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レイヴンイエーガーズ 漆黒の反逆者  作者: 北畑 一矢
第2章 動き出す者達
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策略

新キャラ出ます

 レギルが向かうEU連合の首都に、大きく建てられたものがあった。

 ユーロシスと呼ばれる建物を中心に格納庫がいくつか周囲に建造されている。さらには一部の敷地には見慣れたものがあり、周囲を警戒するように目を光らせていた。その正体はもちろん、ガルヴァス帝国が造り出したシュナイダー、ディルオスだ。

 このユーロシスが建てられているということは、つまりEU連合は既にガルヴァス帝国の手中にあるわけである。

 だが、首都を奪還せんとEU連合の軍隊が攻め入る日々が続いており、ユーロシスに派遣されたガルヴァス軍はハエを叩くようにEU軍の相手をしていた。

 EU軍を一網打尽にしようとしたその時に、二匹のカラスが飛来してからは戦況に影響が及び始めたのだ。レイヴンイエーガーズの襲来である。

 それ以来、ガルヴァス軍は彼らに手も足も出ないまま支配権が縮小するようになり、EU軍の反抗が強くなり始めたことでガルヴァス軍は後手に入る羽目となってしまったのだ。

 そこで士気を上げようと演習を実行することとなったのだが……。


「そろそろ、彼が来る頃かな……」

 外の風景を映す窓の内側から一人の男が腕を背中に回したまま空に視線を送り、うわごとのように呟く。

 広く仕切られた空間にて窓の前に立っている男の後ろにはイスと机があり、どちらも人一人が抱えられるような大きさではない。かといって豪華な装飾が施されているものではなく、地位の高い者が使うにふさわしいものである。それが置かれてあるということは、ここは特別な場所であることは間違いない。

 男の頭にある黄金に輝く髪は高貴というにふさわしいものであり、背中まで垂れ流している後ろ髪を白の髪留めで尻尾のように結び付けている。それに加え、軍服とは異なる装飾を持つ服を着ているあたり、貴族とはまた違った雰囲気を出していた。

 机と向かい合う二枚の扉の隣には、窓辺にいる男よりも若い青年が立っていた。男と同じ空間にいることは、彼は男に仕える者であることが窺える。

 水色の髪とそれと同じ色を持つ服をまとうアイオス・ハンプトンは、その意味の通りに男の部下であった。

「はい。もうじきこちらに来るとのことです。……しかし、急にこちらに来るというのはいささか乱暴だったのでは?」

「わかってはいるさ。だが、ルヴィスやヴェルジュのことを鑑みれば、彼らもこちらにやってくることも難しくないさ」

「彼ら?」

 彼らがよく知る客がこの土地に来ることだが、急に決まったことを相手に押し付ける形となっているためかアイオスは未だに疑問に思っていた。

 ところが、自分が知る人物が経験したことを頭に入れていた男は一種の期待を寄せたまま、ある者を待ち焦がれている。つまり、その客が自分たちが呼び寄せる相手とは違っているということだ。

 その食い違いにアイオスは疑念を表に出すように首をかしげる。

「ここに呼んだのは彼だけではない、ということだ」

「…………?」

 男はアイオスがいる方向に顔を向けながら、客人を呼び寄せたと語る。その意味深な言葉に青年もさっぱりわからないままだった。

 そうしているうちに彼らがいる場所に一人の客人がやって来た。その人物は彼らの味方であり、同時に男が呼び寄せた人物であった。

 その者を無条件で呼び寄せることができるのは、より地位を、高貴な血を持つ一族だけである。

 男の正体こそ、ラドルス・ライドゥル・ガルヴァス——ガルヴァス帝国第一皇子である。



「わざわざここに呼び寄せてすまない。ぜひ君に見せたいものがあってね……」

「……あの二人に関することじゃないんですか、どうせそろそろというところでしょうし」

「話が早い。それなら説明は不要だね」

 周りが灰色に包まれた空間にカツカツと歩みを進めるのは、執務室を離れたラドルスとアイオス、そしてこの地にやってきた客人こと、レギル・アルヴォイドであった。

 彼がこの地に足を踏み入れた時にラドルスらが迎えにきたことでレギルは自身の予想に確証が持てた。ラドルスもそれに気づきながらもあえて口を出さなかった。

 しばらく足を進んで広い空間に出ると目の先に自分達ガルヴァス帝国が使役する多数の巨人達が一向に立ち並んでいた。ここに務める整備士達が手足を動かし、シュナイダーのメンテナンスを行っている。

