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原初魔法

「……ねえ、ミケ」

「なんですかにゃ?」

「あれ、どうやって埋めるの?」

「穴掘って埋めるですにゃ」

「どうやって?」

「勿論道具を使うですにゃ。テスラ様の使える道具があるのではないですかにゃ?」

「ないよ?」


 だってわたし、生まれたばっかりだし。おじいの洞窟にも来たばっかりだもの。そんな道具なんて、あるはずないよ。


「へ? で、ではテスラ様は今日までどうやってきたのですかにゃ?」

「わたし、生まれたの昨日だもの。そんな道具なんてあるわけないよ」


 わたしの言葉に、ミケは「やっちまったにゃー……」と言いながら天を仰ぐ。


「言われてみれば、魔物のテスラ様に人間と同じ成長過程があるわけないにゃー。てっきり5年以上は生きてるものと思ってましたにゃ」

「そういえば話してなかったっけ……」

「いや、これは確認しなかった吾輩のミスですにゃ。そうなりますと何処か隅っこの方に……うーん、困りましたにゃ」

「埋めないとダメ、なの? ダメだよね」

「放っておいてもいいですが、もし後続の部隊が来たら何かあったことが丸わかりですにゃ。警戒されると面倒ですにゃー」


 もし来なくても、ゴブリンの死体は臭いですにゃー、と言うミケにわたしは思わず唸ってしまう。

 むむむ。そうなると、やっぱり埋めないと。でも、どうやって……って、あ。


「そっか、魔法で埋めればいいんだよ」

「おお、名案ですにゃ。土魔法であればどうにでもなりますにゃ! では早速!」

「うん!」


 わたしとミケは頷き合って、お互いをじっと見る。そのまま、じーっと見つめ合って。


「ミケ?」

「テスラ様?」

「ミケは土魔法使えないの?」

「テスラ様は使えないのですかにゃ?」

「……吾輩は使った事ないですにゃ」

「わたしも知らない……」

 おじいなら使えそうな気もするけど、待ってる場合じゃないよね……。


「うーん……土魔法、かあ……」


―魔法知識:土魔法が解凍されました!―

―魔法知識:魔法の基礎が解凍されました!―


 土魔法。数ある魔法の一つであり、土を操る魔法。


 魔法の基礎。そもそも魔法とは各種の属性の魔力を操り意のままにする技法の総称である。すなわち「火魔法」であれば火の魔力を意のままに操るというのが唯一の「火魔法」であるが、人類領域では呪文と呼ばれるものによってイメージの統一と固定化を実施し「意図した現象を起こす魔法」の型を作り魔法を効率化、細分化している。また精霊魔法と呼ばれる人類専用の魔法も存在し、これは精霊が魔力を制御する「主」となる魔法のことである。これに対し、魔物でも使用できる本来の魔法のことは「原初魔法」と呼称されている。


 備考:精霊魔法が魔物に使えないのは、精霊が魔物を嫌ってるせいです。


―魔法知識:原初魔法が解凍されました!―


 原初魔法。自然界に存在する魔力を自分の魔力で制御し発動する魔法のこと。魔物が発動可能な魔法はこれであり、何処かの誰かが独自に研鑽し生み出した原初魔法が世界に「スキル」として登録されることがある。これは人類、魔物共に条件を満たせば使用可能であるが、魔物固有のスキルも多い。なお、人類領域で原初魔法が廃れた理由は現代魔法の方が魔力効率が良いからである。


「テスラ様? どうされましたかにゃ?」

「へ? え、うーん」


 解凍された情報のせいで、ぼーっとしちゃってたらしい。でも魔法のことは分かった気がする。あと精霊は許さない。

 原初魔法……土魔法だったら土の魔力を操ればいいん、だよね?


「んー……」


 しゃがんで、足元の土に触れてみる。土魔法。土の魔力を意のままに。魔力、土の魔力。


「……あっ」


 何かを感じた気がして、身体がビクンと震える。あったかいような冷たいような、ちょっとふんわりとした……でもなんかどっしりとしたようにも思える何か。そんなものを、わたしの手の先の土から感じる。


「なんか……できるかも」


 試しに、土が盛り上がるイメージ。土の魔力を、操って……盛り上がれ、盛り上がれ……。


「にゃっ!?」


 わたしの前でボコンッと盛り上がった土の山を見てイチローが驚きの声をあげる。

 目の前には、わたしが立った時よりもずっと高く盛り上がった土。うん、やりすぎだ。

 わたしが元に戻るイメージで魔力を流すと、今度は地面がべこんっとへこんで元に戻る。


「い、今のは……土魔法なのですかにゃ?」

「うん。原初魔法っていうみたい」

「詠唱も何もありませんでしたにゃ……人間は呪文を詠唱してましたにゃ」

「うん、それは人間が作った、のかな? えーと……ゴブリンの死体を……」


 ミケと話しながら、わたしはゴブリンの死体を埋めるイメージで土魔法を使う。

 わたしの身体が薄く輝いて、ゴブリンの死体の下の地面が揺れ始める。そして……ぼこんっとゴブリンの下の地面に穴が開く。


「おおっ!?」


 落下したゴブリンの死体の上に土が崩れるように落ちて、やがて少し盛り上がった土山が2つ出来上がる。

 ……うん、こんな感じかな?


