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ワイルドキャット

「……吾輩はワイルドキャットにゃ。あんた、普通に名前名乗ってるけど魔物に名前は」

「僕はイチローだよ!」

「ワシはおじい、じゃの」


 いつの間にかついてきてたイチローが名乗ると、おじいも続けて名乗りだす。


「は!? どういうことだにゃ! まさかやっぱりテイマー……!」


 そっか、テイマーは「持ち物」として名前をつけられるんだものね。そう思われちゃうのも仕方ない。


「違うよ、わたしは名前をあげられる力を持ってるの。だから、君が望むなら名前をあげられるよ?」

「そ、そんなことが……? いや、嘘にゃ。でもなんだか、嘘だとも思えないにゃ。こうして前に居るだけで警戒が薄れるような……ま、まさか吾輩、すでに術中に……?」


 そんな術なんて使ってないし……たぶん、同じ魔物だからだと思うけど。でも、なんだか仲良くなれそうなチャンスを感じて私はしゃがむ。


「わたしは、君と同じ魔物。魔物はテイマーじゃない。そうでしょ?」

「そ、それはそうにゃ。でも名前を与えられるなんて、そんなの……」

「名前がないなんて間違ってる。此処にいる君は、君だもの。だから、わたしに名前を贈らせて。ね、いいでしょ?」

「う、うう……」


 ピンと立っていたワイルドキャットの尻尾が下に下りていき……やがて、ワイルドキャットの目が私を見上げる。


「そ、それなら! 吾輩に是非名前をつけてほしいにゃ! こんな時の為にずっと考えていた名前があるにゃ! ミケランジェロ・ド・フレール・アラベルトリノという……」

「ミケ! ミケだよね! だって三色の毛だし!」

「ちっがーう! そんなカッコ悪いのは許さんにゃ! 吾輩の【    】は【     】……!」


 やっぱり。「名前」という単語は言えても、自分のものとして言おうとすると言えなくなっちゃうんだ。これも天の神のせい? だとしたら、酷すぎる。


「……なら、決まりだね。君の名前は「ミケランジェロ」だよ」


 私がそう宣言すると同時にワイルドキャットの……ミケランジェロの身体が淡い光に包まれる。そっとステータスを視ると……ほら!


名前:ミケランジェロ

 種族:ワイルドキャット

 職業:隠密

 レベル:37

 体力:120

 力:2

 魔力:340

 素早さ:58

 物理防御:2

 魔法防御:420

 技術:30

 運:10

 

 スキル:魔法制御(レベル4)、気配遮断(レベル3)


 ……あ、結構レベル高い。人間の町に隠れ住んでたからかな?

 職業も、おじいやイチローには無いのにあるね。隠密っていうのは……


―職業知識:隠密が解凍されました!―


 隠密。潜入工作を主とする職業。取得するには敵地に潜り込み信用を得るなどの厳しい条件が必要であり、人類領域ではレア職業、あるいは「盗賊」の派生形として扱われる事がある。


 あ、なるほど。人間のとこで猫のフリしてたからってことかあ。信用ってことは可愛がられてたのかな?

 チラリとミケランジェロを見てみると、ミケランジェロはぷるぷると震えている。


「お、おお……本当に吾輩のステータスに名前が……! 分かる、分かるにゃ。吾輩の名前はミケランジェロ……! ははは、そうにゃ! 吾輩はミケランジェロにゃ!」


 涙を流していたミケランジェロは……その嗚咽を止めると、わたしの前で頭を下げる。


「……今までのご無礼失礼いたしましたにゃ。このミケランジェロ、テスラ様に忠誠を誓いますにゃ」

「へっ!?」

「これからは吾輩を貴方の手足としていつでも」

「待って待って! そういうのじゃなくて! 友達になろうよ、友達に!」

「しかし、こんな大恩を受けては貴方を王と仰ぎ魔境を領土として捧げるしか!」


―忠誠を確認。スキル「魔王」発動! 「魔王軍」展開発動! ミケランジェロを登録しました!―


 ぎゃああああ、なんか出た! 待って、ちょっと待ってえ! ていうか魔王軍って何!?


