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レイヴンイエーガーズ 漆黒の反逆者  作者: 北畑 一矢
第2章 動き出す者達
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祖国からの旅立ち

ロボット作品にとって重要でもある新型機のテストの話をすることになりました。

 街の一画に位置する大きな敷地の上に建てられた駅。

 その中にある広い空間で造られたホームを、一人の少女がゆったりと歩みを進めていた。

 その歩みにはどこか気品の感じるところがあり、誰かがいるとしたら一目見ただけでも止まってしまうだろう。さらに銀色のドレスと長い銀髪の美しさもあって、視線が釘付けになるかもしれない。魅了という言葉が一番あてはまる。

 ところが彼女の周囲には誰もいなかった。いや、いるはずがなかったのだ。

 なぜならその少女は、他の人間とは身分が異なり、誰もが近づくことを許される存在ではないからだ。人込みを避けるため最初から人を出払っていたのだ。今ここにいるのは彼女と後ろについている一人の人物だけである。

 少女の後ろにいる人物は彼女の従者と思われ、主の数歩離れて一定の距離を保ちながら逃さないように後をついて来ていた。あらかじめ用意されたその道を少女たちはゆっくりと進む。

 阻むものもなく歩みを進める少女の目の先には、一人の男と一台の列車が彼女を迎えるように停留場に停まっていた。列車の方は、いつでも彼女を運べるように音を立てながら待ち焦がれていたようだ。男のところに少女は近づく。

「お待ちしておりました、ルヴィアーナ・カルディット・ガルヴァス皇女殿下。列車はいつでも発進できるようにしております。……こちらに」

「わかりました。ゆっくりと列車の旅を満喫するとしましょう」

 男は胸に手を当てながらお辞儀をした後、左手で彼女を列車に乗るように促す。

 ルヴィアーナも礼を受け止めて列車に乗り込もうと歩み始めた。

 そう、彼女はガルヴァス帝国の第三皇女殿下。すなわち、皇帝の娘だ。誰もが羨む美貌と輝かしいまでの銀髪、蒼玉の瞳はまさしく人を導く皇族に相応しい。まるで絵本やおとぎ話に出てくるお姫様のようだ。

 しかし、その顔つきはどこか誰かを思い起こすものだった。その誰かとは、黒と銀が混ざった髪と、紅と蒼の瞳を持つ一人の少年……彼女にとって立ちはだかる存在である。

 その彼女がここにいるのはある密命を受けていたからだ。もちろんその密命を出したのは義姉であるヴェルジュであり、そのためにルヴィアーナは本国を離れることになったのだ。そして今、準備を終え、異国の地への出発を迎えていたのである。

 先にルヴィアーナの騎士であるノーティス・カルディットが列車に乗り、彼女が後に続く。そして、彼女たちが通った列車のドアが閉められた。

 彼女たちが向かうのはガルヴァス皇族を含めた要人の移動を目的として用意された空間であり、そこには駅のホームと同様に誰一人もいない。貸し切り状態で使わせてくれるあたり、それだけ優遇されていることなのだ。

 その列車の中にある座席の一つにルヴィアーナたちが座り込む。右側の窓からは外の風景が見え、動いていないためか線路が見えていた。

 するとノーティスがルヴィアーナに、ある確認をしようと声をかけてきた。始まろうとしているこの旅の最後の確認についてである。

「初めて本国から離れることになりますがどうですか、殿下?」

「本音で言うと……緊張しております。何しろ、外に出歩くことすらなかったですから」

「そうでしたね……。ですが私が殿下をお守りしますのでご心配なさらず」

「よろしくね、ノーティス」

 そもそも皇族や貴族は身分の高さもあって気軽に外に出歩くことなど難しいものである。もし外へ行く時は最低限の護衛を付けたり、要人を護送する際に使用される高級車に乗ることや列車で移動することが多い。単純に一般人がむやみに近づかせないためだ。ルヴィアーナが駅に向かう時も、はやはやと人を出払っているのが証拠である。

 海を越えた異国の地に向かうとするならば、空を行く航空手段や海の上を行く乗船手段をとることもある。だがあくまで列車で向かうとするならば、これは明らかに国外や本国でも秘匿されるものだからだ。一応、テロリストから目を眩ませるという体裁も持っているわけであるが。

 だが、彼女の場合は外に出ることはめったになかった。それどころか彼女は外に出るのが実は初めてなのだ。それは彼女が今まで外の世界を知らなかったからである。

 他国に向かうというよりも初めて外に出るということもあって、ルヴィアーナは緊張していた。その緊張をほぐそうとノーティスは彼女を守り抜くと改めて伝えたのだ。

 そして、彼女たちを乗せた列車は腹の奥から雄たけびを上げるように発進の合図を出し、ゆっくりと動き始めた。列車は連結させている車両を引きながらレールの上を力強く走り出したのである。

