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ゴブリンは魔物じゃない

 てふてふと草原を歩くわたしとミケ。わたしの方が一歩あたりは大きいはずなのに、ミケの方が先に進んじゃうのは不思議な気分。


「ねえ、ミケ」

「なんですかにゃ?」

「ミケはわたしの事、どう思う?」

「お仕えするべき方だと思っておりますにゃ」

「そうじゃなくて……」


 わたしは魔王。全ての魔物を愛する為に生まれてきた存在。愛っていうのが何かも分からない、レベル5の魔物。そんなものに、なんで。


「イチローもおじいも、ミケも……わたしを疑わない。魔物が魔物を食べちゃうような世の中なら、わたしのことだって警戒してもおかしくないのに」

「なるほど。確かに言われてみると不思議ですにゃあ」

「でしょ?」


 頷くミケに、わたしは思わず頷き返してしまう。たぶんアルステスラ様の力なんだろうとは思うけど、そんなものに頼って「愛する」なんて出来るのか。わたしは、そう思ってしまうのだ。


「けれど、ちょっと考えれば当たり前だとも思えますにゃあ」

「へ?」

「テスラ様からは、吾輩達に関する忌避感を感じませんにゃ」

「忌避感、って」

「いやな気持ちとか不快な気分とか、そういうのですにゃ」


 まあ、そんなのはない、けど。それがなんだっていうんだろう。


「吾輩達は、基本的に同族以外には物凄く警戒しますにゃ」

「う……ん?」

「こういう場所に暮らしてるからですかにゃあ。他人を信用できませんのにゃ」


 それは、悲しい事だと思う。イチローにはおじいがいるし、おじいにはイチローがいる。でも、わたしの知る限りミケは一人だった。


「それは相手が自分を害するかもしれない、という警戒もあるのですが……テスラ様からは、それを感じませんにゃ」

「それは」


 アルステスラ様、の。


「それどころか、物凄い好意の感情すら感じますにゃ。まるで吾輩達を好きでいてくれているような……そんな錯覚すら覚えるのですにゃ」

「……」

「吾輩達、基本的に嫌われ者ですからにゃ。そういう感情には物凄い敏感ですにゃ」


 笑うミケに、わたしは手を伸ばす。触れて感じた暖かさをもっと感じてみたくて、そのまま抱き上げる。


「ど、どうされましたかにゃ?」

「ん……なんか、こうしたくなったの」


 ちょっとずっしりして重たいけど、降ろしたいとは思わない。この重さが、暖かさが心地良い。


「ねえ、ミケ」

「はい」

「愛するって、何かな」

「難しい質問ですにゃあ。吾輩、ただの猫を装ってた時には好きとか愛してるとか散々言われましたけどにゃあ」

「うーん……」

「何故そんなことを?」

「魔物全てを愛するにはどうしたらいいのかなって」


 わたしの言葉に、ミケは驚いたような顔をしてわたしを見上げてくる。


「そんな事を考えておられたとは……驚きですにゃ」

「考えてたっていうか……」


 わたしは、その為に生まれたから。でもたぶん、それだけじゃダメなんだとも思う。愛する為に生まれたから愛するんじゃなくて、わたしがそうしたいと思わないと……。


「あ、ダメ。なんか手が……」


ミケを降ろして、わたしは手をぷらぷらさせる。


「そうですにゃあ……確か人間の崇めている神は全てを愛しているとかいう話でしたかにゃ?」

「人間の神って……確か天の神だよね?」

「遥かなる天から見守っているという話ではありますにゃ」


 でも、わたし達魔物を愛してはいない。全てに、魔物は含まれていない。


「……色んな魔物と、会いたいね」


 会って、色んな話をしたい。いっぱい魔物の事を知って、いっぱい好きになっていきたい。


「テスラ様なら、出来ますにゃ。先程の話でいうなら、皆愛に飢えてますにゃ」

「そう、なんだ」

「はいですにゃ。嫌われ者の吾輩達は、好かれる事に慣れてませんからにゃ」


 大体は敵かそうではないかですにゃ、と言うミケにわたしは衝撃を覚える。


「敵と味方、じゃなくて?」

「味方、と思うと大体足元を掬われますにゃ。お互いを信用してないと分かるから、「敵じゃない」と思えるだけでも貴重な関係ですにゃ」


 信用。ミケはああ言ってくれたけど、わたしは魔物にとって信用される魔物足りえるんだろうか?