―能力知識:「魔王軍」が解放されました!―


 魔王軍。スキル「魔王」の効果の一つ。魔王に忠誠を示す者が現れた場合、あるいは魔王と共にある事を望む者が現れた場合に対象を魔王軍として登録し庇護を与える。自動発動、あるいは任意発動が可能。具体的な庇護としては能力の増加、進化先の拡張などがあげられる。また「魔王軍」に登録された者が出た場合、それに応じて魔王の能力が増加する。


え、ええ……? てことはまさか。


名前:テスラ

 種族:魔王

 職業:魔王

 レベル:1

 体力:げんきいっぱい

 力:うーん

 魔力:いんふぃにてぃー

 素早さ:にゃんこをめざせ

 物理防御:ぷにぷに

 魔法防御:きゅーきょくまおうさま

 技術:あきらめないで

 運:せかいにあいされてる


 スキル:魔王


 ……なんか変わってる……「にゃんこをめざせ」って何……?

 ていうか、これって。おじいはともかくイチローの事考えると魔王軍の話するのは必須だよね……?


「おお、なんだか力が湧き出てきた気がするにゃ。こ、これが忠誠の力? 吾輩はまさか騎士道とかいうやつに目覚めてしまったにゃ?」


 なんかミケランジェロが言ってるけど……さっきの能力説明からすると、ミケランジェロの能力上がってるよね……?


名前:ミケランジェロ

 種族:ワイルドキャット

 職業:隠密(魔王軍)

 レベル:37

 体力:120

 力:3

 魔力:540

 素早さ:88

 物理防御:4

 魔法防御:660

 技術:50

 運:10

 

 スキル:魔法制御(レベル4)、気配遮断(レベル3)、騎士道(レベル1)


 ……凄く強くなってるし。


「さあ、さあ! 枯れ草をお望みでしたかにゃ!? 吾輩がスパッと斬って差し上げるので是非、是非全てお持ちくださいにゃ!」

「え、でもお家なんじゃ」

「騎士たる吾輩はテスラ様にお仕えするが定めですにゃ!」

「……君は隠密でしょ?」

「隠密騎士ですにゃ!」


 ……そんなの、あるのかなあ。ああ、アルステスラ様。友達増やしたかったのに、なんか自称騎士が出来ました。わたし、これでいいんでしょうか……?




 そんなこんなで、おじいに枯れ草を載せて洞窟まで戻って来たんだけど。


「そういえば、テスラ様はステータスを視るスキルをお持ちなのですかにゃ?」

「えっ」


 思わずドキッとして枯れ草をバサバサと落とすわたしの足元でそれを器用に掻き集めながら、ミケランジェロはフフンと自慢げな顔をする。


「簡単なことですにゃ。テスラ様は吾輩を「隠密」と仰いましたにゃ。けれど吾輩、それを他人に漏らしたことはないですにゃ」

「うっ……」


 思わず入れたツッコミからそんな事把握されちゃうなんて。わたしが迂闊だったけど、意外とミケランジェロは侮れない。


「何の話?」

「魔王様のスキルの話ですにゃ」


 疑問符を浮かべるイチローに、ミケランジェロがそう答える。

 ちなみに今は、おじいがドサッと落とした枯れ草の運搬中。

 おじいがいるのは洞窟の中程だけど、その奥にまだ広い空間があって……そこにわたしの寝床を今作っている最中なのだ。ミケランジェロの「テスラ様の寝床は最奥に決まっておりますにゃ!」という発言によって一番奥まで運んでるんだけど。たくさんは運べないから、イチローに手伝ってもらってる。ちなみにミケランジェロは応援。二足歩行できるようになるまでお待ちくださいだってさ。

