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知らない約束

日曜日、水泳スクールがある日。

なぜか、日曜日は早く起きてしまうんだよね。先生に会えるからかな? 服もオシャレしたりもするんだけど、見てもらえる可能性はないんだよね。


「お姉ちゃん、行くの?」

午前九時半、お姉ちゃんが支度をしている。

「うん、寝坊しちゃったからヤバイよ」

鏡の前で急いで髪をセットしている。

「じゃっ、行ってくるから!」

カバンを持って部屋を出る。

私は一時から練習が始まるんだ。だから、まだゆっくり出来るんだ。

お姉ちゃんは水の中だから大変って言ってた。大変でも先生がいるから楽しいんでるみたいなんだよね。いい先生もいるからね。




そして、十二時過ぎ、私もカバンに水着などをつめて、スクールに向かうことにした。

う―、もうすぐで春なのに、なんでこんなに寒いんだろ。やっぱりスカートは失敗だったな。なんて思いながらスカートに向かう。

私が習ってるスクールは家から歩いて三十分のとこにあるんだ。自転車だったら十五分くらいでつくんだけど、私は歩いて行く派なんだ。ちなみにお姉ちゃんは自転車派だけど、今日みたいに寝坊なんてしたら最低。もう間に合わないって言ってた。

五十mぐらいのとこに来た時、私はダッシュしてスクールに入っていく。

「玲美! ニュースよ、ニュース!」

中に入ったとたん、スクールでの友達、真奈が息を切らせて走ってくる。

「真奈、ニュースって何よ?」

私はキョトンとして聞き返す。

「実はね、みどり先生と大塚先生が休みなのよ」

「え?」

「ウソ。ちゃんとスクールに来てるはずだって。朝、寝坊したなんて言いながら急いで行ったんだよ」

「それが来てないのよ。さっき村木先生と西先生から聞いたんだもん。連絡もしてるって…」

そ、そんなの…。ちゃんと行ったはずなのに…。

私は頭が真っ白になってその場に立ったままでいる。

「休んだ理由ってのは…?」

「二人で日帰り旅行に行くって連絡したみたい。先生達が言ってたけど二人は結婚するんじゃないかって…。それで旅行に行ったかもって噂してたよ」

「結婚?! そんなの知らない! 私、聞いてないよ?!」

突然のことで大声をだす私。

「ちょっと、玲美、こっち、更衣室に入ろう」

真奈が服の袖を引っ張った。

「今日、十時前に大塚先生から電話があって、“みどりと日帰り旅行に行くので休みます”って言ったんだって。前々から大塚先生はみどりが大学卒業したら結婚するって漏らしてたらしいの。玲美、何も聞いてないの?」

「聞いてるわけないじゃない。パパとママだってそんなこと知らないよ? それに、お姉ちゃん、結婚なんて考えてないって…」

私はため息まじりで答える。

「そっか。とりあえず、帰ってきたらみどり先生にそれとなく聞いてみたほうがいいかも。わかった?」

「うん…」

返事をしたけど、ショックが大きすぎてちゃんと声が出ない。


お姉ちゃんと先生が結婚? そんなの…そんなの…ウソだよね? 私、そんなの信じない。先生がお姉ちゃんと結婚だなんて嫌だよ。

まだ私の気持ち伝えてないのに…。

焦る気持ちが私の鼓動を早くする。

もし、二人が結婚を考えてるだったらお姉ちゃんに私の気持ちを正直に言って、先生に自分の気持ちを伝える。今の私にはそれしか出来ないよ。OKの答えをもらえるだなんて思ってない。ただ、私の気持ちを伝えたいだけだもん。気持ちを伝えなきゃ、後悔しちゃうもん。後悔だけは絶対に嫌だもん。

…結婚…。

気付けば、お姉ちゃんと先生には“結婚”を考える年齢だ。二人は結婚してもおかしくない。ただ、二人には学生という肩書きがついて回るから、パパとママは反対するに決まってる。