 悩みながらも、わたしとミケはおじいの洞窟に向かって歩いていく。

 てくてく、てくてく。悩んでも、答えは出ない。ミケの後ろをついていくように、わたしは歩いて。


「ゲキャッ」


 そんな、不快な声を耳にした。


「ゲキャッ」

「ゲキャッ、ゲキャキャッ」


 響いてくる声。聞いているだけで嫌な感情が沸き上がってくるような、そんな声。

 わたしの中から、ドロドロとした何かがせりあがってくる。

 知らない。知ってる。初めて感じるその感情を、わたしは知っている。


「……ゴブリン……!」


 ゴブリン。ミケの言葉に、わたしは視線の先にいるモノを見る。

 おじいの洞窟を覗いて何事かを言っている二つの影。

 わたしと同じような二本腕、二本足。緑色のつるりとした肌の上には、何かの獣から剥いだと思わしき毛皮の服。手に持っているのは太い木の枝か何か。

 ああ、分かる。分かる。この感情が分かる。

 きらい。嫌いだ。わたしは、あいつ等が嫌いだ。なんでかは分からない。でも、嫌いだ。

 なんであんなのが、おじいの洞窟にいるんだろう。あそこは、おじいとわたし達の場所なのに。

 

「テスラ、様……?」


 ミケの声が聞こえる。うん、大丈夫だよミケ。わたしはミケの事が好き。でも、あいつらは嫌い。なんで? 分からない。でも分かる。わたしとアレは、絶対に分かり合えない。

 わたしはゆっくりと歩いて、ゴブリン達に近寄っていく。


「ゲキャ? ニ、ニンゲン!?」

「ナニ!? ナンデニンゲン、コンナトコロニイル!」


 わたしを人間と間違うなんて、ひどいと思う。わたしは、そんなのじゃないのに。


「ねえ、そこで何してるの?」

「オ、オマエコソ何シテル! ナンデニンゲンガ、マモノノコトバハナセル!」

「だってわたし、魔物だもの。それより貴方達こそ、魔物の言葉下手だね? 亜人だから?」

「オレタチハマモノダ! ダレヨリツヨクテカシコイ、ゴブリン!」


 違う。ゴブリンは亜人。なんで魔物を名乗ってるのか知らないけど、それだけは変わらない。ゴブリンは亜人。天の神に愛されてるくせに、魔物を名乗るなんて。


「ニンゲン! ソレト、ソコノネコ! コノドウクツハオレタチノモノダ! オマエタチモオレタチノ……」


 言いかけたゴブリンへと、ミケが走る。ゴブリンの直前で跳んで、その顔面に両手を振るう。

 ザシュッという鋭い音が連続で響いて、ゴブリンの悲鳴が轟く。ミケが爪でゴブリンの顔面を斬りつけたのだ。


「それ以上くだらない事を言うなら、容赦しませんにゃあ。臭いからとっとと消えるにゃ」

「キ、キサマア!」


 ゴブリンの振るう棒をアッサリと避けると、ミケは跳び回りながらゴブリンを引っ掻いていく。相手になっていない、というのはああいうのを言うのだろう。ゴブリン二匹がかりでも、ミケに全く当たっていない。


「ク、クソウ! ソレナラ……!」


 ゴブリンのうちの一匹が、わたしに向かって走ってくる。

 当たったら痛そうな、太い木の枝。わたしより速いから、たぶん逃げられない。

 でも、逃げたくない。あんなの相手に、わたしは逃げたくない。

 だって、わたしは何一つ間違ってない。逃げるのも、悲鳴をあげるのもダメだ。

 だってそれは、あいつ等がするべきなんだから。


―スキル「魔王」発動! 「威圧の魔眼」展開発動!―


 わたしの瞳が、赤く染まる。わたしの瞳が、紅く輝く。わたしの中の魔力が、瞳に集中する。初めて使うスキルの使い方が、自然と身体に流れ込んでくる。

 威圧の魔眼。これはわたしの視界の中にいる敵全てを威圧する、絶対強者の瞳。

 この瞳の魔力に勝てないならば、どんな相手だってわたしに跪く。

 だから……さあ。貴方も、そうなるといい。


「ヒ、ヒイッ……」

「ヒアッ……」


 わたしの眼前まで迫っていたゴブリンが、棒を取り落とす。ガクガクと震えて、へたりと地面に倒れ込む。脅えたようなその目が、それでもわたしから目を離すことすら恐れて。ミケと戦っていたはずのゴブリンも同じ。さっきまでの威勢なんて、どこにもない。

「ア、アア……アアアアアアアアアアア!」

「ヒ、マ、オイテイクナ! ウ、ウアアアア!」


 ミケと戦っていたゴブリンが逃げ出すのを見て、わたしの前に居たゴブリンも転がるように逃げていく。それをミケが追いかけて、一撃ずつ急所に入れて仕留めていく。


―レベルアップ! レベルが6になりました!―

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