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オオカミと老木  作者: 雨地蔵
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大きな大きな森の中

ずうっとずうっと奥の方

小さな泉の水ぎわに

その木は立っておりました。


森で一番長生きの

森で一番立派な木

森で起こった事ならば

どんな事でも知っている

森のみんなの生き字引。


その知恵頼って森じゅうの

鳥も獣も虫達も

こぞってやってまいります。


枝にも幹にも根本にも

いつでも誰かがやってきて

わいわいガヤガヤ賑やかです。


だからその木はいつだって

少しも寂しくありません。


随分長く生きたけど

毎日みんながやって来て

楽しくおしゃべりしてたから

とっても幸せだったのです。


ひとりぼっちになった事

一日たりともありません。


みんなに囲まれ老木は

とっても幸せだったのです。


だけどその木は知っています。


そんな楽しい毎日に

もうすぐ終わりが来る事を。


千年以上も生きたから

もうすぐ終わりが来る事を。


けれども怖くはありません。


寂しい気持ちはありますが

けれども怖くはありません。


何故ならこれまで沢山の

子供や孫やひ孫達

生まれて育っているのです。


鳥や獣や虫達が

力を貸してくれたから

今では森じゅう老木の

まるでひとつの大家族。


命を命へつないでく

大きな大きな大家族。


わいわいガヤガヤ賑やかな

いつもの毎日その中で

心静かに老木は

みんなにお別れする時を

心静かに待っています。


そんなある日にやって来た

そいつはふらっとやって来た。


体じゅうが傷だらけ

若くて大きなオオカミが。


途端にいつもの仲間たち

鳥も獣も虫達も

一目散に逃げて行く。


何故ならそいつは暴れん坊

だれかれ構わず噛み付いて

森一番の嫌われ者

いつでもひとりぼっちです。


みんなが逃げて誰もいない

静かな泉で水を飲む

その時さえもギラギラと

ふたつの目玉が探してる

噛み付く相手はいないかと

ふたつの目玉が探してる。


なんでも知ってる老木は

そのオオカミも知っています。


毎日毎日一人きり

ケンカの相手を探しては

うなりをあげて森じゅうを

走っているのを知っています。


「なんと悲しい事だろう」

「なんと寂しい事だろう」

「仲間も友も家族さえ

作らず一人でいるなんて」

「そんな不幸な生き方を

選んで生きているなんて」


心優しい老木は

暴れん坊のオオカミが

あわれで放っておけません。



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