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レイヴンイエーガーズ 漆黒の反逆者  作者: 北畑 一矢
第2章 動き出す者達
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カラス達の巣

アルティメスの秘密に迫ります。

 会議が終わり、紅音、リンド、アレンの三人が廊下を歩く中、アレンが声をかける。

「見事なフォローだな、リンド」

「あれ? アレンが褒めるの珍しいね」

「率直に言ったまでだ」

「アレンは堅苦しい言葉しか言わないからね……」

 リンドのフォローにアレンが褒める。そのことをリンドは不思議がる。だが、ルーヴェが心配するよりは気を楽させるほうが良いと思ったのだろう。そのことには茜も同意した。

 アレンは口数が少ない方だ。実際、言いたいことを簡潔に終わらせるし、言葉を飲み込むことが多いのだ。反対にリンドは口数が多く、それでいてムードそのものを変えてしまうことが多い。それ故に味方からも誤解されやすかった。しかし、それがいい方向に転ぶのも事実である。もっとも、リンドのそれが天然かどうかは知らないが。

「まあ、焦ることはないってことよ。……まだ始まったばかりだし」

「ええ、始まったばかり、ね……」

「元気ねえな、茜」

「アンタが元気すぎるのよ! そんなペラペラとした、その言い方が!」

「…………」

「オイオイ、気負うなって。変に気負うよりはマシだけど」

 リンドの調子を狂わせるような言い方に、茜はこめかみに青筋を立てる。だがリンドは決してふざけてはいない。茜は行動を共にするメンバーがこんなお気楽者を相手にすることに疲れていた。そこにリンドをかばうような発言する者がいた。先程リンドを褒めていたアレンだ。

「お前の気持ちは分からんでもない。だがその気持ちは俺達も同じだということを忘れたのか? ここにいる者達は皆、故郷という名の世界から分離させられたからこそ、ここにいる訳であって……」

「ハイハイ、その説教は聞きました!」

「ルーヴェを見習ってほしいものだな……」

 茜はアレンの言葉に心底面倒そうにする。また頭がヒートアップしかけたようだ。その点で言えば、茜の欠点であった。"俺達"とあるあたり、ここにいる者達は何か理由があるのは間違いない。それこそ"生け贄にされた"というのだが……深い闇を感じさせるには十分である。

「ところで、ルーヴェは?」

「いつものところじゃない? いっつもあそこだけど」

「記憶も何もないっていうのに……」

「変にショックを与えるよりはいいだろ。お前のようにはならないし」

「アタシのようにってどういうこと?」

 茜はまたこめかみに青筋を立てる。なかなか相手をイラ立たせる言い方だ。リンドは相手の気を変えさせる天才なのは違いないだろう。本人は自覚しないだろうが。

 彼らの言葉通り、ルーヴェは今、彼らと一緒にはいない。大抵はとある場所にいるらしい。会議が終わった後も真っ先にその場所へ向かっていったのだ。彼曰く、「心が落ち着く」らしい。

 それは心が空虚であるか、もしくは記憶を持たない故かどうかは誰にも分からない。なぜなら、彼らがルーヴェと出会った当初からそうだというのだが……それを今聞くのは野暮というものだ。



 海に囲まれた広大な島の、そこら中にある絶壁にポツリと立つ一人の人間がいる。その人物とは、黒い制服に銀色のメッシュが入った黒髪の少年――ルーヴェ・アッシュ。なぜここにいるのかというと、たまに彼はふらりといることが多いのである。

 その視線の先には美しい青い海が広がっていた。死をバラ撒くウイルスに今も汚染されているとは思えない程綺麗であり、太陽の光に反射されて輝いていることからこの世界がまだまだ死んではいないことを証明させていた。

 大空には複数の白いカモメが鳴きながら羽ばたいていて、元気に飛び回っている。また、島に流れ込む海水が絶壁に跳ね返って、ザザァッと高い音と共に波を立てている。ルーヴェはその音を聞きながら自然を感じていた。そこに一人の少女が彼がいる場所にやってくる。

「また、そこにいたんですか」

「! 双葉……」

 ルーヴェが初めて戦場に赴く際、スピーカーから通信をしていたオペレーター、笹波双葉だ。

 彼女はオペレーターを担当をしている他、島の周辺の異変を監視する役割もしている。だが今は彼女と同様にオペレーターを務める別の人物に交代させてもらっている。その人物とはもちろん、彼女と作業を共にしている五人である。

 現在はその内のオペレーター二人が監視を行っているが、定時で役割を分担してもらっている。双葉もそのローテーションに入っているものの、監視は別の人物に交代させてもらい、今は休憩に入っていたところである。

