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牛は植えない。

「まあ、適性というのはあくまで目安じゃからのう。必ずしも本人の可能性を制限するものではないぞ。むしろ、足りない能力を補うような進化……今だと職業もかのう? そういう選択をするのもいいものじゃ」

「そっか」


 まあ、わたしはどっちも「魔王」固定なんだけど。


「では、そろそろ続きといくかのう」

「あ、うん!」

「ではまた体操じゃ!」

「え、またあれ!?」

「当然じゃ、ワシの経験上、レベル5まではこれでイケるし毎日の体ほぐしにもピッタリじゃ! そおれ、まずは身体を大きく震わせて全身の運動!」


 おじいの身体の動きに合わせて、わたし達は必死で身体を動かして。わたしはレベル5、イチローはなんとレベル6になったのだった。


 名前:イチロー

 種族:スライム

 職業:可能性の黒卵(魔王軍)

 レベル:6

 体力:18

 力:8

 魔力:3

 素早さ:9

 物理防御:20

 魔法防御:2

 技術:2

 運:4

 

 スキル:衝撃耐性(極小)【レベル1】


 うん、イチローはなんだか平均的に上がってるね。職業が変わったら爆発的に伸びそうな気もする。ちなみにわたしは、何も変わってないように見える。なんなんだろうね、このファジーっぷりは。


「ふむ、テスラもレベル5になったようじゃし、今日はこのくらいにしておくかのう?」

「え、でもまだお昼くらいだけど」


 おじいの体操が始まったのが朝で、今は丁度太陽が真上に上ったくらい。まだまだレベル上げは出来るはずだけど……。


「うむ。とはいえ、レベル上げの感覚は掴んだじゃろう?」

「え? それは、まあ」

「ワシが音頭を取るのも慣れに繋がるからのう。それに、自分のなりたい方向性を意識してレベルを上げた方が良いからの」


 んー、それは何となく分かる気がする。おじいに全部教わっても、結局おじいの後追いにしかならないんだろうし。イチローの場合も、おじいを超えるつもりならおじいに教わってるだけじゃダメなんだろうな、とは思う。思うけど……わたしの場合はどうかなあ。


「じゃあ僕、走ってくるね!」


 イチローがそれを聞くなり走り出していくのを見送って、わたしはミケを見る。ミケはもうレベルがそれなりに高いけど、どうするんだろう?


「吾輩は……そうですにゃあ、畑でも作りましょうかにゃあ」

「畑?」

「人間の文化ですにゃ。食べ物を育てる場所の事ですにゃ」

「食べ物って……キノコとかだっけ?」

「畑の場合は少し違いますにゃ。芋とか麦とか、そういうのですにゃ」

「ふうん……?」


 わたしはそういうの食べなくてもいいみたいだから分からないけど、それがレベルアップに繋がるのかな?


「畑作業は吾輩の知る限りでは結構な重労働ですにゃ。テスラ様もご興味があるならやってみますにゃ?」


 重労働。てことは体力とか上がりそうだよね。やってみよう……かな?


「うん。じゃあ手伝ってみるよ」

「おお、それは重畳。では道具を用意しなければいけませんにゃ」

「道具?」

「はい、畑づくりには道具が必要ですにゃ。農具、というのですが……まあ、なんとなく作り方は分かりますにゃ」

「ふむふむ……」


 分かってるなら安心だね。わたし、その農具とかいうものについてはよく分からないし。


「とりあえず必要なのは、クワとかいう地面を掘り返す道具ですにゃ」

「地面を? そんなことしてどうするの?」

「恐らくですが、地面を柔らかくしてるんだと思いますにゃ」

「ふうん……? でもそれって、クワがないと出来ないのかな」


 なんかこう、魔法でも出来そうな気がするんだよね。


「どうでしょうかにゃあ。吾輩は試したことないですにゃ」

「そっか。でも全部人間の真似する必要もないし、試してみようよ」

「まあ、それもそうですにゃあ」


 頷くミケに、わたしもうんうんと頷いてみせる。


「じゃあ、決まりだね。此処に造るの?」

「そうですにゃあ、此処ならよく育ちそうですが。でも通うのがちょっと大変ですにゃ」

「うっ」


 確かに、此処に来るまではイチローの背に乗ってもそれなりの時間がかかる。わたしの足だと、その倍はかかってもおかしくない。


「じゃあ、おじいの洞窟の近くにする?」

「そこだと近いですが、荒野で作物が育つかは挑戦ですにゃあ」

「荒野だとダメなの?」

「駄目とは申しませんが、荒野は草が育たないから荒野なのですにゃ。作物が育つか吾輩、分かりませんにゃ」


 むう、なるほど。難しいんだね。


「とはいえ、やってみないと分からないのも確かですにゃ。何事も挑戦ですにゃ」

「うん、そうだね。やってみようよ!」


 おー、と手を振り上げるわたしとミケに、上の方から声が降ってくる。


「ほっほっほ。何やら楽しそうじゃのう」

「あ、おじい! おじいも畑造る?」

「ん? まあ、話は聞いておったが……ワシの身体じゃと、むしろ地面を固めてしまいそうじゃからのう。遠慮しておくよ。造る場所も、ワシがうっかり潰さん場所にしておくれ」

