戦場への飛翔
少し書き殴りのような内容となっています。
青と白が混ざった空。
青と黒が混ざった海。
そして、大きく広がる海の上にポツリと浮かぶ小さな島。
それ以外、海の上に浮かび上がるものは何一つなく、ただ島だけが取り残されていた。
島を形成する大地は、地面に咲く花のごとく島半分が木々で囲まれた緑に覆われており、半分が白い砂浜となっている。さらにその砂浜に青い波が飲み込むように押し寄せ、力がなくなると波と化していた水は傾斜に逆らうことなく海へと戻っていく。そして、これを海から流れる自然の音と共に繰り返した。
しかし、その島は誰一人もいなかった。この海のど真ん中で暮らす人などいないのだが、生い茂る緑の中に明らかに自然物とは思えない大きな物体が隠れていた。
「ま~た、出動か……。ホント、人使いが荒いって……」
人がいないはずの島でぼやいていたのは、アルティメス・トワイライトのアドヴェンダーこと、リンド・トゥーガルアであった。そのリンドは愚痴のようなものをかましながらその辺に転がっていた小石を拾い、文字通り投げやりに林の中へ投げこんだ。
「今回の任務は四人全員での行動だそうだが、一筋縄にはいかないようだな……」
「なんでそんなに冷静なの? ねえ、聞いてる!?」
隣で地面に座っていたアレン・パプリックは聞く耳を持たないのか、手のひら大のパッドに表示されたマップを見ながら今回の任務について確認をしていた。
自身の呟きを無視されたリンドは耳を傾けてほしいとアレンに懇願する。よほど、ストレスが溜まっているようだ。だが、アレンはそれを無視してパッドを見つめる。
事実、ルーヴェたち四人全員が世界中を駆け回るわけでまさに人気沸騰中のアイドルのごとく行ったり来たりの状態である。仕事を四人で分担しているものの、ハードスケジュールでこなすことには変わりなく疲れが体に来ていた。軍人の仕事というのはこういうものだろう。
一方、アレンは何も言わずに任務を遂行している。疲れも見せないあたり、我慢強いのがわかる。ただ、無口な印象のためか関係ないと決めつけているだけであるのかと思いたくなる。
「…………」
アレンは無表情のままパッドを見つめていた。これは任務の達成率を上げるためのイメージトレーニングであり、頭の中でシミュレーションを行っていた。彼はいつもこうして任務の確認を何度も調整していたのだ。
これもあってアレンが任務を確実に成功に導いていたことにリンドは納得するしかなかった。戦場の指揮も彼に一任されているのも要因となっている。
パッドを凝視していたアレンにリンドが近づくと、いきなりアレンの頬をリンドがつまんできた。
「いぃっ!?」
すぐに頬から手が離れたが、その痛みにアレンは自身の手で押さえる。涙が出てきそうなものだが、テンプレのように意外と出てこなかった。
「いきなり何をするんだ!?」
「何って……話を聞いてほしかったのに、聞こうとしないから……」
頬をつままれるという不意打ちに対して激怒するアレンに、リンドは構ってくれない子供のように口を尖らせる。彼が愚痴を聞かなかったことが頭に来ていたのだ。
「気持ちはわからんでもない。だが、今動けるのは俺ら四人しかいないんだ。あいつらが来るまで辛抱しろ!」
「わかってるって……だけど、相手はとんでもないものを次々と投入していることには変わりはないし、今回だって……」
「――――ッ!」
リンドの反論はごもっともだ。散々苦汁を舐めさせられたガルヴァスはアルティメスに対抗するための新兵器を開発しており、各国の戦場に送り出していた。今日本にいるヴィルギルトやアジア連邦のヴァルトルーパーもその例だ。
兵器の開発に充実しているガルヴァス帝国はこれくらい朝メシ前であり、今でも新たなシュナイダーの開発を試みているようだ。
それならギャリアウイルスに対抗できるワクチンの開発に手を回せばよいのだが、培養させるのに手がかかるらしく、大元の解決が遅れているのだ。
というのが表向きの理由であり、この混沌とした状況を続かせているのだ。さらにその混沌を引っ掻き回しているレイヴンイエーガーズは彼らにとって目の上のタンコブであり、民衆を不安がらせている。
だからこそレイヴンイエーガーズを叩くことに躍起になっているのだ。
