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修行に行こうよ!

 名前:テスラ

 種族:魔王

 職業:魔王

 レベル:8

 体力:ちょっとつかれた

 力:う……ん?

 魔力:いんふぃにてぃー

 素早さ:にゃんこをめざせ

 物理防御:ぷにっぷにっ

 魔法防御:きゅーきょくまおうさま

 技術:みらいをみすえて

 運:せかいにあいされてる


 スキル:魔王


 相変わらず間違い探しみたいだ。「技術」は上がってるのか上がってるのかよく分からないし、「物理防御」は増えてるようにも減ってるようにも見えてしまう。


「ねえ、イチロー」

「なに?」

「イチローは、レベル幾つになった?」

「7だよ!」

「そっか」


 レベル7。わたしと一つ違い。魔物の中では最弱と言われてるスライムのイチローだけど……分かる。単純に足の速さでも力の強さでも、イチローの方が上だ。でも、そんなイチロー相手でもゴブリンの群れ相手じゃ戦えない。単純に、火力が足りないからだ。

 ……だからたとえば、そう。わたしの火力とイチローの速さが合わさったらどうだろう?

 そう考えて、じっとイチローを見る。


「イチロー、一つ聞きたいことがあるんだ」

「一つでも二つでもいいよ? どうしたの?」

「わたしを上に乗っけるのって……嫌?」

「テスラ様、まさか……」

「嫌じゃないよ!」


 何かを察したようなミケの言葉を打ち消すように、イチローが元気に叫ぶ。


「わたしの魔法とイチローの速さが合わされば、強くなれると思うんだ」

「ちょ、ちょっと待ってくださいにゃテスラ様! まさか明日のゴブリン退治に同行されるおつもりですかにゃ!?」

「ううん、それはしないよ」


 明らかにホッとした様子のミケに「でも」とわたしは告げる。


「守られるままではいたくないの」



 強くなりたい。今は駄目でも、明日は。明日が駄目でも、明後日は。

 今日よりも、明日は強く在りたい。だから、出来る事を始めていかないといけない。

 一人でダメなら二人で。二人でダメなら三人で。


「ミケも手伝って、お願い」

「はあ、しかし。吾輩はどう手伝えば」

「分かんない。けど、何かあると思う」


 わたしとイチローが二人力を合わせても、おじいにだって敵わない。でも、それは今日のわたし達。ミケとも力を合わせて三人で頑張れば、必ずおじいの力にだってなれる。

 ミケは悩んだ後、それでも「仰せのままに」と言ってくれる。


「……では、吾輩から一つ。あくまで目安ですが、魔物の多くはレベル10で何らかの進化をすると言われておりますにゃ」

「そうなの?」

「吾輩もイビルキャットからワイルドキャットに進化したのがレベル10でしたにゃ。まあ、強い魔物程進化が遅いとも聞きますが……スライムなら間違いないと思いますにゃ」


 その言葉に、わたしとミケは顔を見合わせる。

 わたしは進化できなくても、イチローは出来る。そうしたら、もっと強くなれる。


「僕、進化できるの?」

「あとレベル2つだね。イチローはどういう風に進化したいの?」

「うーん……とりあえず、もっと速くなりたいなー」


 そう言って、イチローは笑うようにプルプルッと震える。


「そしたら、僕に乗ればテスラはおじいよりも速くなるよ!」

「……イチロー」


 それは嬉しい。嬉しいけど。


「そういうのじゃなくて。わたしのことはとりあえず置いといていいよ。イチローは、おじいより強くなるって言ってたじゃない。それはいいの?」

「よくないよ? だから速くなる!」

「え?」

「だって、おじいと同じように強くなったら、おじいより強くなれないもん。だから、おじいとは違う風に強くならないと!」


 確かに、その通りだ。でも、速さって強さなのかな? わたしが変な事言ったせいで、わたしに影響されてないのかな?


「んー……いい目の付け所だとは思いますにゃ」

「そうなの?」

「はいですにゃ。強いスライムというと大型種が多いですが、総じて動きは遅いですにゃ」


 ……言われてみると、おじいも「速い」っていうよりは一歩が大きいって感じだけど。


「勿論大きさは強さですが、速くも強さですにゃ。イチロー殿がおじい殿より強くなりたいというのであれば、充分目指す価値のある方向性ですにゃ」

「うん! 僕、速いスライムを目指すよ! でも、どうすればいいの?」

「え?」

「へ?」

「おじいはたくさん土食べて進化したって言ってたけど、速いスライムになるにはどうしたらいいのかなあ?」


 言われて、わたしもミケも答えを出せずに黙り込む。

 速いスライムに進化するには何をしたらいいのか。おじいがああなるまでに土を食べて進化したなら、速いスライムにはどうやって進化するのか。風を食べる? たぶん違うよね……。


「ねえ、ミケ。風属性のスライムって」

「見たことはありませんにゃ……」


 考えた末に、わたしは一つの予想を口にする。


「分かんないけど……走ればいいんじゃないかなあ」

「そうなのかな?」

「たぶん……」


 正直、自信はない。そのくらいしかない気もするけど、どうなんだろう?

