起動
メカの起動を描きました。なかなか難しいです。
日下部たちレジスタンスを乗せたトラックは、ガルディーニ率いるシュナイダー部隊の追っ手から振り切ろうと走らせていたが、上空から自分たちを追いかけているガルヴァスの偵察機から逃れないでいた。
一方、その偵察機を操縦するパイロットは地上にいるガルディーニに通信を繋ぎ、今の状況を報告していた。
「こちら偵察機、ただいま走行しているトラック、およびトレーラーを追跡中! なお、トレーラーに何かを積んでいる模様!」
「よし、そのまま一定の距離を保ちながら、追跡せよ!」
「イエス サー!」
偵察機のパイロットからの通信を終えたガルディーニはレジスタンスを追い詰めるために廃墟の中を移動しながら、コクピット内のレーダーに映っているレジスタンスの現在の様子をモニターで確認していた。そして今度はメリアと通信を繋げる。
「どうやら東京を捨てて、何処かへ向かっているようだな……」
「どうしますか? ガルディーニ卿」
ガルディーニの後ろを走るメリアは、コクピットの右に映る彼に向けて質問を向ける。
「無論、逃がすつもりはない! 各機、それぞれ散開し、連中を追い詰めろ!」
「イエス サー!」
ガルディーニの返答に答えたメリア達は、レジスタンスをこの手で一網打尽にするべく、別々の方向に分かれ、進んでいった。
ガルディーニはレジスタンスを追い詰めるために廃墟の中を意気揚々と突き進み、メリア達もそれぞれ別方向から追い込もうとディルオスを加速させた。
ガルディーニらが着々とレジスタンスを追い詰める一方、日下部達はトラックとトレーラーに乗ったまま、必死の形相で逃走していた。まさしく命をかけた鬼ごっこである。
「おい、これやべえんじゃねえか? このままじゃ追いつかれちまうぞ!」
「クソっ、もう少しだってのに……!」
追跡から逃れられない状況に片桐は何やら思いつめた表情をとる。その瞳にはなぜか鮮やかな炎が見えた。覚悟を決めた感じにも見える。
「こうなったら……」
片桐の言葉を聞いていた日下部は、彼が今行おうとすることに感づく。
「お前、まさか……!」
「やるしかないだろ……! このままじゃ全滅する、って言っていたのはお前だろ!」
「だが……!」
日下部が片桐を静止させようとする中、隣にいる男が何かに気付くと左の人差し指を前方に向ける。
「! おい、あれ!」
「!」
日下部も男が指を差している方向へ顔を向けると、前方の道路を塞ぐように先回りしていたディルオスがマシンガンを構えていた。銃口が日下部に向けられており、直撃を受けることは確定である。
「――クッ!」
このままではやられると危険を感じた日下部は直線上に左の廃墟を挟む曲がり角を見つける。ハンドルを回し、慌てて銃弾を躱すようにトラックを左方向に進路を向け、そのまま左へ曲がる。さらにその後ろにいたトレーラーも左に曲がり、ガルヴァスの追っ手から吹っ切ろうとする。
先回りしたにも関わらず、その場に取り残されたディルオスもキャタピラを回転させ、日下部達の後を追いかける。
ディルオスはそのままマシンガンを構えてトラックとトレーラーに発砲するのだが、日下部達は慌てながらも見事なハンドル捌きで右から左へと動きながら銃弾を躱しつつ、障害もないガラ空きの道路の中を直進していった。
トラックの荷台にいるレジスタンスのメンバーは、荷台の端に掴みながらも激しく左右に揺さぶられる。一応、悪路を凌ぐためのトラックの下部に取り付けられているサスペンションが働いているのだが、そんな余裕にも見えず、あまり機能していないと考えたほうがいいだろう。
「…………!」
そんな中、片桐が日下部に通信を回し、提案を上げる。
「俺が囮になる! それでお前らがこのまま突き進め!」
「なっ、何を馬鹿げたことを……!」
「俺だって、これを使えないわけじゃないんだ! だが、今使わずしていつ使うんだよ!」
「――ッ!」
片桐は全滅を防ぐために二手に別れるよう、日下部に勧める。日下部はその提案に対し却下しようとしたが無理に押し切られ、歯ぎしりをしながらもハンドルを右に向けてトラックを右に進ませる。片桐を乗せたトレーラーはそのまま直進し、日下部たちとは一旦、二手に分かれた。
一方、トラックを追いかけていたディルオスはレジスタンスが別れた道のりの前で一度停止した。
「メリア卿! テロリストの奴らが二手に別れました!」
「何、二手に別れただと!?」
捜索を行っていたメリアは味方との通信を聞くと眉をひそめた。どうやら想定通りにはいかせてくれないものだと感じ、心の中で舌打ちをしていた。
トラックが別方向へ進んだことを確認した片桐は、壊れかけた廃ビルに向かって指を刺す。
「よし……! このままあの建物の中へ突っ込め!」
トレーラーはそのまま直進し、ビルの中に入っていき、ブレーキをかけて停止する。さらに、トレーラーの左のドアが開き、そこから片桐が降りる。その時運転席の男の声が響き、片桐の足を止めさせる。
「ホントにやるのか!?」
「ああ! コイツを俺が動かして、それでアイツ等を引き付ける! その後、お前はこのまま日下部のところへ合流しろ!」
「ハァ!?」
片桐は男との会話をした後、トレーラーの後ろに積んであるものまで駆け込み、視線を向けた。
