この想いにサヨナラ
日曜日、水泳スクールの日がやってきた。
この一週間、あっという間だった。涙を流したり、心が痛んだりした。失恋の辛さも初めて知った。あれから、先生とも会ってないから、今日会うのは辛いけど、私のクラスの担当してるんだから仕方ないよね。当分、会いたくない気もするけど行かなきゃ、だよね。
「…そう…そんなことあったんだ」
今日までの出来事を真奈に話したの。
「うん。全部失ったみたいだけど、失恋してなかったら気付くことがなかった」
私は笑顔になる。
「失恋して少しは強くなったんじゃない?」
「まぁね。練習の時間だから行こうよ」
私は真奈とプ―ルサイドに向かった。
「玲美、今日の練習キツかったね」
サウナで真奈が言う。
「そうだね」
私は答えながら、チラリと先生を見る。
先生はお姉ちゃんと楽しそうに話してる。
今日の先生は、普段と変わらない様子で、私と接してくれた。その優しさに少し胸がうずくけど、とても嬉しかった。
失恋したはずなのに私の心はほんの少しときめいてしまう。いつかはこの気持ちが忘れられる時がくる。その日まで辛いことがあるかもしれない。泣くかもしれない。それでもこの想いにサヨナラだよね。先生はお姉ちゃんを大事にしてるもん。これからも大事にしていって思う。
「みどり、後でジュース買ってきて欲しいんだ」
先生が自分の顔の前で、手を合わせてお姉ちゃんにお願いしてる。
「別にいいけど…」
面倒臭そうにしてるけど、内心お姉ちゃん嬉しいんだよね。こんな二人を見てると羨ましく思えてくる。
「そろそろ出ようか?」
真奈は私に気を遣ってくれてる。
「あ、うん、そだね」
慌てて真奈の問いかけに返事をする。
「今、自分と先生を重ねてたでしょ?」
「少しはね」
「やっぱり?」
真奈はイタズラっぽい笑顔を見せながら、私の肘をつつく。
「でも、いいんだ。先生は私の気持ちわかってくれたしね。お姉ちゃんも気を遣って先生と会うのは避けてくれてるみたいだし…」
「そうなんだ。今度、カラオケでも行こうよ」
真奈は思い付いたように言う。
「カラオケね…」
「こんな元気がない玲美なんて、私は嫌だもん」
「そうだね。それじゃあ、来週の今日に練習終わってからね」
「オッケー!」
真奈は元気にVサインをした。
それから、五日が経った。
私は相変わらずの毎日を送ってて、お姉ちゃんはスクールでも中が良くて、結婚のことは保留に決めたんだって。先生は一度家に遊びに来て、パパとママとなんとかやってる。あれ以来だったから心配してたけど、その必要はなかったくらいだったんだ。
その日の放課後、学校から家に帰ると、ケ―タイが鳴った。
「もしもし?」
「玲美? 私だけど…」
「お姉ちゃんどうしたの?」
「玲美の学校の近くにあるケ―キ屋さんに今から来てよ」
「いいけど…?」
お姉ちゃんが何を企んでいるのかわからないでいる。
「わかった。今から行くね」
ケ―タイを切ると、簡単に用意をして家を出る。
なんだろう…? 気になるよ。お姉ちゃんのことだからケ―キ買ったから持って帰ってよ、とかそういうことだと思う。も―、持って帰るの面倒なのにな。なぁんて思いながら、ケ―キ屋さんの中に入る。
「あれ? 先生?」
店内にいる先生を見つけると、声をあげてしまう。
「先生、なんでいるの? お姉ちゃんは?」
私の頭の中は?マークでいっぱい。
「みどりはスクールに戻ったよ」
「なんで?」
「実は、玲美がオレにフラれて元気ないから二人でデ―トしてきてって、みどりが言ってたんだ。だから、オレはいるんだ」
「お姉ちゃん…」
お姉ちゃんがしてくれたことに胸が熱くなってる。
こんなことしてくれなくてもいいのに…。私はいいのに…。大丈夫なのに…。
「今日はオレのおごりだから、好きなケ―キ食べていいぞ」
「そんなの悪いよ…」
「いいんだよ。オレのことは気にしなくてもいいんから…なっ?」
「先生、ありがとう…」
私は嬉しさのあまり、涙が出そうになる。
お姉ちゃんからの突然のプレゼント。ありがとう、お姉ちゃん。私、お姉ちゃんの妹で良かったよ。
先生に自分の気持ちを伝えるまでは、お姉ちゃんと先生が付き合ってることが嫌で、本気で別れて欲しいって思ってたこともあった。私も先生と付き合いたい、結婚はして欲しくないって心から思ってた。思ってたけど、お姉ちゃんから先生を取るなんてことはダメなんだ。絶対にしてはいけないことなんだ。別れて欲しいなんて思っててもこれ以上は望んではいけないんだ。
私とケ―キを食べるのに付き合ってくれてる先生。優しいんだね。フッタ女の子にそんなこと出来ないよ。先生にフラれてからあまり元気がなかったけど、それは次の恋へのステップ。多分、これで先生への想いにサヨナラ出来る。いつまでも引きずっていた想いにサヨナラ出来る。
お姉ちゃん、先生、ホントにありがとう。そして、この想いにサヨナラ。
これからも好きな人が出来て、お姉ちゃん達みたいに一緒にいられるようにもっともっと頑張るからね。
――大好きな人とずっといたいから、ね。