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レイヴンイエーガーズ 漆黒の反逆者  作者: 北畑 一矢
第1章 羽ばたく鴉
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カラスの爪痕

前話の通り、構造を描きます。

 メリア達が驚いた理由――それは、アドヴェンダーが操るシュナイダーの構造にあった。

 通常、シュナイダーは元となる【シュナイダー・フレーム】を制作、その上から装甲を取り付けることで完成される。

 シュナイダー・フレームとは、大きな人の形をしたフレーム、いわゆる人間の骨格に当たるものであり、フレームの胸部にはシュナイダーの心臓を務めるギャリアエンジンを搭載させることで初めて起動されるのだ。

 これはシュナイダーが人型であることを意識させているため、足を動かす、手で物を掴むといった人間の動きをスムーズに再現できる。

 当然、シュナイダーを新造させる時も、最初に専用のシュナイダー・フレームを設計することが前提であり、絶対条件となっている。

 シュナイダーを操るアドヴェンダーにとっても常識ではあるものの、シュナイダーを倒す手段は限られており、さすがにフレームを切断する技術など常識の範疇にない。

 もちろん、シュナイダーを倒すためには、爆薬などフレームにある関節部を直接破壊するか、シュナイダーを使用して搭載されている武器で装甲をフレームごと潰すしかないのだ。

 もっとも、既存の兵器でそれを行うのは容易ではないのが現状であり、前者では実行するにもかなりのリスクが生じるため現実的ではない。

 しかし、シュナイダー・フレームは現在、どの国にも採用されている戦車の装甲より強度が高く頑丈に出来ているため、そう簡単に潰されることはない。この措置は乗り手であるアドヴェンダーの安全を確保することを目的としており、シュナイダーが頑丈に出来ているのもそれが由来である。

 仮にギャリアウイルスを浴びたとしてもよほどのことがない限り、機体の内部に侵入することはない。もっとも、シュナイダー自身は念入りの整備をしなければならないが。

 ところが今、メリア達の目の前にある光景は、長年変えられることのなかった、常識の範疇にまったく存在しないことであり、技術そのものが完全に超越していた。

 これは明らかに歴史が塗り替えられたとしか言い様がない。

 ルーヴェは自身の背面で起きている出来事にも興味を示さず、ゆっくりと太刀を下ろした。その後、ガルディーニが乗るディルオスにきびすを返す。

 クロウの目がそれを見据えるとルーヴェはトドメを刺すためスラスターを噴射させつつ、今でも混乱しているガルディーニに向かって行く。

「クッ……!」

 混乱から立ち直ったガルディーニは今、目の前に起きていることを自覚するとディルオスの頭部にある固定武装の機銃を使用し、クロウに向けて迎撃を行う。しかし、弾はクロウに当たらず、一瞬で詰め寄られていく。

(速い!)

 ガルディーニは咄嗟に左腕のシールドを構えるが、ルーヴェはそのまま鴉羽でディルオスに斬りかかる。当然シールドに防がれるが、シールドは真っ二つに斬られる。やはりさっきまでのことは夢でも幻でもなかった。

 ルーヴェは間髪入れずに鴉羽を振り、いくつもの閃光が走った後、後ろに駆け抜ける。クロウの足は地面に着き、左手は突き出し、鴉羽を先程と同じように右に構えたまま一泊置くとディルオスはいきなり左腕部、両脚部にある関節部を斬られ、ダルマにされた状態となる。

「なっ……!」

 ガルディーニが乗るディルオスは斬られた左腕部と両脚部と共に、そのまま地面に落下した。それは二人の決闘に決着が付いた時の合図となり、ルーヴェに軍配が上がった。

 二人の戦いを一心に見ていたメリアは目を見開いたまま、両手両足をバラバラにされたディルオスを見つめていた。予想だにしない決着が彼女を放心させている要因だろう。

「そんな……ガルディーニ卿が……!」

 ガルディーニは部隊を率いるほど高い実力があった。

 メリアや彼と同じ基地に所属しているガルヴァス士官らも認めているが、プライドが高い故に頭に血が昇ることは幾度もあり、その度に彼女が諌めることもあった。だから彼が負ける姿などあるはずがないと思っていた。

 だが、目の前にあるのは紛れもなく現実であり、彼が冷静さを失っていたとはいえ、いきなり現れた正体不明の存在に圧倒的な実力差を見せつけられて敗れるなど想像しなかった。いや、想像を超えるとは、まさにこの通りだ。

