ギャリアの悲劇
この話を読むときは心して読んでほしいです。
時はその悲劇の始まりにまで遡る。
今から五年前――エルマ達ガルヴァス人の故郷であるガルヴァス帝国にて、事故が発生した。
その事故とは帝国の、とある研究所にて実験が行われていた。ところが突如、研究所が大爆発を引き起こしたのだ。
それは世界を震撼させ、驚愕を呼ぶニュースだと話題を呼んだ。その詳細はこうである。
帝国は首都から遠く離れた土地にある研究所にて【ギャリア鉱石】と呼ばれる鉱物を使った実験を行っていたそうだ。
その使用されたギャリア鉱石とは、世界中の鉱山地帯などに発掘される鉱物であり、【ギャリアニウム】と呼ばれるエネルギーが地中内で結晶体として変化したものと言われ、他の鉱石とは異なる物質でもあった。
もっとも、その生成方法など原因が未だにはっきりしておらず、発掘するしか手に入れる方法などない。
そのギャリア鉱石に含まれているギャリアニウムとは、普段の生活などに使用されている電気エネルギーや化石燃料など、他とは比べられない程の出力を持ち、その鉱石の一欠片でも町中の電気を賄える程、強いエネルギーを秘めており、各国でも日夜研究が行われている。
それ程魅力的なものであり、その大半がガルヴァス帝国で見つかることも他国から恐れられる要因にもなっていた。
ところが、その事故が起こる前までは世界を、生命そのものを脅かすものであることには誰も気付きはしなかった。そして事故は起きてしまったのである。
ガルヴァス帝国の皇帝ヴェルラ・ライドゥル・ガルヴァスは研究所の大爆発が起きた後、すぐさま周辺にいる国民をできるだけ遠ざかるように退避させた。
そして、軍を総動員させて爆心地と周辺の地域との間に大きな壁を作り、爆心地を囲むような形で隔離させ、被害の拡大を防ごうとする。
皇帝ヴェルラは国民を爆心地から離れるように退避させた後、すぐに爆発の原因を解明するべく、調査隊を結成させ、調査を開始する。これを対処し、周辺の警戒を解くまで落ち着けば、また元通りの平和が戻ってくる。
ただ、各国から反感を招くかもしれないと断言しながらもそう信じていた。信じていた……はずだった。
その事故が後に世界中を巻き込んだ、ある悲劇を引き起こす事態となることは、この時は誰も知ることになろうとは……。
その爆発から時間が経ったその翌日、帝国内ではある変化が起きていた。
爆心地から離れ、避難した土地で静かに暮らしていた国民がいきなり苦しみだし、高熱や頭痛を訴える。その他にも鼻や口など粘膜から出血し、ひどい時にはさらに目からも出血していた。
さらに体内で圧力がかかっているのか、体から首筋にかけて血管が赤黒く浮き出ており、これは明らかに普通の症状ではない。
天然痘やインフルエンザなど疫病に近いそれは、下手をすれば命にも関わる病気であることを悟るには、そう時間はかからなかった。
すぐに手配された救急車に運ばれ、そのまま病院に搬送されたのだが、病院内は既にその症状を訴えるたくさんの人々で溢れていた。安静させるベッドはどこも満杯であり、廊下で横になるなど伝染病のごとく駆けつけてくる患者が増えていったのだ。
テレビの画面に映るのはニュースばかりで、病気に関する映像しか出てこない。次第にはそれを見る余裕さえ無くなり、外に出歩く人すら見かけなくなった。
今起きているのが伝染病に近いそれだと判断されるのだが、症状を見てもどの病気にも引っかからず、特定が難航する。
この異変に対し病院の医師達は急遽、患者のレントゲンを取りつつ血液を採取、および検査を進めた。調べた結果、とんでもないことが発覚したのである。
体の状態を知ることができるレントゲンに何やら大量の黒い点のようなものが心臓をはじめとする、たくさんの内臓を喰らい尽くすように映っており、血液の中には見たことがないウイルスが検出された。
レントゲンに映る黒い点こそがそのウイルスで間違いないのだが、どのウイルスなのか特定ができず、見たことも聞いたこともない新種のウイルスだと判断された。そのウイルスが患者を苦しめていたのである。
発見したとはいえその対処がわからない医師たちは、今も苦しむ患者に何とか鎮痛剤や解熱薬など軽い処方を施す。いかにも気休めに等しい行動だが、それしかできないことに医師達は心を痛め、異なる意味で苦しんだ。