 スライムの進化についての知識が解凍されないかな、とも考えてみるけど……そんなものが解凍される様子もない。


「じゃあ、テスラ! 僕に乗ってよ!」

「え?」

「だって、テスラを乗せて走るのに慣れないと。でしょ?」

「……そうだね」


 わたしも、イチローに乗って魔法を使う事に慣れないといけない。イチローにだけ任せるんじゃなくて、わたしも一緒に強くなるんだ。


「では、吾輩は軽く食事をしてから寝る事に致しますにゃ」

「うん、おやすみミケ」

「おじい殿が潰した直後ですから何も居ないとは思いますが、一応お気をつけて」

「うん! ほらほら、テスラ乗って!」


 イチローに促されて、わたしはイチローの上に乗る。むにゅん、とした感触はおじいとは違う柔らかさ。手で掴んで、足でぎゅっと挟み込む。


「じゃあ……いっくよー!」


 ぼむん、ぼむん、ぼむんっ。この前よりも速く、力強くイチローは跳ねる。

 速い。間違いなく、イチローは速くなっている。そう気付いたわたしは、イチローのステータスを見る。


名前:イチロー

 種族:スライム

 職業:可能性の黒卵(魔王軍)

 レベル:7

 体力:18

 力:8

 魔力:3

 素早さ:11

 物理防御:20

 魔法防御:2

 技術:3

 運:4

 

 スキル:衝撃耐性(極小)【レベル1】


 やっぱり素早さが上がってる。2上がるだけでもこれだけ違うのかな。それとも、何か別の……?


「ねえ、イチロー!」

「なあにー?」

「イチロー、速くなってるけど……どうしたの?」

「全力で走ってるからだよー!」


 ……あ、そっか。そうだよね、特訓だもの。言われてみるとその通りすぎて、急に恥ずかしくなってくる。

 ステータスっていう分かりやすいものに惑わされすぎて、そんなことも分からなくなっていたのかもしれない。


「イチロー、わたしも頑張る!」

「うん、がんばろー!」


 イチローに乗って、風を感じる。違う、風の魔力を感じる。風の魔法にどんなものがあるのかは知らないけど、わたしの身体を押すこの風は、間違いなく風の持ってる力だ。

 それなら、この「押す」力を操れるはず。

 そう、たとえば。風で、ゴブリンを吹き飛ばすイメージ。わたしを押す風よりも、もっともっと……もっと強い風。ゴウゴウ、と吹く風よりも、もっと強く。


「……吹き飛べ!」


 イチローの進路を邪魔しないように、横の方に転がってた石ころを吹き飛ばすべく風の原初魔法を解き放つ。そして、そのイメージ通りに……ドゴウンッ、と。破裂するような音を立てて石ごと地面が吹き飛んだ。


「え!? え! 何!?」

「ご、ごめんイチロー! わたしの魔法!」


 響いた轟音に驚いて止まってしまったイチローに、わたしは慌てて謝る。

 うう、結局邪魔しちゃった。そんな反省をするわたしに、イチローは石ころが地面ごと吹き飛んだ辺りを見て「ふぁー」と驚いたような声をあげる。


「なんか地面に穴開いてるけど、あれがテスラの魔法?」

「え? そ、そうだよ」

「見せて! 僕、ちゃんと見てみたいな」

「う、うん」


 そう言われてしまうと、わたしも断れない。イチローを邪魔してしまったお詫びも込めて、わたしはさっきよりも少し強めに……派手になるようにイメージをする。


「……吹き飛べっ!」


 ボガアンッ、と。破裂どころか爆発するような音を立てて地面が砕けて。地面の破片がわたし達の方まで飛んでくる。


「わ、いたっ、いたたたたた!?」

「わ、すごい!」


 表面でぼよんぼよんと弾いているイチローと違って、わたしの肌は地面の破片をぼよんと弾いたりはしない。

 ビシバシと地面の破片にぶつかって、けれど何とか耐えきる。


「今のが魔法なの!?」

「う、うん。原初魔法っていうんだよ」

「僕も使えるかなあ!?」

「た、たぶん使えると思うけど」

「そっかー。でも今は速くならないとね!」


 そう言うと、イチローはクルリと元の方向へと振り返って走り出す。

 ぼむんっ、ぼむんっ、ぼむんっ。イチローが跳ねて、わたしが揺れる。

 結構揺れてはいるけれど、イチローの柔らかさのおかげで衝撃はほとんど感じない。

 少しずつ沈んできた太陽の代わりに、山の向こうから月が出てくる。今は、昼と夜の狭間。

 赤くなってきた空は、まるで燃えているかのよう。


「ねえ、イチロー! 何処まで走るの!?」

「レベル上がるまでー!」


 どのくらいで上がるのかなあ。折角なら10まで上げたいとは思うけど、難しいのかなあ。

 ぼむんっと跳ねるイチローの上で、わたしはそんなことを考える。

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