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水浴び。

「なんで僕に乗せるのー?」

「地面に置くのは駄目かなあって」

「そうですにゃあ」

「そっかあ」


 納得してくれたらしいイチローをそのままに、わたしとミケは池のふちで水を掬って。


「……大変ですにゃ、テスラ様。吾輩の手は水を掬うには向いてませんにゃ」


 濡れただけで終わってしまった手を呆然と見つめるミケに、わたしはそうだろうなあ……と思う。だって、ミケの手って水を掬える形してないもの。


「わたしがやってあげる」


 両手で水を掬うと、パシャッとミケにかける。


「にゃー、冷たいですにゃ」


 プルプルと水を掃うミケはさっきより少ししっとりしているけど、いまいち綺麗になった実感はない。もっとバシャバシャかけたほうがいいのかなあ。でもわたしの手じゃ掬える水の量には限りが……って、あっ。


「ちょっと待ってね、ミケ」

「なんですかにゃ?」


 疑問符を浮かべるミケの前で、わたしは水の原初魔法を試してみる事にする。思い浮かべるイメージは、たくさんの水。ミケとわたしの上に、降り注ぐ。一気に綺麗になるくらい、たくさん。


「……降り注げっ! って、きゃあああ!?」

「うにゃああああっ!」


 どざざざざざざっ、と。わたしとミケの上に大量の水が雨みたいに降り注ぐ。ひいいっ、冷たい冷たいっ!

 たくさんの雨が降り注いだ後のわたし達はびっしょりと濡れていて……ミケなんて、なんか毛並みがしょんぼりして別人みたいだ。


「……なんで人間って水浴びするの? 冷たいのが好きなの?」

「ていうかやり方が激しく間違ってる気がしますにゃあ……」


 すっかり身体が冷えてびしょ濡れになってしまったけど……このまま服着たら服も濡れちゃうかな。


「んー……そうだ。風で水が吹き飛ぶようにすれば」

「吾輩達諸共吹き飛ぶ未来が見えますにゃあ」


 ……信用ないなあ。無理もないけど。


「じゃあ火で乾かすとか……」

「吾輩、丸焼きは嫌ですにゃあ」

「むー」


 仕方ないので、身体が乾くまでイチローの上に乗って待つことにする。


「原初魔法って、もっと便利にならないかなあ」

「それを便利にしたのがたぶん、人間の魔法ですにゃあ」


 そうなんだよねえ。人間の魔法が原初魔法を型に嵌めたものだっていうなら、確かに人間の魔法は便利なんだと思う。


「人間の魔法で身体を乾かしたりするのってあるの?」

「流石に吾輩、そこまでは存じませんにゃ」

「うーん」


 ミケが知ってたらいいなと思ったんだけど、そこまではいかないかあ。


「ですが人間は魔法を覚えるのに何処かでお金を払って教えてもらうらしいですにゃ」

「お金……」


―世界知識:貨幣が解凍されました!―


 貨幣。お金、金などとも呼ぶ。主に人類領域で使用される、一定の価値を保証した取引用アイテム。物々交換ではなく貨幣を物資交換ツールとして使用する事により、人類は利便性を手に入れると同時に貧富の差を拡大させた。


 ……なるほど。あんまり良いものには思えないね。うーん?

「でも、ミケはお金払ってないよね?」

「はいですにゃ。吾輩が魔法教えてなんて言っても殺されちゃいますにゃ」

「じゃあ、どうやったの?」

「勿論、魔法を使ってる人間の側で見て覚えましたにゃ。誰も猫なんか警戒しないから楽勝ですにゃ」


 うーん、なるほど。ミケは便利だね。


「ですがテスラ様ならお金さえ払えば教えてもらえると思いますにゃあ」

「やだ」


 人間のとこなんて、行きたくないもん。

 ぷいっと顔を背けるわたしにミケが苦笑した気配が伝わってくる。ふーんだ。


「まあ、無理して行かなくともテスラ様が原初魔法を使いこなせば楽勝ですにゃあ」

「うん、頑張ってみる。ところで今思いついたんだけど、暖かい風とか暖かい水なら大丈夫なんじゃない?」

「吾輩、熱風も熱湯も嫌ですにゃあ……」

「信用してよ……」


 そんな事をやっている間にも身体が乾いたので服に袖を通し、ミケにも服を着せようとして……。


「中々乾かないねえ」

「テスラ様の髪もしっとりしてますにゃ」


 そう、わたしの身体は乾いたけど髪は乾いてないし、ミケの身体もしっとりしたままだ。


「やっぱり風を……」

「吾輩蒸し焼きは嫌ですにゃあ」


 ミケが嫌がるので、風は無し……と見せかけて!