「はーい」

「はいですにゃ」


 そっか。それもしっかり考えないとね。おじいの邪魔になったらいけない。


「ところで、ワシはこの辺りを軽く見回ってくることにするが……お主等はどうするかの?」

「んー。吾輩はテスラ様を連れて一度洞窟まで戻りますにゃ。その後は洞窟の周りで畑の候補地選定ですかにゃ」

「うむ。それならまあ……安心じゃの。じゃが、気を付けるんじゃぞ」

「お任せくださいですにゃ」


 どむん、どむんと跳ねていくおじいを見送って、わたしはミケに疑問をぶつけてみる。


「見回り……って?」

「ゴブリンみたいな連中が入り込まないようにしてるんですにゃ。連中、すぐ増えますからにゃ」


 嫌われてるんだね、ゴブリン。まあ、魔物じゃなくて亜人なら、わたしは何の興味もないんだけど。


「ふーん。まあ、帰ろうよ。わたし、畑作りたい」

「そうですにゃ……ですが、畑を作るには問題がありますにゃ」

「問題って……どんな?」

「植えるものが無いという問題がありますにゃ」

「ん? どういうこと?」

「畑で育てる種や苗がありませんにゃ。何処かで芋を掘ってこないといけませんにゃあ」

「そっか。じゃあ、それも探す?」

「そうですにゃあ……とはいえ、そういうものが生えてそうな辺りはライバルも多そうですにゃ」


 言われて、わたしは気づく。おじいにイチロー、ミケ。もう三人の魔物に会ったけど、逆に言えば三人にしか会ってない。この魔境が魔物の暮らす場所だっていうなら、三人にしか会ってないっていうのは……ちょっと少ない気がする。


「そんなに畑作る魔物がいるの?」

「いやあ、居ませんにゃあ。魔物の基本は狩りですからにゃ。肉食であれば獣を狩るし、そうでなければ草を食みますにゃ。そして当然、他の魔物を狩る魔物だって存在しますにゃ。そういうのが何処に集まるかというと……」


 ……草食の、戦う力の少ない魔物が食事をする場所に現れる。つまりは、そういうことなんだろう。


「でも、同じ魔物だよね?」

「同じ魔物ですが、違う種族ですにゃ。吾輩が隠れ住んでいた辺りからも察して頂きたいにゃ」


 そういえば、ミケは枯れ草の中に住んでいたけれど……。


「でも、ミケは結構強いよね?」

「いかに強くとも、寝ている間に襲われたらひとたまりもありませんにゃ。うたた寝していても反応できるのなんて、キマイラとかドラゴンみたいな化物くらいのものですにゃ」


―魔物知識:キマイラが解凍されました!―

―魔物知識:ドラゴンが解凍されました!―


 キマイラ。獅子、山羊、蛇の三つの特徴を併せ持つ三頭の魔物。勇猛であり紳士的であり狡猾である。戦闘力、知能共に高く、人類領域では遺跡の守護者などとして特別視される場合もある。


 ドラゴン。世界最硬レベルの鱗で全身を覆った魔物。戦闘力、知能共に最高クラスであり、あらゆる環境に適応する唯一の生物でもある。人類の一部の信仰対象となることもあり、捧げものと引き換えにある程度の便宜を図る個体もいる。


 ふーん……なんか凄そう。ていうか、ドラゴンは人間と上手くやってるんだね……強いからかな?


「うたた寝してなかったら、ミケはドラゴンにも勝てる?」

「それは無理ですにゃあ……あいつ等はマジ化物ですにゃ。吾輩なんぞ、ドラゴンブレスの一撃で焼き肉になっちゃいますにゃ。あ、そういえば人間の家で食べた牛肉は結構美味かったですにゃあ」

「ふーん」


 牛、ねえ。確か獣だったよね。魔物じゃないならわたしも食べてもいいかもだけど、あんまり興味はないかな……。


「そんなに好きなら、牛植える?」

「……獣は畑じゃ増えませんにゃ。ていうか絵面を想像すると超こえーにゃ」

「あ、そっか。獣も生き物だもんね」

「テスラ様の知識はなんだか偏ってる気がしますにゃー」


 だって、魔物以外に興味ないんだもの。魔物が喜んでくれる為の知識なら、頑張って覚えるけど。


「ま、とにかく帰ろうよ。わたし達の……ていうかわたしの足じゃ、時間かかるし」


 イチローもおじいも居ないし、ミケは小さくて乗れないしね。


「そうですにゃ。吾輩がもう少し大きければ良いのですけどにゃ」

「ミケは小さい方が可愛いよ?」

「吾輩、カッコいいと言われたいですにゃあ」

「うん、じゃあ小さい方がカッコいいよ」

「そうですかにゃあ……」

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