何より事例が無いため対処が難しく、下手をすればさらに体に悪影響を及ぼす可能性もある。これが精一杯の処方であり、症状を軽くできればと医師達はそう願っていた。
だがそれは叶わぬ夢に終わり、すぐに悪夢へと変貌していった。
その翌日、例の症状を発していた患者が突然息を引き取り、死亡する事態に発展する。それを目にした医師たちは、すぐに同じ症状を持つ患者の治療を試みたがどの薬品にも効かず、亡くなる患者が増える一方であった。医師達の努力は虚しく、現在の処方では通用できなかったのである。
同じ頃、世界中でもそれと同じ症状を訴える人々が各地の病院内に押しかけ、同様に亡くなる事態が急増していった。また、治療に当たっていた医師達もなぜか同じ症状を発し、治療を担当する人手も少なくなっていった。
また、被害を受けていたのは人間だけではなかった。
実は動物や植物までにも影響し、動物の死滅、および植物の腐敗といった被害も各地で確認され、報告が後を立たなかった。当然、廃棄や収穫減少による食糧不足にまで発展し、国民への補給も困難となっていった。
この最悪な事態に、各国の首脳陣は緊急対策会議を実施、最悪のパンデミックに頭を悩ませながらもウイルスの感染を、混乱の拡大を防ぐための措置として感染者の即時隔離を行うことを決定。
同時に世界中の医師たちをかき集め、ウイルスに対抗するためのワクチンの開発を急がせた。
しかし、かき集められたのがたった数十名しかなく、そのほとんどがウイルスにやられてしまっていたのである。それでもウイルスを遮断するためのガスマスクを装着しながらも開発を続けた。
亡くなった患者の血液に含まれる恐怖のウイルスを解析してみた結果、かなりの感染力と致死性を持ち合わせた上、どの薬にも効きづらい耐性を持った最悪のウイルスだった。
そのウイルスは一度体の中に入り込むとウイルスが増殖し始め、瞬く間に体全体の臓器にダメージを与え続け、死に至らせていたのだ。
もちろん、人間以外の動物達も例外ではなく、同じような症状を出して死亡し、植物が感染した時には表面が黒く変色し、腐敗させていった。食べ物だけでなく、おそらく水源にも影響が及んでいる可能性も捨てきれず、人々は何も口にすることすらままならない状況に追い込まれていった。
それにより街は次第にウイルスに感染したかのように荒廃が進んでいった。さらに食料の供給もストップしてしまい、食べ物を漁り始める者も出てきた。
それでも時が進む中、この世界に及ぶ絶望の中心を巣食っている元凶が判明する。それはガルヴァス帝国の更なる調査により、とんでもない事実が発覚したものであった。
今回の爆発の原因は、世界各地に発掘されるギャリア鉱石に含まれているギャリアニウムが関係していたのである。
実はギャリアニウムにはエネルギーの規定が存在し、その規定の限界値を超えた出力を出し続けるとエネルギーの中で毒素が発生され、数分後には暴発する性質を持っていた。その毒素こそが新種のウイルスの発生源である。その証拠に毒素からはギャリアニウムのエネルギーと同一のものであることが検出された。
当時の実験でかなりの量のギャリアニウムを使用したためか、大量の毒素が発生し、爆発の影響により瞬く間に世界中へ散らばってしまった。さらには空気感染によって広がり、瞬く間に犠牲者も増大していったのだ。
しかも影響が食べ物や水にまで及んでいるあたり、その広がりはもはや止められる術が無く、人々はこの混乱にただ苦しむしかできなかった。
ただ、そのウイルスは人から人へ感染することはないことも判明したのだが、いつどこで毒素が体内に侵入して感染したのか分からず、判別する方法すらなかった。
さらに発症してもどの薬がそのウイルスに有効なのか、医者でも分からず対処も難航し、この凶悪な殺人ウイルスによって犠牲者を増やしていく一方だった。
しかし、転機が訪れる。絶望が加速する中、それを打ち砕く希望が灯されようとしていた。
あれから数ヵ月後が経ったその日、ガルヴァス帝国がウイルスに対抗できるワクチンの開発に成功した。
最初に自国にいる多数の感染者に投与した結果、症状が少しずつ良くなり、次第に回復していった。それと並行して、植物や水にも試したところ、効果が現れ始めたのだ。その結果に科学者らは久々に大喜びした。それは、初めて人類に希望が灯った瞬間である。