 敵軍を圧倒させるほどの性能を持つディルオスが手も足も出ない。そんな現実を見せつけた謎のシュナイダー"アルティメス"は、ガルヴァス帝国が誇るシュナイダーをはるかに超える性能を持っていたのだ。驚くのも無理もない話だ。

 『RYS‐01 アルティメス・クロウ』——ルーヴェが操縦するこの機体は見た目が奇抜ではあるが、中距離用のライフルやシールド、近接用の太刀など、それとは裏腹にシンプルな武装しか持たない。

 しかし、この戦いを見る限りディルオスとは比較にならないほどの性能があることを証明していた。

 また、この戦いはルーヴェにとって初めてではあるものの、クロウを難なくと使いこなしていたのだ。アドヴェンダーとしての腕も高いことが窺える。

 さらにクロウが持つ漆黒に彩られた太刀――鋼太刀"鴉羽"がシュナイダー戦での常識を覆したのだ。

 鋼太刀"鴉羽"――その形状は、古来から伝えられる日本刀という表現が最も近い。刀身が片刃で造られ、本来銀色に輝くはずが黒色に染められており、また違う輝きを放っていた。

 刃先や刀身に仕掛けがあり、高周波振動という超振動を起こすことで切れ味を格段に上げることができる。それにより鉄を切断することも可能だ。

 メリアが四肢を切断され、バラバラにされたディルオスを見つめる中、その背後にいた一体のディルオスがバズーカを構える。それに気づいたメリアは冷静に静止させようとする。

「! おい!」

 ディルオスはそれを聞かず、クロウに向けて実体弾を発射する。だが、クロウは背中のスラスターを噴射させ、弾頭を避けつつ直進した。避けられた弾頭は目標を見失い、そのままクロウの背後にある建物に当たり、爆発が起きる。

 ルーヴェは太刀をクロウの左腰にある鞘に収めた後、一度右腰にセットしていたゼクトロンライフルの持ち手を右手で手を掛け、再び取り出した。

 そして、銃口をメリア達に向け、右のレバーにあるトリガーを引くと銃口から青白いビームが発射される。閃光はそのままバズーカを肩に担いでいたディルオスへと一直線に向かい、抱えているバズーカを貫く。

 それを自覚したディルオスは撃たれたバズーカを前に捨てると、バズーカは爆散し、ディルオスは身を守るようにシールドを表に向けるように前に出した。

「!」

 メリアはようやくバズーカが破壊されたところを目撃する。あまりにも一瞬の出来事だったので、認識することすらできなかった。

 だが、ルーヴェはそれに構うこともせずにまたビームを放つと、先程から銃口を向けられていたディルオスは右肩を撃ち抜かれ、続けて左肩および両膝にある関節部を貫き、次々と破壊されていく。

 そして、ガルヴァーニと同様にダルマ状にされたディルオスは背中から崩れ、地面に叩きつけられた。

 その反対側にいたディルオスはこれ以上の損害を食い止めるため"ミサイルランチャー"を構えるが、それよりも早くビームがミサイルランチャーを直撃し、爆散する。ディルオスはその爆発の勢いに押されて一歩後退する。

「よくも……!」

 メリアもマシンガンを構えようとするが、目の前にはいつの間にかクロウが銃口を自身に差し向けていることを知る。その鋭い視線から、抵抗すればやられると直感し、その場で凍りつくように動くことすらできなかった。

「あれは一体……!?」

 上空からずっと確認していた偵察機のパイロットも、そのありえない光景には驚きを隠せないでいた。パイロットはコクピットにあるレーダーに顔を向けると今まで映っていたとある反応が消えていたことに気づき、慌ててメリアに通信を繋ぐ。

「メリア卿! テロリストの反応が消えました!」

「何!? やはり、時間稼ぎがコイツの目的か!」

 メリアはクロウに向けて怒りの表情を浮かべる。一方、ルーヴェもレーダーからレジスタンスが乗っていたディルオスがいなくなっていたのを確認していた。

「……よし、目的は達成した。これ以上留まるわけにはいかない」

 目的を達成させ、ここに用はないと感じたルーヴェはレバーを動かし、ライフルを下ろす。

「?」

 メリアはこの行動に対して疑問を抱くと、今度はクロウが背部にあるスラスターを噴射させ、翼を展開して上空へ飛翔する。そして、そのままこの地を後にし、背中を向けてメリアたちの前から去っていった。

「……クッ!」

 クロウが去ったのを見ていたメリアは右腕を振り上げ、右側のモニターに叩きつける。そして、顔を下に向けたまま震えていた。その姿には悔しさがにじみ出ているのが分かり、あたり一面には静寂が襲いかかっていた。