「お見事ですにゃ。このくらいならゴブリン共は気づきませんにゃ」

「そう、なのかなあ」


 土がぼっこりしてるから気付かないかなあ?


「問題ありませんにゃ。あいつ等バカだから絶対気付きませんにゃ。ニャーッハッハ!」

「コッチカラ声ガ聞コエタゾ!」

「獲物ダ!」

「あ、やばいニャ」

「……ミケのばか」

「申し訳ありませんにゃ……」


 おじいの洞窟のある山の上から落ちるように降りてくるゴブリン達を見ながら、わたしは思わず溜息をつく。

 2匹、3匹、4匹、5匹……さっきよりもたくさんのゴブリン。まだまだ増える。あっという間にわたし達を囲むように現れたゴブリン達に、わたしとミケは背中合わせでゴブリン達を睨みつける。


「……たくさんいるね」

「見たところ、進化体はいませんにゃあ」


 まさか、この数で先遣隊ってことは……ないよね? そんな事を考えていると、やや遅れて少し大きめのゴブリンが降ってくる。


「ゲッゲッゲ……コンナトコロニ人間と猫カ。ソレモ女……イイ土産ニナルナ」


 土産? おみやげ?


「ミケ、どういう意味?」

「説明すると口が腐りそうですが、遠回しに言うとゴブリンは亜人だから人類としか繁殖できませんにゃ」

「わたし魔物だよ?」

「オマエノヨウナ魔物ガイルカ! 逃ゲヨウトシテモ無駄ダ」


 ……ほんとに魔物なのになあ。


「とにかく、連中の狙いはテスラ様ですにゃ」

「そっか」


 イチローもおじいも居ない。なら、わたしとミケだけで乗り越えないとダメだ。

 

「やるよ、ミケ」

「ご命令のままに、ですにゃ!」


 ミケが剣を抜いて、わたしは目に魔力を込める。


―スキル「魔王」発動! 「威圧の魔眼」展開発動!―


 わたしの目が赤く染まる。輝く赤い威圧の魔眼が、ゴブリン達を睨みつける。


「ヒ、ヒイ……」

「ヒアアア……!」


 ゆっくりと周囲を見回して、辺りを威圧しようとして。でも、わたしの視界から外れたゴブリンが少し元気になってることに気付く。


「怖イ気持チ、消エタ……!?」

「走レ、アノ女捕マエレバイイ!」


 叫んだゴブリンを睨むと、そのゴブリンは威圧されてペタンと座り込む。でも、どうしよう。これじゃダメだ……!

 わたしの背後からは、ゴブリンの悲鳴と何かを切り裂く音が連続で聞こえてくる。ミケが戦っている。わたしも何か……!

 そう考えて、魔法の事を思い出す。原初魔法。土の原初魔法を使ったように、他の原初魔法だって使えるはず。それなら、このゴブリン達を倒せるもの。強いもの。一気に、倒せるもの。あいつ等が、恐れるもの。


「……そっか、火だ」


 火。わたしは火を思い浮かべる。見たことはないけど、空にある太陽なら知ってる。あれは遠い天の向こうでゴウゴウと燃えているもの。だから、そんな火を思い浮かべる。

 火。太陽のような、火。顕れて、ゴブリンを燃やし尽くせ。


「……燃え、ちゃええええええええ!」


 ドウ、と。おっきな……とても大きな火の壁が、現れた。

 悲鳴なんてあがらない。一瞬でわたしの前のゴブリン達を焼き尽くして、天に昇るかのように消えていく。


―レベルアップ! レベルが7になりました!―

―レベルアップ! レベルが8になりました!―


「ナ、ナナナ……ナンダ、今ノ魔法ハ!」


 今の火魔法が焼いたのは、私の「前」のゴブリンだけ。横とか、後ろにいるゴブリンはそのまま。

 振り返るとそのゴブリン達はざわざわとしていて、ミケがわたしの近くまで戻ってくる。


「見てませんでしたが凄い魔法でしたにゃ……!」

「うん。魔法については、ちょっと分かった気がする」


 たぶん曖昧なイメージだと、魔法も曖昧になる。今の魔法も「太陽」というには、ちょっと違う気がするし。


「今度は、もっと……」


 うまくやる、と。そう言おうとした矢先、地面がグラグラと揺れ始める。

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