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一方通行な私の想い

「お姉ちゃん、今日は大塚先生来るの?」

学校が終わって真っ先に家へ帰ってきて、お姉ちゃんに大塚先生が来るかどうかを確かめる。

「うん、来るよ」

「ホントに?」

「ホントだけどどうしたの?」

「な、なんでもない」

私は慌てて首を横に振ってしまう。


私、下村玲美、十六歳の高一。今、片想いしてる人がいるんだ。そう、さっき私の口から出た大塚昇先生。

先生は私の水泳を教えてもらっている。といっても、習い事で教えてもらっているだけだけど。

でもね、先生は私のお姉ちゃんと付き合っているんだ。付き合って一年が経つ。今から一年半前、私の習い事にまだ高校卒業したばかりの十八歳だったお姉ちゃんが、バイトをやり始めた。そして、その半年後、先生に片想いしていたお姉ちゃんが告白して、OKの返事をもらって二人は付き合うようになった。

当然、私はお姉ちゃんに自分の気持ちを言えないまま、一年が過ぎてしまったんだ。

お姉ちゃんの名前は、みどり。二十歳の大学二回生、ロングヘアで男女の友達が多い。

私といえば、二年前から先生に片想いしてるのに話すだけで精一杯。今の私の恋は辛いんです。




午後九時前、先生はお姉ちゃんと共に家に遊びにやってきた。二人は私の親公認だから、先生が少しくらい遅くに来てもあまり怒らない。

私はお姉ちゃんの部屋にお邪魔することにした。

「みどり、明日、バイト入ってたっけ?」

「入ってるよ」

「オレも入ってるよ。明日はよっちゃんが来る日だ。あのコ、大変だよな」

「確かに。私も手におえないって感じだよ」

部屋に甘く響くお姉ちゃんの声。完全にノロケてる。

私は日曜日に水泳だから他の曜日の先生は知らない。

「でも、よっちゃん可愛いし言うことないしな」

「そうね。妹にしたいくらい」

「ハハハ…そうだな」

笑顔になる先生。

先生が来た時は、当たり前だけど私の知らない曜日や知らない人の名前が出てくる。

私だって…先生のこと…。

そう思うと、不意に泣き出しそうになる。

「玲美、ジュース持ってきてよ」

お姉ちゃんは言う。

「わかったよ。持ってくる」

仕方なく立ち上がる。

先生と離れたくないんだね。

「早くしろよ、玲美」

「ハイハイ」

適当に返事をすると、私はお姉ちゃんの部屋を出る。

まったく、お姉ちゃんも人使い荒いんだからっっっ!! たまには自分で持ってこいっつ―の!! なぁんて、先生の前では言えっこない。


はぁ…。


冷蔵庫にある缶ジュースに手を伸ばしながらため息をつく。

私も先生と年齢が近かったら良かったのに…。そのほうが良かった。そしたら、先生と付き合えてたかもしれないもんね。

一年前に私も告白しなかったんだろう? お姉ちゃんにも自分の気持ちを伝えて、お姉ちゃんと一緒に告白したら、こんなに苦しい想いをしなかった。もしかしたら…という思いが私の中にある。お姉ちゃんからお姉ちゃんを取っちゃうことなのに…。一年前、完全な失恋をしていればホントに良かった。


「遅いぞ、玲美」

先生が私の頭をコツンと叩く。

「痛いよ、先生」

「今のは痛くないようにしたんだよ」

「でも、痛かったもん」

「玲美、そんなこと言ったらダメだよ」

「そうそう」

先生はお姉ちゃんの肩を持つ。

そして、二人はにっこりと笑う。

私よりお姉ちゃんを優先するんだね。先生にとって、私は彼女の妹なんだね。ただの水泳の教え子なんだね。

先生は私にとって特別な存在で、見る度にトキメいて好きになっていく。

「玲美、どうした?」

先生が私の顔をのぞきこむ。

「ううん、なんでもない。お姉ちゃんと先生って仲良いんだなって思っちゃって…。二人共、仲良いよね!」

空元気な私。

ホントは辛いはずなのに…。

「みんなにも言われるよね?」

「よく言われるよな」

「へぇ…。先生って大学の三回生だったよね?」

「うん、みどりより一個上だよ」

二人共、大学は違うけどバイト先である水泳スクールで会ってるから、別にデートしなくてもいいくらいなんだよね。お姉ちゃんの場合は先生に会えるだけでもいいみたいなんだけどね。

「オレ、そろそろ帰るな」

そう言って、立ち上がる先生。

「私、玄関まで送るっ!」

「いいよ、みどり」

「でも、見送っちゃう」

「私も見送っていいかな?」

私はお姉ちゃんの顔を窺いながら聞く。

いつもは自分の部屋に戻るから、今日こそは私もお姉ちゃんと一緒に玄関まで見送りたい。

「別にいいけど…」

お姉ちゃんの怪訝そうな言い方。

その言い方に、胸がチクリと痛んで私はうつむいてしまう。

「いいじゃね―か。玲美はいつも自分の部屋に戻るんだし…」

先生はお姉ちゃんに言う。

「いいよ。特別だよ」

お姉ちゃんはわざと明るい声で言った。


今のことでもしかしたら…って思ってしまう。もしかしたら、ケンカして別れることになったら…。一瞬にしてそう思った。私ってバカだ。最低だ。先生とお姉ちゃんを別れさせるのはよくないことだって、この私が一番よくわかってるのに…。自分の気持ちだけでそんなこと思ったらダメだよ。

でも、やっぱり自分の気持ちが止められない。先生のことが好き。誰よりも側にいたい。そう想ってるけど、お姉ちゃんの彼氏だもん。お姉ちゃんを裏切ることなんて…出来ないよ。一方通行な私の想い。きっと先生に伝わることなんてないと思う。

一年前に告白すれば良かったんだけど、お姉ちゃんが先生のこと好きだって知った時から、私は失恋だってわかった。もう諦めるしかないよね。



「お姉ちゃん、さっきはゴメンね」

お風呂から上がった私は、お姉ちゃんに見送りたいと言ったことを謝った。

「何言ってんのよ。怒ってないよ」

「良かった」

思わず、ホッと胸を撫で下ろしちゃった。

「それより今度の日曜日のスクール来るの?」

「うん、行くよ」

「真面目に昇の言うこと聞いて、泳がなくちゃダメよ」

「はぁい。じゃあ、私寝るね。おやすみ」

曖昧に返事して、自分の部屋に戻る。


ホントにこれでいいんだよね。だけど、これで諦めていいの? そんなに簡単に諦めていいの? お姉ちゃんに遠慮することないんじゃない? 玲美、どうするの? 先生にはお姉ちゃんがいるからなんともないけど、私のどこかで諦められない自分がいるのは事実。

もどかしいこの気持ち、どうしたらいいの…?


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