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おじいと一緒に

 名前:テスラ

 種族:魔王

 職業:魔王

 レベル:1

 体力:げんきいっぱい

 力:うーん

 魔力:いんふぃにてぃー

 素早さ:がんばろう

 物理防御:ぷにぷに

 魔法防御:きゅーきょくまおうさま

 技術:あきらめないで

 運:せかいにあいされてる


 スキル:魔王


「魔王……テスラ……?」

「魔王……テスラ」


 イチローが、そしてじいじが私の名前を反芻する。


「魔王って、何? 人間とは違うんだよね?」

「聞いたことが無い種族じゃのう。そういえば人間の中に王と呼ばれるものがいるらしいがのう」


 うーん、なるほど。言われてみると、私も「魔王」が何なのかは分からない。解凍される知識もないみたいだし、そもそも「王」ってなんなんだろう?


―世界知識:王が解凍されました!―


 王。国と呼ばれる集団のリーダー。一般的には土地を支配する「王族」と呼ばれる一族のトップの事を指し、世襲される事が多い。また「剣王」などのように特定の技術を極めた結果、敬意を込めてつけられる称号の場合もある。


 ううん、やっぱりよく分からない。わたしの場合、職業も「魔王」なんだよね。


「わたしも分かんない。でもステータスにはそう書いてあるよ?」

「ふーん?」

「なるほどのう。ということは、何か凄い種族なのかもしれんの」


 やっぱり分かっていないイチローとは違って、おじいは何か分かっている風だ。


「何かおじいは知ってるの?」

「そうさのう。あくまで噂なんじゃが、「キング」や「エンペラー」とつく種族があるらしい。それらは「王」というような意味を持っている……と聞いた事があるのう」

「聞いたことがあるって。誰から?」

「うむ、確かアレはトレントじゃったかのう。遥か昔、ゴースト系列のモンスターで「エンペラー」に到達した者が居たそうじゃ。勇者とかいう人間に滅ぼされてしまったと聞いたが……」

 勇者。それは確かアルステスラ様から聞いてる。人間の中に現れる異常個体、一人で戦況を大きく変える超兵器、種族の危機を覆す為に生まれ出る防衛本能。天の神が人間に与えた、大いなる加護。だから、魔物の中からそういうものが生まれる事はない。


「へえー、じゃあテスラはすごいんだね!」


 感心したようにプルプルと震えるイチローに、なんだか私も意味もなく嬉しくなって胸を張る。


「うん! わたしは凄いよ! 魔王様だよ!」

「魔王様すごーい!」

「はっはっは。もっと言っていいよイチロー!」

「すごいすごーい!」


 すごいと言って揺れるイチローに合わせて、私もゆらゆらと揺れてみる。

 うん、なんか楽しい。


「すごいぞー!」

「すごーい!」


 そのまま「すごい」と言って二人で揺れていると、やがておじいの声が響いてくる。


「……ふむ。しかしそうなると、少し危ないかもしれんのう」

「へ?」


 危ないの? なんで?


「なんで? おじい」

「うむ。此処は人間の居ない場所じゃ。それは知っておるかの?」

「うん。魔境って呼ばれてるって聞いたけど」

「魔境か、いい言葉じゃの。そう、ここはまさしく魔境。人間に追われたモンスター達が険しい山を乗り越え辿り着いた、世界の果て……と言われておる。というのもな、この辺りは空気に含まれる魔力が多すぎて普通の人間には毒となりかねないらしいのじゃ」


 うん、それはアルステスラ様から聞いてる。わたしが送り込まれたこの「魔境」は、世界で一番魔力が濃い地帯。単純に「濃い」だけなら人間にもいいらしいんだけど、濃すぎるせいで魔力酔いとか呼ばれる症状を起こして死んでしまう可能性があるらしい。勿論、それを防ぐ魔法もあるらしいけど……好き好んで人間が来る場所じゃない、らしい。


「じゃが、時折人間が入り込んでくる事もあるのじゃ」

「人間が?」

「うむ。恐らく目的はレベル上げじゃの。此処……魔境にはモンスターがたくさん居るが、珍しいモンスターを追いかけまわしているとも聞く。これはワシの予想じゃが、珍しいモンスターを倒すとレベルが上がりやすい……となると、「魔王」なる珍しい種族であるテスラが狙われる可能性は高いはずじゃ」

「うっ……」

「レベルは幾つじゃ?」

「い、1……」


 わたしがそっと目を逸らしながら……といってもおじいの上に居るからあんまり意味はないけど、とにかく目を逸らしながら言えば、おじいが困ったように小さく震える。

「ふうむ。それは不安じゃのう。実に不安じゃ。ワシとイチローに名前をつけてくれたテスラを失いたくはないのう」

「え、テスラ居なくなっちゃうの!?」


 おじいの言葉にイチローが不安そうに震えながらわたしに飛び込んできて、わたしは「ぐえっ」と声をあげておじいの上を転がり……おじいの身体が僅かに伸びて壁のようになってわたしを受け止める。


「ご、ごめんテスラ!」

「う、ううん。いいよ。でもイチロー、君はわたしより大きいんだから気を付けて……」


 子供なわたしと比べてだから、イチローも大きい方ではないのかもしれないけど。それでもイチローはわたしより大きいしずっしりしてる。たぶんまともに正面からぶつかりあったら、わたし潰されちゃうんじゃないかな……。