 彼女が今いる場所には、複数のディルオスの残骸がそのまま残っている。それは、まるでカラスにゴミ袋を破られ、散らかされた様であった。その中でメリアが乗るディルオスは取り残されるように微動だにしなかった。



 一方、ガルヴァス軍の包囲網から逃れた片桐は、離ればなれになったレジスタンス達と合流するため、ディルオスを走らせていた。

「ここまで来れば……」

 そのまま廃墟の間を進んでいると通信を求めるアラートが鳴り始める。

「!」

 それに気づいた片桐は通信を開く。通信用のスピーカーから男の声が響いた。

『無事か、片桐!』

「ああ、大丈夫だ! 今どこだ!」 

『そのまま右に曲がってくれ! 一旦、合流しよう!』

「了解!」

 片桐は日下部との通信を終わらせた後、指示通りに進むと、その先には彼が運転していたトラックとディルオスを積ませていたトレーラーが一緒に停まっていた。それを見かけた片桐は、そのまま彼らの近くまで行き、ディルオスから一旦降りて、彼らと合流する。

 ディルオスを載せたトレーラーもあの後、日下部達と合流し、片桐を待っていたようだ。こうして全員が無事であることに片桐は安堵した。

「全員、合流できたようだな」

「まったく、無茶するなよ! せっかくの機体をボロボロにしてきてさ……!」

「悪かった、悪かったから……」 

 日下部は片桐が無事であったことに安堵する中、他のメンバーがボロボロになったディルオスを向けて左腕の親指を立てながら文句を片桐にぶつけた。いかにも正当な理由であり、今後に控えている交渉にも影響を及ぼす懸念があったからである。

 だが片桐は強く抗議し、逆に自身が体験したことを日下部達に伝えた。

「こっちだって、必死だったんだからな。……ただ、アレが来なかったらどうなっていたか……」

 片桐は肩の荷を下ろすように言葉を返したが、途中から顔を横に向けるようになる。

「アレ?」

「……すまない、後で話す。今は脱出する事を考えてくれ。……ま、もうアイツ等は俺たちを追ってくることはないかもしれないけどな……」

「?」

 なぜか視線を逸らす片桐に、日下部は疑問を浮かべる。

 片桐の言う通り、上空にはガルヴァスの偵察機が飛んでいる様子はなく、状況は変わったことを示唆していた。しかし、彼らの目的は達成されたわけではなく、片桐は再びディルオスに、日下部達はトラックに乗り込む。

「念のため、俺が護衛に付く。それでいいな」

「わ……わかった」

 移動する準備が終わると日下部達は再び廃墟の中を突き進んでいった。奇跡にも近い逃走劇だったが、その裏に一匹のカラスが関わっていたことを知るのは、この中でただ一人、片桐春馬しかいなかった。

 東京の都市部がオレンジ色に染まり、夕暮れを迎えていた頃。

 あの戦闘から数時間が経った後のガルヴァス軍の駐屯基地の一角にある格納庫内では、トレーラーが頻繁に行き来しながら走行していた。その場にいる者達は皆、実に忙しそうに手足を動かす。

 それもその筈、トレーラーの後部には先程の戦闘で中破されたディルオスの残骸を載せ、格納庫に運ばれてきていたのだ。

 シュナイダーなどの整備を担当する整備班を務めるガルヴァス人らは、その残骸を見て、普段にはない驚きが頭の中を渦巻いていた。

「見ろよ、これ……」

「完全にやられていますね……」

 先の戦闘で大破され、そのまま格納庫に運ばれたディルオスを調べていた整備班は、この現状を見て、苦悶の表情を浮かべていた。

「フレーム部がメチャクチャだ……。仮に直すとしても、修復できるかどうか……」

「何言ってんだ! この様子じゃ、廃棄するしかないだろ!」

「うわ……フレームが真っ二つに斬られている……。こんなの有り得ないぞ……」

 整備班の一人が、そのディルオスを前にして、左手で頭を掻きながら呟くが、隣にいたもう一人が反論する。整備班は目の前にしているものに対して、幻でも見ているような気分でもあった。

「一体どうすれば、こうなるんでしょうか……」

「…………」

 この質問を聞いていた整備班全員は、表情を渋らせる。当然、それを答える者は誰ひとりもいない。整備班を務めるガルヴァス人達もさすがに、ディルオスがこの状態になるのは想定外であり、手をこまねくしかなかった。


描き続けていくうちに、あの戦闘の後日譚となりました。

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