 彼女がここにいる理由は、ルーヴェが外に出向くことを知ったためか、彼の後ろを追いかけていたところであったからだ。ここならそよ風に当たれることには間違いなく、リラックスできることには十分である。双葉も何だか気持ちよさそうに風に当たっている。

「確かにここなら安らぐね。……いい所。でも、たまには皆と一緒の方がいいんじゃないの?」

「でも僕に出来ると言ったら、シュナイダーを操ることしかないし……」

「だからこそ、新しいことを見つける! 何も無いよりは、何かを作る方がいい時だってあるの!」

 双葉は彼が気に入る場所のいいところを褒め、別のことに耳を傾けようとする。ルーヴェは訝しい表情をしたまま、それを否定してしまうが双葉は食い下がりながらそれでも新たに思い出を作ろうと説得を続けた。

「だけど……僕達は今、世界にケンカを売ったよね? そんなことをしていいわけ?」

「だからこそ、よ。ルーヴェも、何もわからないまま死ぬのは嫌よね?」

「…………!」

「今の私達には生きる場所はないかもしれない。実際、私達は皆、こんな体だしね……。でも、このまま死ぬなんて絶対に嫌じゃない! だから、絶対に生きなきゃならないの!」

 双葉はルーヴェに言葉を向けたまま、視線を自分の胸に近づけた右手に向け、グーの形を作るように握る。彼女の正論にも近しいその説得に耳を傾けると、ルーヴェは思わず躊躇ってしまう。自分だって何も知らないままでは終われないのだ。"生きる"という言葉はルーヴェの絶対零度にも近い程の冷たい心を揺り動かすには十分であった。

「確かに、何も知らないまま終わるなんてゴメンだよ。だからこそ"生きる"だよね」

「ええ」

「僕達が今やらなければならないのは――この世界を救うことなんだから」

 ルーヴェは崖から見える光景を背にするように視線を後ろに振り向ける。その瞳には力強い印象があった。双葉もコクりと頷く。しかし、二人の顔つきには明らかに場違いと呼べるものがそこにあった。

 それは……二人の顔にいくつもの細い線が流れるように浮かび上がっていたのである。その細い線はよく見ると首筋から出ており、頭へ登るように浮かび上がっていた。おそらく体全体に流れていると思われ、普通ではないのがよく分かる。

 また、異なる点がもう一つ。それは体に浮かび上がる線である。双葉は赤く鮮やかに光り、ルーヴェは赤とは異なる青白く光っている。

 実はここにいる者達全員がそうであり、明らかに人とは異なる理由には十分であった。ただこの場にいるルーヴェだけが、青く光るのは理由がわからない。もっとも、青い光を放つのはルーヴェだけではないのだが……。実は、これが生きる場所がないということにも繋がっているのだが、その秘密は別の話である。



 一方、島の内部に隠されている格納庫内では四機のアルティメスが立ち尽くしている。そして今、周囲にいる作業服を着た人間達によって調整を受けていた。それを壁に背中を預けて作業員達を見ていた男――アルティの整備長である車田岩男は言葉を漏らした。

「……ったく、とんでもないものを造ったもんだぜ、ドクターは……」

 アルティメスのシュナイダー・フレームはディルオスやヴィルギルトのフレームとは構造が似ており、調整も難しくはない。なぜなら、ディルオスのシュナイダー・フレームを基としており、データにも反映させていたからである。

 車田が口にした「ドクター」とは当然、アルティメスを造った創造主である。もっとも今は、ルーヴェ達レイヴンイエーガーズがいるこの島にはおらず、別の場所にいるらしい。その人物は何かの研究をしているとか……。そのことをルーヴェ達が知る由はない。

 その創造主が造ったアルティメスはそれを動かす主人がいない今は、巨大な鉄の人形と化している。それを動かすには、その主人と呼べるルーヴェ達の体にある、"あるもの"が必要だとか……。

 その"あるもの"とは必ずしもこの世界の人間全てが持つものではなく、ルーヴェ達が"カラス"と呼ぶ理由でもあるらしい。もし、それが世界にバレれば、この世界に生きる人間達は違う意味でパニックに陥るのは間違いないだとハルディは睨む。それこそがルーヴェ達が集められた理由でもあるのだが……。

 そのアルティメスの周りにいる作業員達は用意された工具を駆使して調整を行っている。そもそも機械は人間の手入れ次第で調子が変動することがある。当然、アルティメスも例外ではない。調整を務める作業員達の腕はもちろん高いわけではないが、彼らの調整がアルティメスに影響されることはなかった。

 アルティメスの胸部にはある動力機関が設けられており、そこから強大なエネルギーを生み出していたのである。その動力機関とは"ゼクトロンドライヴ"と呼ばれる機関――すなわちアルティメスの"心臓"である。一般のシュナイダーが持つギャリアエンジンとは構造も材質も異なり、明らかに別物であった。もちろん、「ドクター」の傑作である。