「実際のところ予定通りではあるけれど、こちらも次の一手を打ってもいいだけどね……。まあ、それはハルディが決めることだし」
「ああ、プロフェッサーも準備は進めている。今度は確か……アジア連邦に向かうと聞いているようだが」
「そのための商品は売りつけているだろうけど……大丈夫なのかな?」
「できるだけガルヴァスに近い技術として売りつけるつもりだろうし……アレが流出してしまったら、大問題につながるからな。あくまで対等にしないと……」
ガルヴァスが新型機を開発しているようにレイヴンイエーガーズも裏で何やら動きを見せていた。アルティメスが次々とガルヴァスの勢力をつぶしていくと同時に、彼らの《同胞》が別の場所にて行動を起こしていたようである。その一つが日本軍との取引だ。
あれだけの性能を見せつけながらもなお勢力を伸ばそうとしているのは、彼らがその先を見据えてのことである。その先とは当然、ガルヴァス帝国との衝突だ。
そもそもたった四機のアルティメスだけで大国と戦うことなど自殺行為であることはわかり切っていたので、戦力を増やすより相手の外堀を攻めるのが定石である。彼らもそこまで頭が悪いわけではないのだ。
ガルヴァス帝国は敵が多い。その事実を利用することで敵の包囲を作り上げていくわけである。
ここまで慎重に事を進めるのはやはり、彼らがリスクを抱えていることは自明であった。バレたくないというよりも知られてはいけないことの方が重要らしい。もしそうなれば、また新たな戦争が発展しかねない事態になるのだと重々承知していた。
そもそも彼らの目的は、国に勝つことではなく腐敗を喰らうこと……すなわちギャリアウイルスの駆除であった。それは世界を救うという目的である。
「ま、物事は順序良くってね……っと、来た来た」
何かを感じたのか、空を見上げたリンドの目にはあるものが空に舞っていた。
その正体はもちろん、彼らの《同胞》である黒と赤の色を持った二匹のカラス達だ。そのカラス達は自分たちがいる島に降りようと羽を広げ始める。
大地に足をつけたカラス達――リンド達との合流であった。
「さて、任務に関してはみんな頭に入れたようね。そろそろ行きましょ」
「……了解」
「いつものようにってか……」
「やることはただ一つだ……」
リンドたちと合流した龍堂 茜はハルディから与えられた任務について確認をし、出動を促す。それを耳に入れたルーヴェたちも応じる。
自身の主を迎えたアルティメスは促されるままに立ち上がり、出撃の態勢を整えた。そして、アルティメスの背中にあるスラスターから青白い光が噴射し始める。次に膝を曲げつつ前屈みになると噴射が強くなり、一機ずつ大空へ飛び上がった。噴射による風が島から生える木々を大きく揺らす。
翼を広げた四機のアルティメスは任務先である土地へ一斉に羽ばたいたのであった。
「今度はEUに行けって、人使いが荒い……!」
リンドが同胞と合流を果たしていたその頃、彼と同じ苦労を抱いていた人物がもう一人いた。
そうボヤいていたのは、ガルヴァス帝国の皇帝騎士であるレギル・アルヴォイドだ。どうやら任務を課せられたらしく、その任務を果たそうと自身の愛機であるヴィルギルトのコクピットの中にいた。
その彼は今、なぜか雲が流れる空の中を鳥のごとく羽ばたき、移動していたのだ。空には彼以外、羽ばたいているものはおらず、ただ一人だけ空を切り裂くように直進する。その姿はまさしくどの鳥よりも天高く羽ばたく鷹にふさわしい。
そもそもヴィルギルトはガルヴァス帝国の中で唯一、単独飛行ができるシュナイダーだ。燃料であるギャリアニウムさえあれば海を越えることなど容易いものであり、自由に空を駆けることができるのだ。
飛行技術が確立された今、大質量の舟を飛ばすことも可能となり、物資の運搬も確実なものになる。その上、空には遮るものはなく、悠々と国を渡ることができるのである。
今までは飛行機や戦闘機といった鳥に似せたものしか大空を飛び上がることができなかったのだが、今や人の形に似せた巨人であるシュナイダーを空に上げたことで可能性を見出だすこととなったのだった。
空を制する者は世界を制すると言っても過言ではない。なぜなら空の下から見た景色がそう思わせるからだ。