各国がその結果を知るとすぐにワクチンの量産を薦めた。新たにワクチンを培養させるにもかなりの月日を必要とされるが、成功できたことに歓喜に震えたのか医師たちはペースを考えることなくワクチンを造り続けた。
最初は数が少なかったのだが、次第にワクチンが量産され、現在も苦しむ患者達を救うために世界中の国々へ届けられた。
ただ、ワクチンが全世界に提供できるようになった頃には既に人類の総人口が四分の一も消失する結果となっていた。その四分の一とは当然、ウイルスの感染によって亡くなったり、ワクチンが完成されるまでや治療が間に合わなかったりなど、これまでに築かれた犠牲者の数であった。
それは天災、いや人災にも捉えられる、人類の歴史にも大きく残る、最悪で凄惨な出来事となった。人災と判断された理由は当然ある国が関係し、人々の非難がそこへ集中していった。
このウイルス騒動の中心であり、一番被害を被ったガルヴァス帝国は、自国に蔓延するウイルスの除去に乗り出そうにも、新たなワクチンを作ることに手一杯であり、ウイルスの駆除に手を回すことができなかったのである。
皇帝の親族であるガルヴァス皇族らも、ある程度ワクチンを摂取することで命を取り留めることができたが、あくまで死を遠ざけるだけであり、一向に事態が収束されたわけではなかった。
しかし、ワクチンの効力によって食べ物や飲み水の汚染も少なくなり、騒動は一旦収束の目処がついたのだった。
それから数日、世界各国の首脳陣はあらゆる生物や植物を死に至らせるこのウイルスを、ギャリア鉱石に含まれるギャリアニウムから生まれたという経緯から、【ギャリアウイルス】と名付けられた。
さらにウイルス発生の元となった、あの事故が起きた日を【ギャリアの悲劇】と呼ばれるようになり、人類の未来にも大きく影響を及ぼしたこの事故は歴史に、世界中の人々の記憶に深く刻まれることになった。
そして、その悲劇を起こした爆心地には大きな墓標が建てられた。ワクチンの完成するまでの瞬間のために払った犠牲は大きく、墓標には亡くなった人間の名前が刻まれることはなかった。代わりにその人に対して鎮魂を表すような文が刻まれた。
世界は仮にも平穏を取り戻すことになったが、ウイルスは未だに根絶されたわけではない。現在もウイルスの感染が確認され、対処が間に合わず、死亡するケースも決して少なくはなかった。ウイルスの勢いが地球全体に広がったからだ。
また、新たにワクチンを開発するには現在も開発されている施設も少なく、数も限られていることから市民に定期的にウイルスの検査を行う必要があった。もちろん少量のワクチンを投与し、感染のリスクを減少させる狙いもあるのだが、国民はそれを反対することなく、ウイルスに抗うことを決めていた。
ワクチンの培養が進めれば、各地のウイルス汚染も浄化できると人々は信じた。かなりの時間を要することとなるものの、ようやく平和が取り戻しつつあると誰もがそう思っていた
——はずだった。
それはとある国が突然の武力介入を行使したためである。その国とはギャリアウイルスの被害を最も受けていたガルヴァス帝国であった。
帝国は突如、蔓延しているウイルスによる感染を防ぐために国民を世界中に移住させるという名目で宣戦布告を行った。
今でも感染の危険性があるからか、ガルヴァス帝国は国民に危険を及ばないように他国へ移住させる、さらに騒動の原因となったギャリアニウムの管理を自分達で行う、という名目の元、各国への宣戦布告を命じたからだ。
ウイルスを広めてしまったからこそ責任を自ら取るという清々しいものだが、自棄にも近しい強引な措置の押し付けに各国は受け入れることすらできなかった。
実際、帝国内で今もウイルスに苦しむ国民も数知れず、自らの血を分けた子供達にも被害が及ぶ可能性があり、皇帝もその苦しむ姿を見たくなかったであろう。
人命を尊重したその理由には、日本をはじめとする各国も大いに理解できた。それは彼らも同じである。
しかし、各国は最後までその要求を飲むことができないことを表明した。それは要求が身勝手すぎると判断されたからであり、冷静さを疑いたくなるものだからだ。