「微妙にあったかい風……えいっ!」

「にゃあああああ!? なんだか暖かいけど、ちょっと不快な感じの風ですにゃー!」


 ぶおおおお、と丁度いい感じで吹く風でミケがほっこほこになる。うん、いい感じだね。


「じゃあ、わたしも……えいっ」


 ミケと同じ感じで自分に風を吹かせると、思ったよりも生温い感じの風がわたしに吹いて髪が乾いていくのを感じた。


「もうちょっと暖かくてもよかった、のかな?」

「うーん、それもなんだか怖い気もしますにゃ」


 まだ失礼な事を言ってるミケをコツンと突いてから、その身体に服を着せていく。

 ベルトをこう着けて……よし、出来た!


「ありがとうございますにゃ、テスラ様」

「うん。でもミケと同じような魔物は皆、自分で着替えてるのかな?」

「あるいは服ごと浴びてるのかもしれませんにゃあ」

「そうなの、かな?」

「マジックアイテムの中にはそういうものがあってもおかしくありませんにゃ」

「ふうん?」


 そういえばわたしの服も綺麗なままだし、そういうものなのかもなあ。でも、どんな効果があるのか分かればいいのに……。そう思って試しにアイテムを「視て」みると、ぼんやりと何かが見えてくる。あ、そうか。これもあの剣と同じなんだ。


名称:魔王のドレス

分類:服

効果:状態保存(極大)【レベル10(MAX)】、防刃(極大)【レベル10(MAX)】、防炎(極大)【レベル10(MAX)】、防水(極大)【レベル10(MAX)】、防毒(極大)【レベル10(MAX)】、防酸(極大)【レベル10(MAX)】、防呪(極大)【レベル10(MAX)】

詳細:アルステスラの力により作られたドレス。およそ考え得る限りの状態保護の為の加護がついている為、たとえ着用者本人が消滅する状況でも最高の状態を保つだろう。


名称:魔王の靴

分類:靴

効果:状態保存(極大)【レベル10(MAX)】、防刃(極大)【レベル10(MAX)】、防炎(極大)【レベル10(MAX)】、防水(極大)【レベル10(MAX)】、防毒(極大)【レベル10(MAX)】、防酸(極大)【レベル10(MAX)】、防呪(極大)【レベル10(MAX)】

詳細:アルステスラの力により作られた靴。およそ考え得る限りの状態保護の為の加護がついている為、たとえ着用者本人が消滅する状況でも最高の状態を保つだろう。



 ……うん、なるほど。服が凄いのはよく分かった、かも。ミケのはどうかな?


名称:猫騎士の服(闇)

分類:服

効果:状態保存(中)【レベル1】、闇属性耐性(小)【レベル2】

詳細:闇属性のナイトキャットが纏う小さな服。闇属性に対する一定の耐性を持つ。


名称:猫騎士の靴(闇)

分類:靴

効果:状態保存(中)【レベル1】、闇属性耐性(小)【レベル1】

詳細:闇属性のナイトキャットが纏う小さな靴。闇属性に対する一定の耐性を持つ。


名称:猫騎士の剣(闇)

分類:剣

効果:状態保存(中)【レベル1】、闇属性(小)

詳細:闇属性のナイトキャットが持つ小さな剣。僅かではあるが、闇の力を帯びている。


「ふむふむ……」

「ど、どうされましたかにゃ?」

「うん。わたしの服もミケの服も、状態保存っていうのがかかってるみたい」

「おお、それは僥倖。そういえばテスラ様は看破を使えましたにゃ」


 納得したような様子のミケは嬉しそうに自分の服を撫でるけど、そこに「ねえー」というイチローの不満そうな声が響く。


「そろそろ上行こうよ。僕、飽きたなあ」

「あ、ごめんごめん。行こうか」

「ですにゃー」


 わたしとミケは、ほっとかれて不満そうなイチローに謝りながら元の場所へと戻っていく。うーん、それにしても……わたしの服って、ミケの服みたいな「耐性」はついてないよね。なんでかなあ……?

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