長い時を経て翼を得た鷹が空を羽ばたこうとしていた時に、既に空を自由に飛び上がる黒色の鳥がいたのだ。それがカラス―――レイヴンイエーガーズのアルティメスである。
アルティメスが最初に現れた時、天から降りてきたのかと帝国のアドヴェンダーは錯覚した。飛行技術は帝国でも知られるものは少ないため先を越されてしまったのだと思い込むのも無理はなかった。
古来から不吉を呼ぶカラスが自分達より先に空を飛ぶなど帝国は認めるわけにはいかず、その羽をもぎ取ろうとした。だが、撃ち落とすどころか反撃までされる始末であり、何度も手を焼かされる結果になってしまったからである。
技術においても数歩先に行くレイヴンイエーガーズの力にことごとく配線を繰り返すしかなかったのだ。
そこで帝国は新たなシュナイダーの開発を着手することにし、徹底抗戦を唱えることとなった。最初に単独飛行を行えるヴィルギルトをぶつけてみたものの、機体は墜とされることはなかったのだが、奴らに手傷を負わせることができなかった。
ましてや向こうは四機も空を自由に動けるためヴィルギルト一機では荷が重く、地上からの援護も難しいからだ。ならば新たな単独飛行の技術を加えたシュナイダーの開発に尽力することにしたのだ。
また、お蔵入りとなっていたシュナイダーも表に出すことにし、帝国はその力を徐々に発揮させ始めた。
長い時を重ねてようやく新型機の開発が成功したそうだ。
その新型のシュナイダーが完成した今、本国から輸送されることとなり、ガルヴァス皇族が治めるEU連合に届けられることとなったのだ。だが、その輸送の合間か輸送先にテロリストが襲撃される可能性が否定できないため護衛を派遣させる手段をとることにしたのだ。
そのためレギルは愛機であるヴィルギルトと共にその新型機の護衛を任され、遠く離れた土地へ翼をはためかせていたのである。東京から海を越えての横断は時間がかかることは明白だ。
ちなみに滑空による長距離移動に関しては何ら問題はなかった。でなければ飛行技術を実現させた意味がない。ギャリアニウムの消費も最初は馬鹿になっていたが、現在は度重なる調整のおかげでスムーズに行えるようになったのだ。
これに応じて本国も飛行技術を拡張させるために試行錯誤を繰り返しているのが現状である。
そのレギルがなぜEU連合に向かうことになったのは、本国が開発した新型機の護衛に呼ばれたからだ。
そこでテストも行うことだが、それならその場にある戦力だけでも事足りるはずなのに自分が呼ばれる理由がわからないのである。
彼が仕える皇族であるルヴィスから直接聞かれたのだが、日本を離れる必要があるのかと疑問に思っていた。その事について直接本人に問いただした。
「理由がわかりません!お答えください!」
「私も義兄上に伝えたさ。そしたら、お前に新型機の護衛を任せられる者として指名してきたのだ。何を考えているのやら……」
ルヴィスでも意図が見えないその指示に今も困惑しながらEUへ飛び立ったというのが主な理由だった。さすがに従うかどうか決めかねるものだが相手が相手なだけに受諾する他なかった。なぜならその相手がレギルが仕える一族だからである。
不服そうな顔を見せながらもレギルは文句一つすら言わない。その立派な様子は皇帝騎士と呼ばれるに限る。
(……でも、確かあそこにはあの二人がいるはずだけど……。……待てよ、確かまだ自分のシュナイダーを手にしていなかったような……まさか!)
レギルは操縦したまま思考を巡らせているとあることに気づく。それは彼自身が思い当たることだ。そして、今回のことに関わっていることにつながった。
その二人とはレギルの知り合いであり、同じ騎士の位を持つ人物である。腕も確かであることからシュナイダーを与えられてもおかしくないのだが、未だに所持されることはないのが現状である。
だが、もし与えられることになるならば、直接呼び出すことをしないはずなのだ。あえてそうすることはすなわち、ろくでもないことを考えていることである。
「何てことを考えるんだよ……"あの方"は!」
レギルの頭に真っ先に浮かんだ人物——すなわち、ルヴィスの義兄にあたるその人物はこれからのことを見据えて、自分を呼び出したに違いないと結論に至る。その考えに冷や汗をかきながらレギルは目的地まで滑空を続けた。
次の話には新キャラを出そうと思います。




