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わたしだって。

 地震、じゃない。響くズシン、ズシンという音には何処か聞き覚えがある。


「テスラ、ミケ! このゴブリン共がああああああああああ!」

「ウ、ウワアアア!? 巨大スライム!?」

「おじい!」


 叫ぶゴブリンを弾き飛ばして、逃げ惑うゴブリンをおかまいなしに踏み潰しながらおじいはわたしとミケの下に辿り着く。


「2人とも……すぐにワシに乗れい!」

「え? う、うん!」


 わたしとミケが意味が分からないままにしがみつくと、おじいの身体が動いてわたしとミケを上まで運んでぎゅっと強く捕まえる。


「アアッ、女ガ! クソッ、スライムメ……!」

「やはりそういう狙いじゃったか……!」


 わたしを指差して何か言っているゴブリン達を睨みつけると、おじいの身体が光り始める。これって、魔力だよね……てことは、おじいの原初魔法!?

 

「グランド……ッ」


 おじいが、高く跳ぶ。わたしとミケを捕まえていてくれなきゃ、ポーンと飛ばされていたかもしれないくらいに勢いよく、そして高く。

 跳んで、跳んで。輝くおじいは、そのままの勢いで地面に落下していく。


「シェイ、カアアアアアアアアアア!!」


―スキル「グランドシェイカー」発動!―


 着地したおじいの魔力が、地面に広く円状に伝わっていく。そして……その光った部分が大きく揺れて、爆発するように弾けた。


「グ、グアアアアアアア!」

「ギャアアアアアア!?」


 地面が崩れ、弾け、空に投げ出される。ゴブリンも空へと投げ出され、崩れた地面の破片にぶつかり、あるいは挟まれながら地面へと落下する。そうして全てが地面に戻ってきた頃には……動いてるゴブリンなんて、一匹も残ってない。


「おお、流石おじい殿……容赦がありませんにゃあ」

「おじい、ありがとう!」

「ほっほっほ。このくらい大したことはないわい」


 おじいの上ではしゃぐわたしとミケ。あれ? でも……。


「おじい、イチローは?」

「こっちに向かって走って来とると思うがのう」

「え、乗せてこなかったの?」

「これも修行じゃ」


 おじい、イチローにはちょっと厳しいのかな……?

 そんな事を考えてると、イチローがぽむん、ぽむん、と走ってくるのが見えた。


「テスラー! 大丈夫!?」

「あ、イチロー! 大丈夫だよ! おじいが助けてくれたから!」


 叫びながら、わたしはイチローに手を振る。


「もしかして、おじい殿達の方にもゴブリンが出たのですかにゃ?」

「うむ。だから心配して来たのじゃが……やっぱりじゃったな」

「ふむう……」


 おじいの言葉に、ミケは何やら考え込むような様子を見せてしまう。


「どうしたの、ミケ?」

「いえ。連中は何処の群れかと思いましてにゃ」


 おじいとイチローは居たのは北。ゴブリン達がやってきたのは、東の山の上。

 ……あれ? 確かに方角が全然違うね。


「2つの群れがある……ってこと?」

「かもしれませんし、そうではないかもしれませんにゃあ……」


 悩むように首を傾げるミケ。わたしは意味が分からなくて、おじいに視線を向ける。


「おじいは分かる?」

「ふーむ。幾つかのパターンは考えられるのう」


 そう言うと、おじいはその「幾つかのパターン」を教えてくれる。

 まず一つ目は、わたしも言った「二つの群れ」があるパターン。わたし達が見た、おじいの洞窟の上の山にゴブリンの群れがあって、北の草原の先の荒野の更に先。大きな森がある辺りにゴブリンの群れが居た場合。

 この二つの群れが同時に行動を起こしたというのが一つ目だ。


 そして、二つ目のパターン。ゴブリンの群れが、想像以上に大きいパターン。二つ以上の探索部隊を出すくらいに群れが大きくなっていて、そういう思考が出来るくらいに頭が良くなったゴブリンの進化体が群れのボスであるというのが二つ目。


「そして、三つ目じゃが……あまり考えたくはないが、外の人間が入り込んできたというパターンがあるのう」

「人間、が? レベル上げに来たの!?」

「ええっ!?」


 わたしとイチローが声をあげ、ミケの尻尾も緊張したようにピーンと立つ。

 人間が、山を乗り越えてやってくる。それならきっと、来るのは強い人間だ。ゴブリンなんか比較にもならない脅威かもしれない。


「あくまで可能性じゃがの。四つ目の可能性としては、その両方というのもある。片方は巨大な群れで、片方は外の人間に追われて逃げてきたという可能性じゃの」


 ゴブリンは外の人間からしてみれば魔物扱いじゃしの、と言うおじいに、わたし達は思わず唸ってしまう。外の人間と、ゴブリンの群れの問題。両方どうにかしなきゃいけない、なんてなったら……。