 ちなみに、洞窟の中は光る苔のせいでぼんやり明るい。どういう理屈で光ってるんだろうね、これ。


「た、確かに持ってるけど……バレたら危険だったりする?」

「そんなことはないですにゃ。吾輩が魔物とバレたのも、その辺りが原因ですにゃ。そもそも「看破」のスキルは人間も結構持っていますし、人間の間では小さな板切れに自分のステータスを書いて持ち歩くのも流行ってますしにゃ」

「そうなんだ」

「はい。ただ、自分のステータスを隠したがる人間もいますにゃ。魔物でそういうのが居ないとも限りませんので、気を付けることは大事ですにゃ」

「う……気を付ける」

「にゃはは。ちなみに、吾輩は隠すところなどありませんにゃ。職業を持っている事も誇りですにゃ」


 ミケランジェロの言葉にイチローが「職業?」と再び疑問符を浮かべて、おじいが僅かに身体を揺らす。


「職業か……人間がそのようなものを持っておると聞いたことがあるのう」


 ちなみにわたしの職業は「魔王」で、イチローは「隠密」。そもそも職業っていうものは、何かの条件を満たす事で取得できるもの……らしい。アルステスラ様に与えられたわたしはともかく、ミケランジェロが職業を持ってるってことはモンスターが取得できないってわけじゃないと思うんだけどな。


「うーん。ミケはどうやって職業を手に入れたの?」

「そのミケというのは、吾輩の事ですにゃ?」

「あ、うん。意外とミケランジェロって言い難くて……」

「愛称というやつですにゃ? 有難く拝領致しますにゃ」


 うんうん、と頷くミケランジェロ……ミケはなんとなく嬉しそうで、私の横でイチローが微妙に寂しそうにぷるん……と震える。


「ねえねえ、僕には愛称ないの?」

「へ?」


 そんな事言われても、イチローってこれ以上ないくらい呼びやすいしなあ……でも、そう言うと落ち込みそうな気もする。


「え、えーと……考えさせて?」

「うん!」


 元気を取り戻したイチローの動きが良くなって、あっという間にわたしの寝床……というか部屋のようなものが出来上がってしまう。枯れ草が積まれたこの場所は、地面に座るよりは良さそうだ。


「さて、職業のお話でしたかにゃ」


 わたしが枯れ草に座って具合を確かめていると、ミケが遠慮なく枯れ草の端に乗ってくる。ちなみにイチローは地面に直に座る方が落ち着くみたい。


「あ、うん。ミケは職業持ってるでしょ? 何か切っ掛けがあったのかなーって」


 隠密の取得方法は解凍されて分かったけど、自動で取得できるんならおじいにも何かあっていいはずなんだけど。


「そうですにゃあ……人間の町に居て知ったのですが、人間には「最初の職業」を得る為の施設があるようですにゃ」

「最初の職業?」

「はいですにゃ。確か……えーと「可能性の卵」でしたかにゃ?」


―職業知識:可能性の卵が解凍されました!―


 可能性の卵。あらゆる職業の元となる職業。あるいは、「職業」を得る為の鍵。最初から持っているものではなく「与えられる」ことによって取得する。


 うーん。つまり、魔物には「与えられる」機会がないから職業がないってことになるけど……ミケが職業を持ってるって事は魔物であれば絶対に「可能性の卵」を得られないってことはない、と。


「ミケは、どうやって手に入れたの?」

「神殿とか呼ばれる場所がありますにゃ。そこで「始まりの儀式」なるものを定期的にやっておりますにゃ」


 あ、なんか分かった。


「……紛れ込んだんだ」

「猫には容易いことですにゃ。邪魔さえしなきゃ、誰も気にしないですにゃ」


 でも、その手はイチローやおじいには使えないなあ。「邪魔しなければ」って問題でもないし。

 無ければいけないってものではないけど「職業」を持っていればステータスにある程度の補正がかかる。きっと進化にもいい影響が出ると思うんだけど……。

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