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「これこれそこのオオカミよ
どうしてそんなに牙を剥く?
ここにはおまえを傷つける
者など誰もいないのに」
「どこのどいつが俺様に
気安く話して来るのかと
思えばみじめなおいぼれか」
「仲間も家族も作らずに
毎日毎日一人きり
戦うことだけ考えて
来る日も来る日も血を流す
そんな寂しい生き方で
辛くはないかオオカミよ」
「大きなお世話だおいぼれめ!
戦い続ける毎日を
寂しいなんぞと俺様は
思った事などあるものか!
四本足で風のよう
地の果てまでも駆け抜けて
自慢の鋭いこの牙で
肉を切り裂き骨砕き
おのれの強さを確かめる
これこそ生きるという事だ!
おいぼれ貴様にゃわかるまい
おんなじ場所から動けずに
何年何十何百年
ぼけっと立っているだけの
貴様の方こそ寂しくて
哀れでみじめな生き方よ!」
「仲間や家族に囲まれて
誰かと繋がる幸せを
知る事も無く一人きり
いつかは死んでしまうのが
怖くは無いかオオカミよ」
「やりたい事をやりもせず
まわりの誰かを気づかって
自分を殺して生きて行く
自分を殺して死んで行く
そっちの方が俺様は
よっぽど怖いと思うのだ
なにより誰が俺様を
殺すことなど出来るのだ
『ニンゲン』どもさえ俺様にゃ
かすり傷さえつけられぬ
一番強い俺様が
死ぬ事なんぞはありえない!」
「世間を知らないオオカミよ
おまえは何も分かってない
今までおまえが戦って
来たのは火をふく棒をただ
持ってるだけの素人衆
本当に怖い『ニンゲン』は
『リョウシ』と呼ばれる男たち
奴らにかかればおまえなど
勝てるはずなど無いのだぞ」
「なんだと!それは本当か?
なんと嬉しい話だろう!
俺様よりも強い奴
まだ世の中にいるのだな
こいつは楽しくなって来た
『リョウシ』とやらの素っ首を
俺様の牙で噛みちぎり
ここまでくわえて持ってきて
おいぼれ貴様に見せてやる!」
心優しい老木が
止める間もなくオオカミは
ヒラリとその身をひるがえし
森のどこかへ消えてった。