「おじい。外から人間が来たとして……どのくらい強いかな?」

「さて、のう。人間によるとしか言いようがないの。弱い人間が来たこともあるし、強い人間が来たことがあるとも聞く。まあ、強い方にはワシは会ったことないがのう」


 ほっほっほ、と笑うおじい。うん、弱い方ならいいけど……ゴブリンの群れが逃げてくるならたぶん、強い方だよね……。

 それを踏まえた上で、どうしたらいいのか。わたしは考える。ゴブリンが人間に殺されるくらいならいい。どうせ人間同士の争いだもの。でも、魔物が狙われるのは駄目だ。その虐殺は防がないといけない。でも、すぐ近くにいるかもしれないゴブリンの事も問題だよね……。


「……おじい。この辺りって、わたし達以外に魔物っているの?」

「ふむ? 見たことがないのう。例外はミケくらいじゃの」


 それってつまりミケみたいに隠れてるか、本当に居ないかのどっちか……ってことだ。


「北の森は?」

「あそこはゴブリンやらオークやらが占拠しとるのう」


 ……うん、なら放っておいてもいいや。

 

「じゃあ、対処すべきなのは山のゴブリンだよね」

「そうなるかのう」

「そうなの?」

「そうですにゃ」


 おじいが頷いてイチローがプルンと震える。さっきのゴブリン……そういえば「看破」する前に埋めちゃったけど、進化体もいたよね。あのくらいの強さなら大丈夫な気もするけど……ゴブリンって、何処まで強くなるのかな……。


「こっちから攻め込むとして……わたし達だけで大丈夫だと思う?」

「ふむ? 心配事があるのかのう?」

「うん。前におじいがキングとかそういうのに進化するのがいるって教えてくれたでしょ?」


 ゴブリンがそういうの……キングゴブリンとかゴブリンキングとか、そんな感じのに進化しているかもしれない。そうなった場合、わたし達でも勝てるんだろうか?


「ふむ……なるほどのう。ゴブリンのキングか。確かにそんなものを相手にしたことはないの」

「……おじいなら、勝てる?」

「さて。やってみないことにはの」


 道理だ。だからこそ、心配だ。たぶん、まだイチローは戦えない。ミケが戦えるのはもう分かってる。わたしもたぶん、魔法を使えば平気。でも、攻め込むとして。イチローを置いていって大丈夫なのかな……?


「しかしまあ、そうなると明日辺りにワシがゴブリンの巣を潰してくるというのが妥当かの?」

「えっ」


 一人で攻め込む気満々のおじいに、わたしは思わず驚きの声をあげる。


「まさかイチローやテスラを連れていくわけにはいかないしのう」

「え? で、でも。わたし、戦えるよ? 魔法も使えるし」

「ほう、それは凄いのう」

「テスラ様は魔法の才能がお有りですにゃ!」


 援護してくれるミケに心の中でお礼を言って、わたしは「そうだよ!」と叫ぶ。


「凄いんだから。ゴブリンをボウッて焼いちゃうんだからね!」

「うむうむ。ところでテスラや、あっちの方まで全力で走ってみてくれるかの?」

「へ?」


 おじいの全く脈絡のない発言に、わたしは首を傾げる。魔法の話をしてるのに、走るのに何の関係があるの?


「なんで?」

「いいから。全力じゃぞ?」

「う、うん」


 おじいに促されて、わたしは走る。レベルは上がってるのに、足はあんまり速くなった気がしない。たったったっ、とリズム良く走る。息を切らさないように、しっかり呼吸して。それでもやっぱり疲れてくる。

 ……そっか。体力がないっていうのかな? でも、と。そう考えるわたしの後ろで、どむんっという音が響いて。わたしの上を、黒い大きな影が通り過ぎた。


「……えっ」


 見上げたそれは、おじい。勢いよくジャンプしたおじいは、わたしの先で地響きと共に着地する。その揺れに思わず、ぺたんと尻餅をついた……そんなわたしに、おじいは振り返る。


「分かるかの。テスラは足が遅いんじゃ。今のはワシも分かりやすく本気で跳んだが、普通に走ってもテスラには簡単に追いつけるじゃろうのう?」

「え、でも」

「ゴブリン共の中には、ワシが本気で追っても逃げ切る奴もおる。そうした奴相手に、テスラは上手く立ち回れるかのう?」

「ま、魔法があるよ!」

「うむ。しかしその魔法は目の前の相手やすぐ後ろの相手をどうにか出来るのかの?」


 それ、は。難しいかもしれない。火魔法でも、あんまり近いとわたしも焼いちゃうかもしれない。後ろに居たら、気付かないかもしれない。威圧の魔眼で足止めしたって、後ろがどうにもならないことには変わりない。気付いても、追われたら逃げ切れるかなんて分からない。


「……」

「テスラも……イチローもそうじゃが、まだまだレベルも低い。そんなに焦らず、先達に任せておけばいいのじゃよ」

「うん!」


 イチローは元気に叫ぶけど、わたしはなんだか悔しかった。

 どうにかしたいと思っても、力が全然足りていない。


「さ、分かったら今日はもうお休み。疲れたろう」


 洞窟の中に入っていくおじいを見送って、わたしはぎゅっと拳を握る。

 上がったはずのレベル。ステータスだって、当然上がっているはずなのに。

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