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■■■■

「そういえばテスラ、僕も聞きたい事あったんだ!」

「え、なに?」

「ミケが二本足で歩いてたけど、なんでー?」


 ……え、今更なの? なんて言わない。きっとおじいもイチローもスライムだから、猫のことなんて分からなかったんだよね?


「えーとね、進化したみたいだよ。ナイトキャットとかいう種族だったかな?」

「ナイト? ナイトって何?」

「騎士って意味だよ!」

「騎士って何―?」

「え……っと」


 難しい事聞くなあ。でも言われてみると確かに……騎士って何かな。うーん。


「守る人、かなあ?」


 そんな感じの意味で合ってるよね? 確か、そのはずだけど。


「守る人、かあ。じゃあ僕とおじいも騎士なのかな?」

「え? えー……どう、なのかな」


 なんか違う気もする。特におじいは凄く違う気がする。


「そっかあ。騎士かあ。騎士もいいなあ。速くて強い騎士のスライムになれるかなあ?」

「なれると思うよ」

「そう?」

「うん」


 これは、本当にそう思う。イチローは、わたしなんかよりずっと優しい。

 自分の事よりわたしの事を考えていてくれている。わたしなんか、ほんの少し前に会っただけの魔物だっていうのに。


「イチローならカッコいい騎士のスライムになれるよ」

「カッコいいんじゃなくて、速くて強いのがいいなあ」

「あ、そっか。うん、そういうのになれるよ!」


 ぼむんっ、ぼむんっとイチローが跳ねる。


「あ、レベル上がったよ!」

「おめでとう、イチロー!」


 これでレベル8。たぶん素早さが増えてるはずだけど……ステータスに踊らされないようにと思っても、やっぱり見ちゃう。


名前:イチロー

 種族:スライム

 職業:可能性の黒卵(魔王軍)

 レベル:8

 体力:19

 力:8

 魔力:3

 素早さ:12

 物理防御:20

 魔法防御:2

 技術:4

 運:4

 

 スキル:衝撃耐性(極小)【レベル1】


 なんだか技術が上がってるのは、わたしを乗せてるせいなのかな?

 

「あと2だね、イチロー!」

「うん!」


 ぼむん、ぼむん、とイチローが跳ねて。荒野を抜けて、草原が見えてくる。もう少し行けば森だけど、そこまで行くのは流石に危険。


「ねえ、イチロー。もう少ししたら戻る?」

「えー? まだまだ走り足りないよ?」

「でも、森まで行ったら危険だし……」


 言いながら、わたしを乗せたイチローは草原へと辿り着いて。ぼむん、ぼむんと走る。

 もう少しなら大丈夫。たとえばそう、わたしとイチローが雨宿りをした、あの木の洞くらいまでなら。

 そんな目標をたてながら、ぼむん、ぼむんと跳ねて。

 わたしとイチローは、それを見つけてしまった。


「……え? なに、これ」


 草の中に倒れている、ゴブリンの死体。たくさんのゴブリンが、血塗れで草原の中に倒れている。

 それだけじゃない。氷漬けのゴブリンとか、別の方向には焦げたような跡もある。

 あれって、魔法……の跡、だよね?


「ねえ、テスラ。このゴブリン……変だよ」


 ゴブリンの死体を見ていたイチローが、そんな事を言い出す。


「え? 変って……」

「耳が無いよ、片方だけ」

「耳?」


 言われてイチローの上からゴブリンを見下ろしてみると、確かにゴブリンの尖った耳のうち……右耳だけがない。まるでそこだけ食べられたか何かしたみたいに。


「ねえ、イチロー。ゴブリンの耳食べる魔物なんて……いないよね?」

「僕、そんなの知らないよ」

「ほら、ドラゴンとか」

「ドラゴンだったら丸呑みすると思うな」


 ……だよね。だとすると、やっぱり考えたくない可能性を考えた方がいい。


「イチロー、今すぐ帰ろう!」

「■■■、■■■■■。■■■■■■■?」


 わたしがイチローをぺしぺしと叩いて促したその瞬間。森の中から、何か声のようなものが聞こえてきた。


「■■■、■■■■■■■■■■■■■■!」

「■■■■■■? ■■、■■■■■■■」


 そこに居たのは、二匹の二本足。

 一匹は、金属製の鎧を纏った雄。背が高くて、筋肉が凄い。手に持ってるのは片手用の剣と、盾。ぼさぼさの金髪と青い目をしていて、たぶん結構若い。

 もう一匹は、やっぱり雄。こっちは長い銀髪と青い目で、きつい印象。ゆったりとした服の上からマントを羽織っていて、手には長い木の杖。こっちも若く見える。


「ねえ、テスラ。あれってテスラの仲間……じゃないよね?」

「うん、違う。だって言葉分かんないし。たぶん人間」


 じりじりと下がるイチローに、わたしも緊張しながらそう伝える。あの二匹の人間がこれをやったなら、それが出来るくらいに強いってことになる。

 じりじりと下がるわたしとイチローに、金髪の方の人間が手を伸ばす。


「■■、■■! ■■■■■■■■!」

「魔法!?」

「たぶん違う! でもイチロー、走って!」


 イチローがわたしを乗せたまま、身を翻して走る。人間、経験値を稼ぎに来た人間!

