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おかえり。

 リザレクション。神官の使う究極の回復魔法。死にかけた者を全快させ、元の状態に戻す。ただし、すでに魂が肉体から離れた後は成功率が極端に下がる。


 ■■■■■■■。天の神が封じた回復魔法。死した者を呼び戻し、その場に無い……たとえば遥かな昔に死した者すらも彼方から呼び戻す。ただし、何らかの手段によって魂を砕かれ消滅させられた場合はこの限りではない。


 名前が見えないのは、その封じられた影響なんだろうか。でも、わたしには関係ない。わたしが使うのは人間の魔法じゃなくて、原初魔法。そういうものがあると分かっているなら、同じ効果だって引き出せるはずだ。

 イチローを、助ける。助けられる。なら、わたしはその封じられた魔法とかいうものを、この場で編み出してみせる。


「……戻ってきて、イチロー」


 集めたイチローの破片を地面の上に置いて、わたしは魔力を注ぎ込む。

 イチロー、イチロー。戻ってきて。強くて速い騎士。そんなスライムになるんでしょ?

 わたし、もっと気を付けるから。あんな人間なんか、もっと早くぶっ飛ばせるように頑張るから。

 だから、イチロー。


「お願い、帰ってきて!」


 輝く。わたしの中から大量の魔力が引き出されて、イチローの破片に流れ込んでいく。


―禁則抵触。魂の管理に関する重大な違反を確認。ソウルリバースの使用確認。強制中断を―スキル「魔王」発動。「神に逆らいし者」展開発動―■■■■■■■■■■■■■■■―


