し。
別れの時が来たのです。
鳥も獣も虫達も
みんな慌てて集まって
別れを惜しんで泣いてます。
もっと一緒にいたいよと
別れを惜しんで泣いてます。
「森の仲間よありがとう
私のためにこんなにも
大勢集まり来てくれて
私はいなくなるけれど
みんなで仲良くやってくれ」
横倒しのまま老木は
残り少ないその時間
みんなと言葉を交わします。
その時あいつが現れた
みんなをかき分け現れた
足元ふらふらよろめいて
大きな体の真ん中の
銃で撃たれた傷からは
たくさんたくさん血を流し
息絶え絶えで現れた。
「どうしたおいぼれその姿
いよいよくたばりやがるのか」
「おまえの方こそその姿
一体なにがあったのだ」
「あの時貴様が言っていた
言葉は嘘ではなかったぞ
確かに『リョウシ』というやつは
他のやつらと大違い
なかなか骨ある強敵だ
まんまといっぱい食わされて
うっかり手傷を負わされた」
暴れん坊のオオカミは
がっくりその場にくずおれて
それでも言葉を続けます。
「だがまあ見ていろ俺様は
けっしてこのままではいない
この傷治してあの『リョウシ』
必ず借りを返すのだ・・・」
そう言うあいだもオオカミの
傷からどんどん血は流れ
目からは光が消えて行く。
「若くて強いオオカミよ・・・
おまえにとってはどこまでも
戦うことこそ生きること
結局そういうことなのか・・・
・・・わかった私ももう言うまい
おまえはおまえで・・・自らの
信じる道を・・・行けば良い・・・」
「・・・言われるまでもないことよ
戦い・・戦い・・戦って・・・
・・俺様は・・それで・・・満足だ・・・」
それを最期に二人とも
静かに眠りにつきました。
永い眠りにつきました。