 ゼクトロンドライヴが生み出すエネルギーはギャリアエンジンのエネルギーをはるかに超えており、ディルオスでは歯が立たないのも明白であった。そういったものは核といった危険の代物でも使ってもおかしくないのだが、もしそれが暴発すれば世界そのものを危険に晒すことには変わらない。だからこそ、ガルヴァス帝国は別のエネルギーとしてギャリア鉱石に含まれているギャリアニウムを使用したわけである。

 もちろん、ゼクトロンドライヴにもギャリア鉱石もとい、ギャリアニウムが使用されている。しかし、ゼクトロンドライヴにはある仕掛けが施されており、暴発による危険を見事、解決してみせた。その仕掛けとは誰もが知る電気バッテリーの併用である。

 電気バッテリーの併用により、ギャリアエンジンよりも高性能の技術を取り入れることに成功したのだ。さらにその副産物も生み出され、ハルディ達にとっても嬉しい悲鳴を上げていたことは間違いないだろう。それはこの世界を救うこと――この世界の腐敗を取り除くことにも繋がることでもあった。

 そのゼクトロンドライヴを最大限に生かすためのシュナイダー製作にも力を入れた。そのフレーム部にもガルヴァス帝国でも開発・発表されてもいない最新の技術を組み込んでおり、それだけでも他国からも数歩リードしていた。その過程を経て創り出されたのが"アルティメス"であった。

 狩猟の女神"アルテミス"――ギリシア神話に出てくる女神の名を与えられた機械人形は、世界を救うために腐敗を狩る存在として生み出されたのだ。腐敗を喰らうという点については、カラスにも共通していた。それがレイヴンイエーガーズという名前にも繋がっていたのである。

 強大なシュナイダーとして、最初に生み出されたのが"クロウ"である。アルティメスの基盤となったその機体は、他のアルティメスと比べると特徴が少ない。これは最初に生み出された試作機である面を持ち、性能をフルに生かすための措置でもあったのだ。誰でも扱えるわけではないが、レイヴンイエーガーズのメンバーならば問題はなかったのである。

 そのクロウになぜルーヴェが乗ることになったのかというと、アドヴェンダーとしての適性が一番あったのが理由である。その適性とは、シュナイダーを操る上で欠かせないものであり、その適性がある者こそがシュナイダーを操ることが出来るのだ。ガルヴァス帝国のアドヴェンダーであるガルヴァーニやレギルも、その適性を持っている。

 ルーヴェが適性の検査を受けたところ、レイヴンイエーガーズのメンバー内でも高い数値を誇っていたのが原因であった。その時点でクロウのアドヴェンダーに選ばれた理由わけでもあるのだが、ルーヴェが「乗っていた方が何か思い出せるかもしれない」と呟いたことも後押しさせていた。

 続く茜達も高い適性を持ち、新たに建造されたアルティメスのアドヴェンダーにも選ばれている。当然、その周りにいるメンバーも納得しており、その上で彼らのサポートに徹することにした。その甲斐あってか、レイヴンイエーガーズは組織として成り立った訳でもある。

 その彼らがいる島はレイヴンイエーガーズのメンバー以外は誰も知らない。いや、この世界の地図にも表示されてもいない。そこはまさしく、"カラス達の巣"と呼んでも不思議ではなかった。

 キイイイン!

「!」

 それは誰が声を漏らしたのか。その低い音は誰にも聞こえるわけではない。そう感じたのだ。その証拠にレイヴンイエーガーズのメンバー全員が、顔の一部に複数の赤い線が光っていた。

 そして、誰もいないはずのクロウがいきなり二つの紅い瞳を光らせた。他にもクリムゾン、トワイライト、そしてヴェルデもそれぞれの瞳を光らせる。しかし、その主人であるルーヴェ達はここにはいない。にも関わらず、クロウを含めたメンバー全員が反応しているのは誰かが"信号"を出していることにもなる。その信号を出しているのが誰なのかはそこにいる誰もが知っていた。

「ルーヴェか……」

 茜がふと声を漏らす。その人物の名だ。その近くにいたリンドやアレンもそれに感づいている。その証拠に三人も顔の一部が赤い線がいくつか流れている。そこから感じ取るものは強い意志であった。

 そしてルーヴェは島へ流れる風を受けながら広大な海を見る。その近くには双葉もおり、彼を見ている。ルーヴェの瞳には炎のような輝きを宿していた……。


アルティメスの秘密がいきなり発表することになりました。まだ序盤という展開ですが、どうしてもその知識は外せません。でもまだまだ秘密があります。それに関してはまだこの先ということで。

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