ばいばい、またね《3》
今日は、今日だけは自宅に戻りなさい。
会社に出勤して、会社からの指示だった。
わたしは県外の支店に転勤していた。
一度、本社に着いてから公用車に乗って高速道路を走行しての出勤だった。転勤の為に引っ越しはせずに、今暮らしている自宅からの出勤をしていた。
高速道路が地震の為に通行止めになった。
情報だってはっきりとしたことはわからない。だから、むやみには動けない。と、わたしと同じく支店へと転勤したかつての上司が言った。
拍子抜けた。
家に帰ったら何をしよう。
地震で状況が凄いことになっていたのにもかかわらず、考えることはまるっきり違っていた。
感情は『驚いた』が、あって『怖い』は、膨らまなかった。
出来事が衝撃的過ぎて、感情が麻痺してしまう。
に例えるならば『かなしい』のに『うれしい』という誤った感情になる。
“現実”として受け入れたくない。
今思えば、完全にかつて経験したことがない出来事を認めたくないという、感情の反応だったーー。
***
買い出し。
やるべきことはしなければならないと、自宅の近くにあるショッピングセンターへと行った。
食料品を売る店舗は臨時休業になっていたけれど、医療品、日用品、雑貨品などを売っている店舗は営業をしていた。
店に入ると、とんでもない情況だった。
大勢のお客さんは見ての通りだが、陳列棚から落ちた売り物が店舗の通路に散らばって、なおかつ埋め尽くされていた。
それでもお客さんたちは必要な品物を、棚に残っている、落ちているから見つけて、手にして買い物かごの中をいっぱいにしていた。
わたしは独り暮らしだから。と、大量に買い込むは遠慮した。本当に、必要最小限での買い物をした。
レジを済ませて、品物を詰めた買い物袋を2つ両手でさげて徒歩での帰宅をした。
テレビの電源をいれて、画面に映されるのは地震の情報を伝える緊急特別番組。
地震の規模、震源地を地震が発生した瞬間の映像と一緒に報道をしているニュースキャスター。そして、現地からの中継より報道をしている記者。
〔震源地、馬本県 万寿町。今後の情報に注意をお願いします〕
テレビの画面に地震情報の字幕が映された。
その前にはスマートフォンから、災害時の緊急警報音が鳴った。冷蔵庫の上に置いていた玉葱が、炬燵で横になっていたわたしの目の前に落ちた。
揺れる前は、何処からかはわからないけれど、まるで何かが押し寄せて来るような、地面を叩いているような音が聞こえていた。
余震。
地震情報に注意を、警戒をする。
昨日の今日と、誰もが思っていた筈だ。
遠い、見たこと行ったことがない場所での現実は、今映しているテレビの画面で沢山観た。沢山の人が大変な思いをして生きるをしている。も、知った。
知ったことがあてはまらない現実に『まさか』と、思うのは普通。と、わたしは思う。
仕事。
明日がある。難しく考えるをする必要はない、したくない。
明日の為に、少しだけゆっくりしたいと思いながら早めの就寝をした。
***
陽菜里は、真面目です。
真面目過ぎて、会社の内部抗争に巻き込まれてしまった。
転勤、転勤先への出勤は何を意味しているかなんて、陽菜里は考える余裕がなかったと思います。さらに打撃を与えられたかのような、出来事。
陽菜里は身も心も切り裂かれる思いをしても竹のようなしなやかさで、まっすぐと。
陽菜里は何を原動力にしているのかしらと、訊きたいですね。
でも、今の陽菜里は我慢をしているだけでしょう。
誰かに甘えたいと、願っても叶えることは出来ない。だから、強くでいる。
ひーちゃん、疲れたらお休みをすることは大切なこと。
とくに、ひーちゃんが見た“現実”は大変なこと。
大変な“現実”で疲れるまえにお休みを、お休みをしてーー。