「テスラの種族、魔王……そんなものはワシも聞いたことが無いが、ワシ等に名前をつけられる力を持っておるのは確かじゃ」

「う、うん」


 それはさっき出来た能力なんだけど……特に否定する事でもないので私は頷いておく。


「名前が得られるとなれば、欲しがる魔物は多いはずじゃ。それをテスラの味方に出来れば心強いが……難しいかもしれんのう」

「え、なんで? 皆名前貰えたら嬉しいよね?」


 ぷるっと震えるイチローに、おじいは「うむ」と頷いてみせる。


「その通りじゃ。しかし、全ての魔物が仲良しというわけではない。それはイチローも分かっておるじゃろう?」

「……うん」

「中には、テスラの力を知れば独占しようとする魔物も居るかもしれん。そうなればイチロー、お主は勿論としてワシでもテスラを守り切れんかもしれん」

「で、でもおじいは強いよ!」

「そうじゃの。しかしワシより強い者などいくらでもおるよ」


 悲しそうに震えるおじいに、イチローも理解してしまったのか黙り込んでしまう。

 自分の事は自分で守る、と言えたらいいんだけど……悲しい事に、わたしはたぶんそこまで強くない。

 戦ったことなんてないし、さっきもイチローの体当たりでコロコロ転がってしまった。

 わたしを殺そうとする誰かと会ったら、それこそ一撃で死んじゃうかも……。

 それに、わたしは全ての魔物と仲良くしたいのに。どうしたらいいのかなあ……。


「なら、僕が強くなる!」


 悩むわたしに寄り添うようにして、イチローがそう叫ぶ。


「僕、もっとレベルを上げて、いっぱい進化して! おじいよりも強くなる!」


 ブルンと大きく震えるイチローの姿は、決意に満ちている。やる気満々、今からでも駆けだしそうなイチローの宣言に……おじいからも、熱い感情が燃え上がってくるのを感じた。


「ふふふ……ふははははは! ワシよりもか! それは良い目標じゃのうイチロー! ではイチローが強くなるまでの間は、ワシがテスラを守るとしようかの!」

「うん、すぐに強くなるよ!」

「うむ。だが無茶だけはせんように……ああ、そうじゃ。テスラのレベル上げをしても良いかもしれんの」


 む、それは助かる。わたしだって、レベルを上げればきっと強くなる。進化するかは……分かんないけど。その辺どうなんでしょう、アルステスラ様?


―特殊知識:魔王の進化が解凍されました!―


 魔王の進化。可愛さという点で進化できるかもしれません。服飾技術の向上が必須です。ちなみに種族としての進化であれば諦めてください。


 うん、そうですか。服飾技術って、わたしが作るんですかね?


「でも、レベルって……どうやって上げるの、おじい。まさか同じ魔物を倒すわけにもいかないでしょ?」


 というか、それはわたしが嫌だ。魔物を倒すなんて、絶対やだ。人間ならいいかもだけど、わざわざこんな所来る人間相手じゃ勝てないだろうし。

 

「うむ。その説明もしたいとこじゃがの。その前にテスラの寝床を用意せねばいかんか」

「寝床……」


 考えてみれば、わたしは生まれたばかりで寝床なんて持ってない。たぶんその辺でも寝られるとは思うけど……。


「おじい、この洞窟の隅っことか借りたらダメかな?」

「む? うむ。それは構わんのじゃがな。テスラのように柔らかい肉の身体を持っておる魔物じゃと、たっぷりの草を敷いた方が良いと思うのじゃよ」


 うーん、よく分かんない、けど。おじいがそう言うんなら、きっとそうなんだろう。


「草っていうと……わたしとイチローが会った場所に生えてたやつとか、かな?」

「あの草ならフワフワしてるよね! いい匂いするし!」

「む? 待て待て。青草はいかんぞ。枯れ草を集めねば。青草は干す手間があるしのう」


 むむ、色々あるんだね。でも、あの草原に枯れ草なんてあったかな?


「そうじゃのう……確か西の方に行けば、いつも草が枯れておる場所があったはずじゃが」

「いつも?」

「うむ。行ったのは随分前の話じゃが、不思議な事もあるもんだと思っておったわい」

「大丈夫? 危なくない?」

「それは問題ないじゃろ。ワシも進化前からよく其処の近くを通っておるしの」

「ん……そっか」


 おじいがそう言うんなら、大丈夫なのかな?

 わたしも頷いて、おじいを見る。とりあえず行くにしても、まずはおじいから降りないと……。


「では、行くとするかの。しっかり掴まっておるんじゃぞ」

「え?」

「わーい!」


 嬉しそうに震えるイチローと揺れ出すおじいを交互に見て、わたしは思わずおじいをがっしりと掴む。


「出来るだけゆっくり行くつもりじゃが、なにしろ久々じゃからのう!」


 言うと同時に、おじいの身体が動き出す。どむん、どむん、と響くのはおじいの身体が前に進む音。意外にも、わたしとイチローには衝撃があまり来ない。そのままおじいの身体が洞窟の外に出ると、そこには青い空と荒野が広がっている。

 確かわたしとイチローが会ったのは草原だったはずだから……そこからは離れているのかな?


「さあ、行くぞ!」


 そうおじいが宣言すると同時に、おじいが跳ぶ。どむんっと強い音を立てて、おじいの身体が低く長く跳ねる。

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