「君が知りたいものはこの先だよ」

 ラドルスは後ろについて来ているレギルを促し、さらに進み出す。彼が知りたい自分の国の新型機がここにあるからだ。歩みを進めているとレギルは目の先にいる二人の人物を目にする。

「!」

「待たせたね」

 新型機から少し離れた所の前に足を止めたラドルスが新型機を一足先に目撃している二人に声をかけると背中を見せていた二人は体ごと後ろに振り向ける。

「殿下……それにレギル!」

「…………」

 背の高い青年であるアレスタン・トゥーガルアと、逆に背の低い少女であるエリス・フェールゼン。この二人こそ、今ラドルスに仕える皇帝騎士――すなわちレギルと同様の地位を獲得した騎士なのであった。

 二人が着ているのはレギルと同じ白の制服である。これは特別な地位、すなわちエリートであることを証明させていることであり、一般の兵士でもうかつに近寄れない存在でもあるのだ。

 さらに専用のシュナイダーが与えられることを義務付けられており、本国でも皇帝騎士専用のシュナイダーを今でも開発されているそうだ。

 皇帝騎士に認められるのは、騎士としての技量、多大な戦果を挙げたことも含まれており、ヴェルラ皇帝から直々に信頼を勝ち取ることが条件とされている。レギルを含めた三人はそれが認められたというわけである。それだけ誇らしいものなのだ。

 彼らが生まれた家も元々、帝国を守り続けてきた騎士の名門であり、貴族としても一流でもあるのだ。皇帝騎士に選ばれることは彼らにとってさも当然のことだろう。

 ちなみにアレスタンはレギルと同い年なのだが、彼より背が高いため見た目だけでレギルの兄に思われてもおかしくない。さらにエリスは、高校生の年齢なのに背が低いためか年下に見られてしまうことが多い。おかげで子供扱いされてしまうことも容易に想像できてしまう。

「いやー、よく来てくれたな、レギル。こんな遠くにまでよ。見てくれよ、これが俺のシュナイダー……ワイバロンだ!」

「?」

 レギルを目にしたアレスタンは先程まで自分が見ていた新型のシュナイダーの姿を見るように促す。

 レギルは徐々に視線を上にしていくとそこには漆黒に塗りつぶされた騎士の顔があった。

「……コイツは……!」

「これがアレスタン・トゥーガルアの機体……その名もワイバロンだ」

 ラドルスが名乗った機体こそ、ガルヴァス帝国が開発した新型機である。

 背中から伸びた一対の翼に、腰に掛けられた一対の剣を携えるその姿は黒騎士に相応しく、赤く光らせる二つの瞳もあってなかなか威圧感を感じさせる程だ。

 最初はその姿に圧倒されかけたものの、ある違和感を感じたレギルはラドルスにその疑問をかける。

「ラドルス殿下、この機体ってもしかして……」

「そう、君が乗るヴィルギルトのデータを反映させた機体でね……親戚というべきかな。もちろん、性能は折り紙付きだよ」

「これで、お前と一緒に戦えるってことだよ。どれだけ待ち望んだことか……」

「そうですか。……!?」

 ワイバロンのことを聞いて納得しかけたレギルはワイバロンの隣にあるものを見かける。視線を追ったその先には、また見たことがないシュナイダーがそこにあった。レギルは驚愕するがこれも本国が開発された新型機であることは間違いないだろう。

「まさか、あれも……!?」

 背中から伸びる二門の大砲と薄紅色の大柄な鎧をまとった外観が目に付くシュナイダーはワイバロンとは対照的に、よりその大きさを印象付けるには十分だ。ゼルディンに似てなくはないが異なるのはやはり二門の砲塔と頭部にある二つの瞳である。

「……ディノハウンド。私の機体」

「! エリスの……!?」

 そのシュナイダーに乗るのがエリスであったことにレギルは違う意味で度肝を抜かれてしまう。大柄な機体にその華奢きゃしゃな身体で動かすなど普通であり得ないのが見解である。

 こう見えてもエリスは皇帝騎士の地位を得ているわけで専用のシュナイダーを与えられるのが普通だ。しかし、このような巨躯を持つ騎士を与えられるのはどのような意図があるのかは誰にも理解できないようだ。