 このままだとわたしもイチローも殺される!

 速く、もっと速く。そんな想いが、形になりそうになって。

 わたしとイチローを、爆風が吹き飛ばす。


「きゃ、あああああっ!」

「わああああっ!」


 空高く、わたしとイチローが飛んで。二人とも、鈍い音を立てて地面に叩き付けられる。


「■■、■■■■! ■■、■■■■■■!」

「■■■■。■■■■■、■■■■■■。■■■■■■■■■■■■■」

「■■■■■、■■■!」


 人間二人が、揉めている。金髪の人間が銀髪の人間に掴みかかっている。

 何を言っているかは分からないけど、今が逃げるチャンス。


「い、いちろー……」


 わたしと一緒に吹き飛ばされたイチローを探して、わたしは這い蹲りながらイチローの姿を探す。

 イチロー、イチロー。何処?

 手を伸ばして、指先で草を掴んで、身体をずりずりと動かす。

 イチロー、イチロー。早く逃げよう。

 伸ばしたわたしの指先に、ぷにっとした感触が触れる。


「いちろ……!」


 それは、青くてぷにぷにとした、イチローによく似た何か。

 まるでイチローが小さく砕けたらこうなるんじゃないかっていう、そんな、感じの。

 違う。違う。これはイチローじゃない。

 否定しながらも、わたしの「看破」がそれの正体をわたしに伝えてくる。


 名称:イチローの破片

 詳細:魔王軍の一員、スライムのイチローの破片。通常のスライムの破片よりも高い性能を持っている。


「あ、ああ……ああああ……!」


 違う、こんなの。こんなの違う!


名称:イチローの大きな破片

 詳細:魔王軍の一員、スライムのイチローの大きな破片。通常のスライムの破片よりも高い性能を持っている。


「わたし、のせいだ」


 もっと早くイチローに帰ろうって言っていたら。せめて、別の方向に行っていたら。

 そうしたら、きっとこんな事にはならなかった。

 イチローの欠片を抱いて、わたしは泣く。

 ごめん、ごめんねイチロー。全部、わたしがバカだったせいで。


「■■■、■■■■?」

「■■、■■■! ■■■■■■■■■■■!」

「■■■■■■■! ■■■、■■■■■■■■■!」


 人間が、何か言ってる。金髪の方の人間が、わたしに手を差し出してきてる。

 笑顔。たぶんこれは、笑顔なんだろう。

 なんなの? イチローを殺したくせに、何が嬉しいの?

 珍しいわたしを見つけて、これから殺すのが嬉しいの?


「……許せない」

「■?」


 許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない。わたしもこいつもあいつも、全部全部許せない!

 天の神に愛されてるくせに、恵まれてるくせに! こんなところにまで来て!


「■■、■■■■■■■■!」


 銀髪の人間が何か言ってる。金髪の人間が慌てたように下がる。銀髪の人間の杖の先に魔力が集まってる。魔法だ。分かる、あれは人間の使う魔法。


「■■、■■■■! ■■■……」


 させない。詠唱なんてさせるものか。風の魔力を集めているみたいだけど、お前よりわたしのほうが早い。

 イメージするのは、イチローにも見せたあの爆発。あれよりもっと、もっと、もっと。

 あいつらが吹っ飛ぶくらいに大きく!


「■■、■■■……!」

「ふっと……べええええええええ!」


 叫ぶ。風の原初魔法を解き放つ。

 草原の草と、ゴブリンの死体と、地面と。二匹の人間を全部纏めて吹き飛ばす風が吹き荒れて。耳がおかしくなりそうなくらいの轟音と共に、わたしの前の全部が爆発するように吹き飛んでいく。


「■■■!」

「■■■■■■!」


 何か叫んでいたのが聞こえた気もするけれど、何を言っているのかは分からない。でもせめて、イチローに詫びる言葉ならいいと思う。それで許す気は、全くないんだけれど。


―レベルアップ! レベル9になりました!―

―レベルアップ! レベル10になりました!―

―レベルアップ! レベル11になりました!―

―レベルアップ! レベル12になりました!―

―レベルアップ! レベル13になりました!―

―レベルアップ! レベル14になりました!―


 目の前の全部が吹き飛んで。わたしの近くに、何かが突き刺さってビクっとする。

 それは、さっきの人間が持ってた剣。「看破」が、それを勝手に調べてしまう。


名称:聖銀の大剣

分類:両手剣

効果:アンデッド、闇属性に対する威力が増加(中)

詳細:聖銀を鍛え造られた長剣。呪われし者を断つ力が篭められている。


 ……フン、だ。こんなもの。

 剣を無視して、わたしはイチローの破片を搔き集める。

 あんなゴミなんかより、イチローの方が大切だ。

 イチロー、イチロー。わたしのせいで。

 ぽろぽろと涙が零れて、イチローの破片に落ちる。

 破片を集めてイチローが元に戻るわけじゃないけど、せめて。

 でも、元に戻ってくれるなら……わたしは。


―魔法知識:リザレクションが解凍されました!―

―禁忌知識:■■■■■■■が解凍されました!―

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