「俺だって……!」
片桐はそのまま積んであるものが掛けられているトレーラーカバーの下を潜っていく。
「クソッ……!」
それを見た男は舌打ちをするように急いで左のドアを閉め、エンジンを再び点火させる。
一方、片桐はカバーの中にある、人間の上体が納まる程の大きさを持ったシートに座り、正面の機器にあるスイッチを押していくとモニターの画面が開かれ、独特の駆動音と共に明かりが点いていく。ただ、その駆動音は何故か聞き覚えがあった。
今度は被せていたカバーが盛り上がり、留め具として使用していた縄がそれに耐え切れず、ブチブチと切られていく。さらにカバーの中から巨大な右足のようなものが出てきて地面につき、カバーの上半分が盛り上がるとカバーが落ちていった。
最後にカバーのすべてが地面につくと、カバーを掛けられ、眠りについていた"巨人"が仮の主の思いに応えんと起き上がろうとした。
「いくぞ……!」
そして今、巨人の上体が起き上がると同時に、頭部にある一つ目を赤く光らせた。それは反撃の狼煙を上げるための目覚めであった。
ガルディーニは先程トレーラーを追跡していたディルオスと合流し、トレーラーが向かっていった廃ビルに到着した。
「ここの中に入っていったのは確かか?」
「はい、間違いありません!」
「フン、わざわざ逃げ場のないところに入り込むとは。……まったく、袋のネズミとはこのことだな」
ビルの中は何もなく広い空間が広がっているだけであり、ただ黒い影に覆われていた。ガルディーニたちがいる、大きな穴が空いたところから太陽の光が差し込むが、その奥までは照らされることはなかった。
「よし、中に入るぞ」
「イエス サー!」
罠の可能性を捨てることはガルディーニの頭になかった。ただ、レジスタンスにそこまでの余裕はないと考えている。
実際そこも読み切られているが、日下部たちが用意していたのはそんな代物ではなく別のものである。
だが、たとえ罠だとしても踏み込めなければ何も変わらず、ガルディーニは隣にいるディルオスと共に周囲を警戒しながらビルの中に足を踏み入れた。
その時。
「だぁああ!」
雄叫びと共に暗闇の中から、いきなり何かが飛び出し、先んじて現れた拳のようなものがガルヴァーニの隣のディルオスの顔面に直撃した。不意を突かれたディルオスは殴られた勢いのまま後ろにひきずられるように倒れる。
拳と共に現れたそれはガルディーニが乗るディルオスを横切ったままビルの外を出て、姿を現す。
「!」
一体、何が起きたのかとガルディーニは肩越しに左から振り向く。その視線の前にいた"巨人"は、彼にとって馴染み深いものであった。それは認めたくもない現実に直面したのだ。
ガルディーニやメリアを除いた五機のディルオスは、レジスタンスが乗るトラックを追うために廃墟の中を突き進んでいた。その内の一機のコクピット内では周囲を確認できるレーダーを利用し、トラックを探していたのだ。
「ガルヴァーニ卿の連絡では、二手に別れたと聞いている。一方は彼らに任せて、我々はレジスタンスのネズミ共がいる方を探すぞ!」
『『『『イエス サー!』』』』
彼らの行動の方針を聞いたアドヴェンダーたちは強い返事をする。そしてレーダーにトラックを捉えようと突き進んでいたその時、彼らはその足取りを失う事になる。
なぜなら……
ドゥキューーン!
彼らにとってイレギュラーな存在によって阻まれるからだ。
高い音と共に青白い閃光が五機いる中で一番後ろにいたディルオスの左ヒザを後ろから貫かれる。一拍おいて左ヒザが爆発し、左足を失ったディルオスはバランスを崩したまま仰向けに、しかも引きずられる形で倒れる。
『どうした!?』
『な、なんかいきなり……』
前にいた四機は驚いて倒れた一機をよく見ると左足がちぎれるように失っていたのだ。それを見た時に四機は一斉に「!」というマークが頭の中を埋め、周囲を見渡す。
「どこから……!?」
アドヴェンダーの一人がそう呟くとまた閃光が空から降ってきた。閃光はそのままそのアドヴェンダーの左にいたディルオスの頭部を破壊した。
「!!」
いきなり頭部が破壊されたことに驚くが、理由はそれだけではなかった。誰も確認することもなく気づかれずに攻撃されたことだ。惚けていたでは済まされないが、アドヴァンダーは集中していたままだ。その上での攻撃はまさに死角からの攻撃であった。
さらに今度は右から、そしてマシンガンを持っていた右腕を破壊されていく。それは天から裁きの槍を受けたようにも見えた。抗うことすらできず、ただ甘んじて受けるように罪深き巨人達はその槍に貫かれていった。
裁きという恐怖に怯える中、その攻撃が上からだと判断し、上を向くとディルオスの頭部にある赤い目は驚くように見開いた。
『な、なんだ、あれは……!?』
その瞬間、そのディルオスの目は暗い闇に染まる。そしてそれを確認する者は誰もいなくなった。
ただ、ディルオスの目には一瞬だけ人のようなものがくっきりと浮かんでいたのだが、それを確かめることもできなかった。なぜなら、すぐに消えたからだ。地上がその異変に気づくことはもう少し後になる。
いかがでしたか? バトルを描くと思ったら一気にメカ描写が濃くなりましたが、十分に楽しんでくれたらいいと思います。