「この機体が与えられる以上、役目は必ず果たす……」

「その意気だ……と言いたいけれど、もう少し表情を変えてくれよ。反応が困るからさ……」

 エリスがディノハウンドを見て、その決意を表すがどうも表情が読めないらしくアレスタンもどう話しかければよいか困っていた。

 レギルも彼女が表情を変えたことなど一つも見たことがなく同様に対応も難しかったようだ。この扱いに関しては二人も手を焼いていたほどだ。

 三人が輪を作って言葉を交わす中、ラドルスは沈黙していた口を開いた。

「……何はともあれ、これで彼らと対抗できる手立ては整えることはできたということだ。いつでも動けるように準備してくれたまえ」

「「「!!」」」

 彼の口から開いた衝撃発言に三人はすぐに驚いた表情でラドルスに向ける。その言葉に驚きを隠せなかったからである。真っ先に口を出したのはレギルであった。

「ど、どういうことですか! まさか、この事と何か関係が……」

「今は、ゆっくり休めということだ。それ以上の詮索は必要ない」

 だが、それをアイオスに阻まれる。アレスタンも言い募ろうとしたが、言葉を飲み込むしかなかった。

 そして、ラドルスはアイオスと共に自分の持ち場に戻っていった。

 残されたレギル達はそのまま言葉を交わすことになった。これから起きることについてだ。

「お前、何て言われてるんだ? 新型機の護衛ってことになってるんだろ?」

「まあね。でもその新型機はここにある以上、危険は少ないはずだけど……」

「……確かこの後、演習があるって予定が……。まさかだけど……」

「ちょっと待て! それ俺達も加わるってことになっているぞ」

 アレスタンが軍の演習について疑問を指摘する。演習なら皇帝騎士たる自分達が加わることなど少なくないのだが、わざわざ演習のためだけに護衛を連れてくることは何かあることは明白である。

 ラドルスが意図的に士気を上げようとしているのはわかるのだが、皇帝騎士を三人も演習に参加させることが理解できなかった。

「一体、どういうことなんだ。これだけでもまだ伝えないなんて」

「…………?」

 アレスタンとエリスもその意図を見出そうと頭の中をひねり出す。しかし、ただ一人その意図に気づいていた人物が口を開いた。

「これだけのことを彼らが気づくわけがないと思うのだが……」

「お前、何を言ってんだ? 俺たちが言ってんのはそういうわけじゃなくて……」

「……レイヴンイエーガーズのこと?」

「え?」

 エリスがレギルの言葉の裏に隠されていることを言い出す。それを聞いたアレスタンはパニックに陥ったのか素っ頓狂な声を出してしまった。

「これだけの規模で演習を行うことに俺たちが加わることは、明らかに奴らへの挑発であることは間違いないだろう。俺たちがただで終わらないというメッセージをつけてな……」

「「——ッ!!」」

 アレスタン達もようやくその意味に辿り着くことができた。単純なエサ巻きなのだと。

「確か……ヴェルジュ殿下も同じ手を使って、レイヴンイエーガーズをおびき寄せたって聞いているけど、食いついてくるのか分からないのだが……」

「食いついてくるに決まってんだろ……あいつらが俺らを無視することはしないしな」

「だったら、今度こそカラスは撃退しないとね。こうもうるさいのが飛び回っていると……」

「ああ。迷惑極まりないっての……」

 彼らに仕える皇子殿下の策略に冷や汗をかきながらも三人は決意を新たにカラス達の迎撃に専念する。そして、その時まで牙を研ぎ続けた。


 レギル達三人がいる格納庫から離れたラドルスとアイオスはユーロシスの中を歩いていた。

「……そろそろ、彼らも気づくころかな」

「しかし、なかなか恐ろしいことを考えますね、殿下。彼らをエサに使うなど……」

「エサは失礼だよ、アイオス。三人を集めた意味が悪くなるじゃないか」

「し、失礼いたしました」

 レギル達に対して無礼があったことをラドルスに詫びるアイオス。

 人を道具として利用するようなものだが、ラドルスにとっては信頼があってのものである。ただでさえ相手は普通ではないため、相手にできるのは同じく普通ではないものが望ましいのだ。

 他国どころかたった一つの組織にかなりの技術差が生じているからこそ、自身のすべてを賭けてでも負けるわけにはいかないのである。それがガルヴァス帝国の、強者としてのプライドだ。


(彼らが暴れていることは、私にとっても計画通り……。より混沌になりつつあるということ……フフフッ)

 ところが、ガルヴァス帝国のプライドを賭けた戦いの中、裏で怪しい笑みを浮かべる者がいた。その笑みは悪魔のように三日月の形をし、マリオネットのごとく糸を垂らした人形を操り、劇を作り出そうとしている笑みだ。

 混沌とした世界をさらに歪ませる者は、悪魔と呼ぶにふさわしいその意識を視認することすら叶わない暗闇に潜ませたまま、その場を過ごしたのであった。


新キャラと新型のロボットを出したわけですが、次の話ぐらいに活躍します。

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