要求を取り下げられた帝国はその思いを蔑ろにされたと憤慨し、ついに武力行使を実行する。そして、世界中を巻き込んだ戦争へと発展していったのだ。
ガルヴァス帝国が宣言した戦争は、激化の一途を辿った。
ただでさえウイルスの件で疲弊し、人口が激減していながらも各国はそれぞれ帝国が持つ軍事力に真っ向から対立し、抵抗を続ける。
未だにウイルスが世界に漂っていることを頭の隅から放り出したまま激しい戦闘が続き、それぞれの国の兵士たちは終わることのない争いに傷つけていく。最悪、何も言い返すことすらできない、あるいは原形を留めていない骸を山のごとく築き上げ、人口もさらに減少していった。
両者の戦力が拮抗する中、帝国はこの状況を打開するために彼らが造り出した最新兵器を投入する。それにより戦況は一変し、荒波のごとく敵軍を飲み込んでいった。
人型機動兵器『シュナイダー』――帝国が開発した機械の巨人は圧倒的な性能を見せつけ、敵軍を瞬く間に窮地へと追い詰めていったのだ。
元々、シュナイダーは兵器として造られるはずはなかったのだが、帝国が保有する兵器の中でも高い有能性を持っていた。その後押しもあって、帝国の宣戦布告の後に行われた各国への軍事介入に投入されることとなった。
目論見は見事に成功し、介入したその場から瞬く間に圧倒的な性能を見せつけ、敵軍を制圧したのだ。
シュナイダーを投入した帝国の圧倒的な軍事力の前に各国の首脳陣は苦悩し、これ以上犠牲を増やすわけにはいかないと決断、敗北を宣言する。
同時に帝国の軍門に降り、国は帝国に管理される事態となってしまう。
それにより本国にいる市民の過半数がウイルスの感染を避けるため、本国が侵略(表向きは確保)した国に移住することになった。
元々、祖国に住んでいた人間にとっては迷惑でしかないのだが、国が敗北を受け入れた故か一向に逆らうことができなくなってしまう。今でもウイルスの脅威にさらされているにも関わらず、帝国民による不遜な態度を受け入れなければならないという一種の差別に、彼らはただ苦虫を潰すしかできなかった。
野生のジャングルで別の動物に自分のナワバリを取られていくように彼らの居場所は段々と追いやられていった。その結果、生まれ育ったはずの祖国に不信を抱く者が増えていったのだ。
また、帝国のあまりにも強引な手段に反対する者も現れた。
しかし、帝国はその抵抗を許さず、物理的に鎮圧させることもしばしばあった。これに乗じて武力による抵抗を示す反抗勢力(通称:レジスタンス)が各地に現れ出し、その地に留まるガルヴァス軍への反攻を開始した。
帝国もまた、反発するレジスタンスの鎮圧に乗り出す。無用な血を流させ、命が無慈悲に散らされる紛争は、終わることもないまま続けていった。
紛争が続く一方で、ウイルスによる被害もたびたび確認された。しかし、ワクチンを使った除去と同時に、帝国は支配をさらに強め、混沌な状況は続いていった。
残酷にも時は止まることもなく動き続け、もはやこの支配は誰にも止められないのだと自覚するには時間がそうかからなかった。
そして時代はその真っ只中であり、ワクチンの摂取で命を取り留めているにも関わらず、環境が改善される様子はほんの少ししか見られない。環境改善のための交渉を進めても、無駄な時間を浪費するだけであり、事態は過酷さを増していった。
さらに、不毛な争いで人の命が戦場で無残に散ることが増えていき、さらに人口が減ることも否定できない。その負の連鎖は、止まることができなかった。もはや人類は滅ぶしか残されておらず、ただ絶望の前に跪くしかない。もはやカゴの中で強者に飼われるしか方法は残されていなかったのだ。
一方で生き残った人々に、ある異変が起きた。だがそれは一瞬で、すぐに煙のごとく消えていったのだが、一部の人間には都市伝説として噂されていった――。
この話から感じられることは、まさしく『恐怖』、『地獄』と思われてもおかしくありません。
自分が言えることは、これはただのロボット小説ではなく、死という恐怖の中で生きる者たちの戦いを描いた物語であり、生存をかけた戦争を描いた物語でもあります。
また、この物語の敵勢力を描きましたが、自分ではまだその一端に過ぎません。まだまだ全貌は、当分先になりますので、心してお待ちして頂ければいいと思います。