 何かが、バキンと音をたてて壊れた音がする。イチローの破片が光って、集まって。その全部が、大きな光に包まれていく。そして、その中から……。


「あれ? 僕……」

「イチロー!」

「うわあっ!」


 キョロキョロと辺りを見回すイチローに、わたしは全力で抱き着く。

響くレベルアップの音も、今のわたしにはどうでもいい。


「イチロー、イチローイチローイチロー!」

「ど、どうしたのテスラ! え、あれ? 僕、確か吹き飛ばされて……」

「全部終わったよ! 人間も居なくなったの!」

「ええ!? 何があったの!」

「どうでもいいよ! 帰ろう、イチロー!」


 イチローに正面から乗ると、わたしは位置を直してぺしぺしとイチローを叩く。


「ええ……? 何もないってことはないでしょ。そこに何か刺さってるし」

「むー」


 でもまあ、確かに。これを此処に置いとくのはよくないかな? ゴブリンが拾ったら拙いだろうし……。


「じゃあ、この剣は持って帰るから。ね?」


 わたしが剣を引っこ抜くと、イチローは仕方ないといった風に頷いてくれる。


「まあ、うん……」


 まだ納得してない風ではあるけれど、わたしはこんな場所にはもう一秒だって居たくない。わたしは剣を持ち上げようとして……やっぱり引きずって。


「……イチロー。これ、超重い……」


 何これ。あの人間、なんでこんなもの持ってたの? こんな重いもの使えるなんて、物凄い力持ちだったのかな。


「えー?」


 わたしが地面に置いた剣を、イチローが身体の一部を軽く変形させて持ち上げる。そのまま柄の部分を体の中に取り込むようにすると、剣を突き出すイチローの完成だ。


「そんなに重くないよ? たぶんテスラの方が重いよ」

「むー! 重くないもん!」


 イチローをぺしぺし叩くけど、イチローには効いた様子もない。


「じゃあ、これは僕が持って帰るからさ。帰ろう?」

「……うん」


 なんだろ。なんか微妙にイチローが大人になった感じ。気のせいかもだけど。

 とにかくわたしがイチローの上に乗り直すと、イチロー(剣装備)はぼむんっと跳ねて走り出す。


「そんなもの持ってて大丈夫? イチロー」

「うん、問題ないよ!」


 ぼむんっ、ぼむんっとイチローは跳ねる。

 太陽は段々と沈んでいって、月が上に昇ってくる。

 夜が来る。ほとんどの生き物が寝る夜が来る。

 おじいとミケは、もう寝ちゃったかな。それとも、心配して待っててくれてるのかな。

 分からない。分からないけど今、無性に二人に会いたかった。


「ねえ、イチロー」

「なに? テスラ」

「イチローは人間のこと、どう思う?」


 そう聞くとイチローは、ぼむんっ、ぼむんっと跳ねながらも「んー」と悩んだ様子を見せる。


「そうだなあ……怖いな、って思う。だって人間って、僕達魔物を殺しに来るでしょ?」

「そっか」

「テスラはどう? やっぱり怖い?」

「うーん……わたしはね……」


 怖い。それはわたしも同じだ。人間は魔物を殺す。それは充分に実感できた。ああいう人間が、あるいはもっと強い人間達が殺しに来るかもしれないと考えると、もっと怖い。

 でも、それ以上にわたしは強く、こう思う。


「嫌い、かな」

「嫌い?」

「うん、嫌い。わたし、人間のことは大っ嫌い」


 人間はイチローを、魔物達を殺しに来る。同じ魔物のわたしだって、殺しに来る。

 だから、嫌い。わたし達は、此処で暮らしてるだけなのに。

 そんなに経験値が欲しかったら人間同士で殺し合えばいいのに、わざわざ山を越えてこんな場所にまでやってくる。だから嫌い。


「そっかー……僕も人間は嫌いかな」

「でしょ? だーいっきらい!」

「あ、でもね。おじいから聞いたんだけど、テイマーっていう人間がいるんだって!」


 うん、知ってる。その情報は解凍されてるし。


「怖いんだよ。そいつに狙われると、魔物が人間の味方になっちゃうらしいんだ!」

「……うん、怖いね」

「おじいが言ってたけど、テイマーの側にいる魔物には近づいたらダメなんだって。同じ種族の魔物にだって躊躇わずに攻撃を仕掛けてくるんだって」


 そう、テイマーの所有物になった魔物は洗脳されてる。だから、テイマーのスライムは同じスライムにだって攻撃してくる。テイマーの……人間の武器になっちゃってるんだ。


「気を付けないとね」

「うん。でもどうやって見分けたらいいんだろうね?」

「んー……」


 そこまでは解凍された情報にはなかったなあ。出来れば、救える方法が分かればいいんだけど……。

 ぼむんっ、ぼむんっとイチローは跳ねる。わたしを乗せて草原を抜けて、荒野を走る。

 その先には洞窟……と、その前にいるおじいとミケ。


「おおっ、お帰りになりましたにゃ!」

「無事じゃったか。心配したぞ! ぬ? その剣は……」

「ごめん、おじい! 人間に会っちゃったんだ!」

「なに……っ!?」


 ブルルルンッと興奮したように震えるおじいに、わたしは「やっつけたよ」と伝える。


「やっつけた……? イチローが、ではないの。まさかテスラが……?」

「うん」

「テスラ様の魔法ですにゃ!? 確かにあの威力の魔法であれば!」


 最強ですにゃ、人間なんか怖くないにゃー、と叫ぶミケをそのままに、おじいがわたしを見下ろしてくる。


「……なるほど、イチローの持っとる剣はその人間のものか」

「うん、ゴブリンが拾ったら大変だから」

「うむ、それは正しいのう」


 そう言うと、おじいはふうと溜息をつく。


「そうか、北のゴブリンは人間が原因じゃったか……」

「ゴブリンが一杯死んでたよ」

「あ、そういえばゴブリンは片耳がなかったよ!」

「ふむ? そういえば人間にはそういう奇習があったのう」

「奇習?」


 イチローが聞き返すと、おじいは「うむ」と頷く。


「何故かは知らんが、人間は魔物を倒すとその一部を持ち帰るのじゃよ。そんなものを集めて何をするのかは知らんが、ドラゴンの一部のような凄い物は身に纏ったりもするようじゃの」

「うえー……じゃあ、この剣も?」


 イチローがペッと吐き出した剣を見て、おじいはぶるんぶるんと否定するように震える。


「いやあ、それは金属製じゃろうの。何処かの山から掘った鉱石を加工したものじゃよ」

「へえー」

「しかし、どうしたものかのう。そんなもの持って帰ってきても、誰も使わんしの」

「吾輩もこんなのはデカいし重いしで使えませんにゃあ。テスラ様も……」

「わたしも無理。超重いんだもの。おじいは?」

「ワシもこんなものは使わんのう。イチローはどうじゃ?」

「分かってて聞いてるでしょ、おじい」

「わははははっ」


 おじいが楽しそうに笑って、イチローが拗ねる。


「もう、人間のせいでレベルも上げられなかったし」

「む? しかし人間を倒したんじゃろう? レベルが上がったのではないか?」


 ドキッとする。イチローが死んで、生き返ったこと。それを伝えようとして。


「あれ? ほんとだ、上がってる! ええ、レベル10!?」


 そんなイチローの声に、掻き消された。


「おお、おめでとうですにゃ!」

「ほお、めでたいのう! しかし、その割には進化しとらんようじゃが……?」


 ミケとおじいに見られて、イチローはぽんぽんと跳ねる。


「むー、進化、進化―!」

 ぽんっと跳ねるイチローを見ながら、わたしはミケをつつく。


「ねえ、ミケ。ミケはこの前進化したでしょ? イチローに何か教えてあげてよ」

「そうですにゃあ……イチロー殿! 進化は気合ですにゃ! 自分がどうなりたいかを考えて、未来を選ぶのですにゃ!」

「え? う、うん!」


 ミケに言われたイチローは「気合……未来……」と呟きながら唸り始める。

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