 残ったのは皇女の迎えに出ていた男だけであった。


 走り出した鉄の塊は目的地まで停まることはない。さすがに海を越えることはないが、レールの上に列車を阻むものもない。それを確信したのか列車は休むことなく走り続けた。

 天高く昇る太陽の下、自分たちを乗せた列車が向かう先にはどのようなものが待っているのかとルヴィアーナは期待を膨らませる。だがそれは淡い期待とは異なる、彼女にとって残酷な真実と向き合うこととなる旅であり、後に思いがけない人物と"再会"することになるのであった。

 その時まではおそらく、何度かすれ違いが起きている頃だろう……。



 時を同じくして東京。

 その一画に建てられた軍事基地にある格納庫内ではあることが行われていた。整備士たちはそれに取り掛かる最中であり、現在も忙しそうに手足を動かしていた。

 そこにガルディーニとメリアの二人が確認しようと足を踏み入れ、目の前にある光景に対してガルディーニは整備班の一人に声をかける。

「何をしているんだ?」

「今、新型機の開発に取り掛かろうとしている所です!」

「何だと!?」

 帰ってきた言葉は彼らにとって予想外のものだった。目を疑うような言葉に二人はお互いの顔を見合わせる。

 よく見ると整備士たちはディルオスの周りに集まっていた。さらに格納庫の奥から彼らが運んでいるのは見たこともない金属であり、新型機の製造に利用されると思われる。だが、どんな設計で行われるかはわからないため、これだけでもただ事ではないと二人はすぐに理解した。

「一体、誰がこんなことを……」

「もちろん、私です」

 後ろから声をかけられたことにガルディーニ達は条件反射のごとく顔を振り向ける。その目先にいたのは、クイクイとメガネを動かすシュナイダーの開発主任を任せられたキール・アスガータだ。後ろには助手を務めるラット・グラジルもいる。

「お前が、これを……?」

「ええ。レイヴンイエーガーズという組織が所有するシュナイダーに対抗するには、やはり新型を開発するしかありませんからね」

「…………」

 ガルディーニは整備班らが集まるディルオスに一回振り向いた後、改めてキールに顔を向ける。どういう意味なのか彼の頭の中は疑問に満ちていた。隣にいたメリアも彼と同様の疑問を抱えている。その答えを彼から聞こうとあえて質問せず、黙っていた。

「あなた方は、あのレイヴンイエーガーズのシュナイダーに負けたと聞いております。単純に性能差で負けたと言ってもいいでしょう。残念なことです」

「「…………!」」

 ガルディーニとメリアが負けた原因がシュナイダーの性能によるものだとキールは断言する。そのふざけた言い草に二人は一瞬、青筋を浮かばせるが彼が言っていることは紛れもなく事実であるため文句の言葉が一つも出なかった。

 ディルオスの性能はそんなに低いわけではないが、これまでの戦績を見ても性能が違いすぎることが一目で分かる。侵攻やテロリストの制圧の時は、シュナイダーに立ち向かえるものがなかったためそんなに性能に問題を指摘されるようなことはなかった。

 ただ、あれから五年経っていることもあって技術が独占されなければ他国に新型機が出てもおかしくない程だ。レイヴンイエーガーズの台頭によりその懸念が実現されてしまったのである。

 実際、アジア連邦に構えているヴァルトルーパーやゼルディン、今ここに置かれているヴィルギルトなど、本国では新たなシュナイダーを製造させている。

 元々、量産体制で製造されていたディルオスでは量産を無視したワンオフの機体では勝てるはずがなく、現実には荷が重い話なのだ。むやみに数で攻めるよりも機体性能を上げて差を縮めた方が得策である。

 だからこそ、この国で新型機を設計、製造させるに至ったのだ。

「ですが彼らの機体を調べない限り、対抗できるものは簡単には造れないでしょう。鹵獲するにもかなりの戦力と時間を要します。だったら、今ここにあるもので造り、対抗するというのが現時点での見解です」

「「「…………」」」

 キールはアルティメスを調べたいという欲求に駆られたのか、やや興奮気味に語っている。それでいて、現状について正確に的を射た発言にラットを含めた三人は黙って聞いていた。

「確かにその通りだが……策を講じずにこんなことをしているわけではないのだろ?」

「……ええ、もちろん。ましてや、技術者として無視できるようなものではありませんからね。私も燻っているわけにはいかないのですよ」

 ガルディーニの言葉はキールの真意を探るためのものだったのだが、それを予想していたのか、キールは技術者としてのプライドに関わるものだと語る。シュナイダーの開発を任されてからは、今までそれに携わってきたのだからなおさらだ。