ねぇ、お姉ちゃんと先生をなんで巡り合わせたんですか? ううん、そんなことじゃない。お姉ちゃんと先生は何も悪くない。どうせなら、私と先生が巡り合わなければ良かった。私が水泳に習うからこんなに切ない想いをしなきゃいけないんだ。水泳なんて習わなければ…。



「玲美、タイムがさっきより落ちてるぞ!!」

先生が注意する。

今日は先生の変わりに違う先生。担当の休んだ日には、違う先生。いつものことなんだけど、今日はいつものことなんかじゃない。お姉ちゃんと先生のことがあるから…。

「大丈夫か? 顔色悪いぞ」

「少し体調が悪くて…」

「じゃあ、そこで座ってろ」

「はい」

「玲美、気にしないほうがいいよ」

「わかってる」

そう言うと、私は隅の方ですわりことにした。


二人が結婚するって聞いて、他の気持ちにも気付いた。それは、お姉ちゃんに先生を取られなくない、という気持ち。二人は付き合ってるからそんなこと気付いても仕方ないけど、今まではそんなことなかった。普通に先生が好きだったのに…。

今まではお姉ちゃんは私の分身だと思ってた。先生を見てはしゃいで、ノロケて、デートをしてバイト先でも会って、電話もメールもたくさんして、ケンカしてもすぐに仲直りして、勉強を教えあったり…私には出来ないことをしてくれた。でも、今はそんなこと思わない。ライバル同士なだけ。お姉ちゃんと競ったって無理だけど、ホントにそれだけだもん。



水泳の練習が終わって、更衣室の中、みんな喋りながら服に着替えてる。

当の私はというてため息ばっかり。

「玲美、大丈夫? 今日は早く帰ったほうがいいよ」

真奈が着替えながら心配してくれる。

「そうだね」

「どうするの? 大塚先生のこと好きなんでしょ?」

「うん。どうしたらいいのか考えてるとこ。自分の気持ちを伝えなきゃいけないのかなって思ってるとこ」

「そっか。何かあったら私に相談してよ」

真奈の笑顔見てたら、涙が溢れそうになった。






重い足取りで家に着いた私は、

「ただいま…」

ボソッと呟くように中に入る。

「どうしたの? 玲美」

ママが台所から顔を出した。

「ううん、なんでもない」

首を振る。

「顔色悪いわよ?」

「大丈夫だって。夕食まで部屋でゆっくりしてるね」

私は部屋に戻りながら、ママに気付かれないようにため息をつく。

あの調子だとお姉ちゃんのこと知らなさそうだ。当たり前か…。お姉ちゃん、今日のこと言ってないもんね。

玲美、ママにもお姉ちゃんにもホントのこと言わなきゃいけないんじゃない? ママには今日スクールで真奈に聞いたこと。お姉ちゃんには先生が好きだってこと。ちゃんと伝えなきゃいけないんじゃない? お姉ちゃんが帰ってきたら伝えなくちゃいけないよね。そうじゃないと何も始まらない。

多分、きっとお姉ちゃんは先生を連れてくる。そして、「結婚したい」って伝えると思う。まだわからないけど私にはわかる気がする。

私にとって先生は初めて出来た好きな人で、色んな想いをした。辛いこともあった。お姉ちゃんが羨ましいと思うことがあった。それだけじゃない。楽しいこともあった。先生と話せて嬉しかった。先生に水泳を教えてもらえたこと。先生の側にいれるだけでもいいのに、その先がもっともっと欲しくなる。私ってば欲張りだよね。


「お姉ちゃん、早く帰ってこないかなぁ…」

ベッドの上に寝転びながら、一人で呟く。

ドキドキ、ドキドキ。

心臓が高鳴って、ソワソワしてしまう私。

も――っっ、日帰り旅行なんていいから早く帰ってこ―い!! 私は伝えたいことあるのにな。遅いと困るのにな。早く言いたいよ。

なんて、思っていたその時、

「ただいま―っ」

お姉ちゃんの声が家中に響いた。

私はベッドからガバッと勢いよく飛び起きて、下へとかけ降りた。


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