 そして、今までの常識を打ち破るシュナイダーが現れたことは、彼にとって興味を抱かずにはいかなかったのである。自分以外にも革新ともいえる技術を持つ者が他国にいたことに対抗心のようなものを出していたそうだ。その時の彼の表情はまるで新しいおもちゃに喜ぶ子供のようだった。

「そこで新型機を造るというわけですが、それにテストさせたいアドヴェンダーを探しておりましてね……ど、こ、か、に、いませんかね~」

 キールは新型機のテストに適任できる者を探しているというわけであるが、彼にとっては単純にモルモットを探しているようなものだ。話を聞いていたガルディーニ達も、その意図が隠れることもなく見抜いていた。

 この話に裏があると思ったメリアはリスクを回避するため断ろうとするが……

「その話、受けさせてもらおうか」

「ガルディーニ卿!?」

 隣にいたガルディーニは断ることもせず話を承諾した。その意外な発言にメリアは目を丸くし、彼に視線を向ける。

 キールもガルディーニの言葉に豆鉄砲を食った鳩のように口を開けていた。少々驚いていたようだ。

「ほほぅ……! やはり悔しかったようですね。彼らに負けることが……」

「当たり前だ! 奴らを倒せるチャンスがあるなら……それに賭けるまでだ!」

 レイヴンイエーガーズを倒せる機会があることにガルディーニは怒りを表すように拳を握り締める。握りしめているのはおそらく倒された時の悔しさだろう。その溢れ出る感情が何なのかはキール達には理解することができた。

「本当によろしいのですか!? この男が言っていることは不安ですし、危険すぎます!」

「……お前はどうなんだ? あの若造に負けたままでいいのか?」

「‼ それは……」

 メリアは静止させようとするが、ガルディーニは彼女がレギルに負けたことを触れる。そのことにメリアは一旦押し黙ってしまう。彼女も味方だったとはいえ新型のシュナイダーに、ましてや年下に負けたなどプライドが傷つかないはずがなかった。その悔しさをガルディーニは理解していたのだ。ならば、このままでいる方がおかしいのである。

「このままでは殿下に恥をかかせたままとなる! ならば我々にはさらなる力が必要なんだ! これ以上奴らを付けあがらせないためにも!」

「ガルディーニ卿……」

 ガルディーニの檄にメリアは逡巡する。やられっぱなしでは貴族としてのプライドやアドヴェンダーとしての自信を失ったままである。ならばチャンスを待つよりも自ら作り出す方がまだましなのだ。

 メリアは決意を表した表情でキールを見た。

「私にも……テストを頼んでくれないだろうか? このまま黙って見ているだけにはいかないのだ!」

「いいでしょう。お二人が望むなら、いいものをお造りさせていただきます」

 メリアの宣言にキールはそれを聞き入れる。まるで計画通りと言わんばかりの笑みを浮かび上がらせながら。彼の後ろで見ていたラットは「あなたも人が悪い……」と心中呟いていた。

「では、さっさと取り掛かりましょう。彼らに一矢報いることのできるシュナイダーの制作に全力で!」

「「「はい!!」」」

 キールは改めて新型機の制作に入ることを宣言し、それに携わる整備班らも大きな声で返事する。

(首を洗って待っていろ、レイヴンイエーガーズ! 私たちの新たな力で叩きのめしてもらう!)

 新型機のテストを任せられたガルディーニとメリアは、どんな機体が出来上がるか、アルティメスにまた挑むことができることに意識を向けていた。

 ところが、キールは新型機の開発よりも敵対しているアルティメスのことが気になっており、それどころではなかった。

(しかし、これほどの完成度……造れるとしたら、あの人しかいないはず……。ですが、これは……)

 アルティメスを思い浮かべているとキールの表情がさっきまでとは異なり、真剣なものとなっていた。興味よりも疑念が強いのがわかる。

 もし自分達の想像を越えた技術を保有しているなら、彼らとの戦いは予想以上に長引くか、最悪敗北してしまう未来が来るかもしれないとキールの頭の中で無意識に浮かび上がった。

(これは……幸運と言うべきでしょうか……。どちらがより優れているのか勝負と言いますかね……)

 自身が想像した最悪の未来に、キールの身体中から冷や汗が浮かび上がり、恐怖を感じさせる一筋の雫となって彼の頬を伝う。今までの優位性を逆転され、今度は自分たちが窮地に立たされることに恐れを抱かずにはいられなかったのだ。

 しかし、彼の表情は次第に笑みがこぼれていた。無意識ではあるものの、それは彼にとって望んだものかは理解できない。だが、その表情を目にしたものには、それが喜びとはかけ離れたものとなっているのは間違いないだろう。

 死を呼び込む争いとは異なる戦場にて、類まれの才能を持つ技術者たちの戦いは既に始まっていたのである。


前話では顔どころか名前すら出なかったキャラを描くことに苦労しました。

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